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時をかけるのは、悪役令嬢  作者: コノハナ咲夜
22/26

さあ!決着をつけましょう。【中編】

「!?」

「あなたが来ることは知っていました。お嬢様がお待ちです…が、少々洗礼は必要ですわね。」


メイラは女性らしい柔軟さで20センチほどの金属の武器を両手に握ると犯人に襲い掛かる。


「え!?」

驚きに狼狽える犯人は一目散に廊下を走り出した。


『セイバス、そちらに行きましたわ。』

『はい。見えてまいりました…よ!』


メイラからの伝言に答えながらも、年齢を感じさせないジャンプからの飛び蹴りを繰り出すセイバスに、犯人は体制を崩し、動きを止めざるを得ないようだ。


「ちっ」


舌打ちと共に腰の剣に手を掛けた犯人の手を、歩きながら追ってきたメイラの武器が掠める。


「痛っ。くそっ!」


犯人がまた走り出す。

右にメイラ、左にセイバス。

残された道は間にある階段を登るしかない。


『ルイコス、任せますよ。』

『おう。』


途中に逃げ道などない階段の一番上にいたのはルイコスだった。


「流石、お客人。この先にあるのはこの屋敷のご子息方の部屋だけだ。よく、迷わずに来られましたね。」

「げ!ルイコス元騎士団2番隊隊長?」


犯人に名前を呼ばれ、ルイコスは笑う。


「よくご存知で。ああ…アイツから聞いたのか?じゃあ、本当の俺の情報は知らないままだな?」

「本当の?」


ルイコスが軽く睨むと犯人の動きが止まった。

「俺の本当の実力は、相対した奴しか分からないんだよ。」

そう言ったルイコスの言葉が犯人の耳に届いた時には、ルイコスの剣の束の部分が犯人のみぞおちに食い込み、犯人は呆気なくその場に倒れた。


「うん。見事なチームプレイだったね。」

拍手をしながら近付くクリスティンは徐ろに犯人の口に大量の水を流し込む魔法を使うと、窓から逆さに吊るすように足を持って振ると、「ぐふぉっ」と大量の水と一緒に小さな魔石が吐き出されたのを確認し、ルイコスに犯人を投げた。


「服毒は防いだから、あとは舌を噛み切らないように縛っておいて。」


ルイコスが犯人を抱えると、セイバスが手際よく縛り付けていく。

口元にも舌を噛めないように丸めた布を突っ込む中、メイラが掃除をしながら合流した。


「気配は全て浄化完了です。」


メイラは小さな領地の教会にある孤児院で育った孤児だと聞く。

物心ついた時から染み付いた神への信仰心が、最近はリーネに向いているらしい。

少し変わったメイドだが、仕事は出来るとリーネが言っていた。


「お嬢様の通り道は綺麗にしなくては罰が当たります。」

「ああ…ありがとう。リーネの代わりに礼を言うよ。」


クリスティンが苦笑いを浮かべた所で、一部始終を魔道具で見ていたリーネから招集の言葉が届く。


『次の作戦に移行するから、みんな一旦集合よ。』





屋敷全体に防音魔法をかけているらしいリーネが、魔道具を覗き込みながら言う。


「外の…少し離れた場所に停まっている馬車が戻らないと、十中八九真犯人が次の動きを始めるわ。でも、それがいつになるかが分からないのは、ちょっと面倒臭いじゃない?だから、あれで行こうと思うのよ。お土産は、ほら…そこに出来たし?」


リーネの言い草に一同から笑いが溢れる。


リーネがお土産と指を指したのは、気を失ってグルグル巻きにされた一人の男だ。


屋敷に侵入して、リーネを殺して戻るまでの時間を逆算しても、今すぐに出ないと間に合わないことは確かだ。


「じゃあ、行くか。」

「ええ。こちらから訪問して差し上げましょう。」


ニコリと笑うリーネをクリスティンが手を引き、立たせた。

ルイコスが先回りして、例の馬車を見に行ったようだ。




「私たちも行こう。」

ずっと眺めていた魔道具を片付けながら、後ろに待機していた侍従に声をかければ、

「馬車の準備は出来ています。殿下。」

ニヤリと笑い、頭を下げたのだった。

こちらの手土産もぐったりしていた。



「こ、これはこれは…シルベスター王太子殿下にローズレン公爵ご子息方、こんな朝早くにいかがなさいました?」


城下の神殿に着いた途端、慌てた様子で神官の一人が走ってくる。


「我が家に不法侵入しただけじゃなく、私の可愛い妹リーネの命を狙った神官をわざわざ返しに来ただけだ。今の責任者である教皇様に案内してくれる?」

「ボ…ボルン?!」

優しい口調とは裏腹なドス黒い圧をかけながらクリスティンが神官に言うのを、私は吹き出してしまう。


あの者の名はボルンといったのか。確か…先日、リーネに大きなことを言っておきながら、ルイコスに怯えた神官見習いがいたとリーネが言っていた。

『まさか、私をとっちめに来るなんてね…。』

そう呟いたリーネが可憐すぎて、私自身は役得だった。


「なにか面白いことでも?王太子殿下。」

「いや、クリスティン様は妹思いだと思っただけですよ。」


クリスティンは昔からリーネを大事にしていた。

そんな彼がリーネの家臣になるだろうことは昔から予想していたことだったが、まさか魔法陣をねだってきたと聞いた時は、『ただでは起きない』と関心した。


しかし、私とリーネだけの特別な場所となっていたミドーグチ宅にクリスティンが入ってくるのは…微妙な気持ちになる。


「…シルベスター王太子殿下は…?」

神官がおずおずと尋ねてきたので、私は「ああ。」と思い出したように答える。


「教皇様にご家族を連れてきただけだよ。なかなかに面倒なことをしてくれたからね?ちょっと、家族会議に口を挟みたくて。」

「かかか…カーネリアン公爵?!」


見る見る神官の顔から血の気が引いていくのが見て取れる。


それもそうだろう。

先日は神殿長が連行されたかと思いきや、今度は教皇だ。

神官なら、この神殿の今後に不安を抱くのは当たり前だ。


「ああ…そうか。神官たちにも他人事ではないよね。良かったら、みんなも同席したらいいよ。」

「それは素晴らしい案ですわ!シルベスター様!」


私の隣で絶賛してくれるリーネだが、元々リーネの案だ。


『神官たちの同席をお願いするわ。膿は全て潰してしまいたいもの。』




神殿の奥、祭壇の前に教皇はいた。


私たちの姿を見るなり、教皇は力なく笑ったが…その顔はまだ諦めていないようにも見える。


「私の特異魔法を交渉に使うつもりなのですわ。だから、余裕なのかと。…ただ…」

「ん?」

言葉を止めたリーネを見れば、扇で口元を隠してはいるが、明らかに悪戯っぽく笑っているのが見えた。

「彼に見えるのは彼自身の思い込みですわ。そして発動する際には魔力量を大量に使うのかもしれませんわね。…だから、彼が思っている私の特異魔法は事故後すぐには、別世界への転移だったけれど、昨日は記憶の操作でした。そして今日はまだ見えていません。」


彼女に言われて調べた結果、魔力の流れを見るための魔道具は、昔から存在することが分かった。

古くからいる魔道士たちの話では、数十年前に魔道士庁にあった貴重なその魔道具が、当時の魔道士の一人が神殿に寄与したと言っていた。

その魔道士は神に心酔していた為、神の言葉だと言って聞かなかったという。

魔道士たちも、また作れば良いと考え、大して気にもしていなかった上に、他に興味がいくと記憶に残さない魔道士ならではの特性が災いして、すっかり忘れていたのだとか。


罰として、魔道士庁は近々大掛かりな大掃除を実施することにしてやったが。


それにしても…

「なぜ、今日は見えていないと分かるんだい?」


私の疑問に、リーネはうふふと笑ったかと思うと


「あのですね…私の通った後から神殿から逃げ出せないようにと、どんどん施錠の魔法をかけながらきたのですが、まだ誰も気付いていないんです。今、全ての扉と窓に掛け終わりましたわ。」

「!!」


リーネの魔力量は私以上に増えたのではないか?

今度、調べてみよう。


私はそっと決めた。

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