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時をかけるのは、悪役令嬢  作者: コノハナ咲夜
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さあ!決着をつけましょう。【前編】

「それは、建設的ではありませんわ。それに、効率も悪いですわね。」


マユが不安そうに私を見つめてくる。


それもそのはずだ、マユのゲームでの情報によれば、私は今夜…と言っても、朝番の侍従たちが動き出す朝方に、狙われるらしいのだから。


決して安全とは言い切れないが、隠れ蓑を用意できる絶妙な時間を選ぶ辺りに、真犯人の姑息さを感じずにはいられない。


「マユが私を心配してくれるように、私も私の侍従たちが心配なの。今は、クリスティン兄様もいますから、最悪はないと思います…兄様は最強ですから。それに、ルイコスも強いわ。セイバスは頭がいいし。メイラは勘が働くの。私の大事な侍従たちに無駄な心配はかけたくないわね。」


私の意見に、「理想の上司かよ。」とミドーグチが笑う。


ジョーシとは何でしょう?


「確かにリーネの言う通りだね。だが…マユの気持ちも、私にはよく分かる。ありがとう。」


シルベスターがマユに頭を下げ、マユが首を横に振りながら涙目になる。


「クリスティン様に任せてばかりだと、私の将来が少々不安になるので、私もしっかりリーネを守る。安心しろ。」


シルベスター様の言葉に、私は笑いがこみあげた。

私の右腕になると言った兄様は、将来は私の専属家臣になる予定だ。

そんな兄に毎日会うことになるシルベスター様が警戒するのは…幼い頃の名残りだろう。


私と視線を合わせたシルベスター様の手が、私の髪を優しく撫でる。


「まぁ、王太子ならそう言うと思ったよ。」

「ああ、呼んでくれて助かった。ミドーグチのお陰で、私にも見えていない真実に気付く事ができたからね。感謝する。」


あら、シルベスター様とミドーグチはなんだか信頼し合っているみたいですわ。

少し…妬けます。


「男にまで嫉妬するな。リーネ。」

ミドーグチに見事に指摘され、飛び跳ねて私が驚くのを

「私はリーネに嫉妬されるのは嫌ではないよ。でも、私の心はきみだけだ。」

「シルベスター様…」


「じゃあ、一つだけ提案させて!リーネ様の味方だと確定している人たちにだけは記憶を戻してください。いざと言う時には、迷わず自分の判断で動けるように…。」


マユが私にこういった発言をするのは初めてだわ。


「マユが言うのも納得だね。元々は私の力不足が原因の結果だ。リーネ、私からもきみの専属には記憶を戻して欲しい。」


シルベスター様の情けなくも優しい表情に、私はくすりと笑う。


「分かりました。」


「じゃあ、解決の現場に戻ろうか。」

「はい。シルベスター様。」


シルベスター様に手を引かれ立ち上がった私に、「あ、リーネちゃん!」とミドーグチの母親が走ってくる。


「これ、持っていって。疲れたら飲むのよ。シル君もね!」

「ぷっ。栄養ドリンク!」

マユが笑い出す。

「ああ…色々元気になるから、王太子は気をつけろよ。」

ミドーグチはシルベスター様に『滋養強壮』の文字を指さして笑った。


滋養強壮って、何でしょう?


見れば、シルベスター様の顔が真っ赤に染まっている。

「シルベスター様?」

「いや…リーネには関係なくないが…大丈夫、こちらの話だよ。」

シルベスター様の様子が少し変だ。


ミドーグチが楽しそうに笑うのを、マユが呆れた顔で見ている。


「仲良くなられたのですね?」

「「「え?」」」

3人の声が重なる。


「みんな仲良しは良いですね!」




シルベスター様と部屋に戻った私は、呼び鈴でメイラを呼び出した。

こんな時間にいつの間にか私の部屋にいたシルベスター様を見て、驚いた顔をしたけれど

「こっそり、クリスティン兄様とセイバスとルイコスを呼んでくれる?こっそりよ。」

と私がお願いすると、頷き

「任せてください。」

と走り出した。


しばらくしてやってきた三者三様な表情を見せる私の専属たちに、シルベスター様はクスクスと笑っていた。

メイラはいそいそとお茶を準備してくれていた。


「なぜ、こんな時間に王太子殿下が?まさか、リーネが呼んだのか?リーネ、お前は確かにお転婆だが、女性なんだからもっと自分を大事にしないと駄目だ。」

目を見開き説教を始める兄様を、私はソファに促すと、

「はい。私は私を守るために、今から使う魔法を兄様にはお見せしますわ。だから、私をずっと護って下さいませね?」

「…は?まぁ…お前の家臣になるからずっと護ることにはなるが…は!?!?」


混乱が終わりを見せない兄様を置いといて、私は魔法を発動する。

瞬間、メイラ、ルイコス、セイバスの身体が一瞬内側から光ったかと思うと


「あれ?何で事故のことを忘れていたのでしょう?」

「メイラもか!あんな大事な事件を忘れていたなんて…私としたことが!はっ!真犯人まで辿り着く寸前だった!」

「ああ…お嬢様、私はなんて愚かな…」


オロオロし始めたメイラ、今にも出ていきそうなルイコス、床に膝をつき落ち込むセイバスを目の前に、クリスティン兄様は絶句した。


「これが?」

「はい。私の特異魔法です。」

「確かに…凄いな。」

「今回は絶対にリーネを裏切らない、この者たちだけに記憶を戻した。…決着をつけるために。」

シルベスター様の台詞に、そこにいる皆が顔を上げる。


「どうやら私、明朝早くに命を狙われますの。そこで、みんなの協力を願います。柔軟且つ、迅速に犯人を捕まえ、事件を終息させますわ。」

「「「「な!?」」」」


「シルベスター様はそろそろ戻られませんと。」

「ああ…明日は約束通りに。」

「ええ。頼りにしてますわ、私の未来の旦那様。」

「任せとけ。私は未来の奥さんをがっかりさせないよ。」


シルベスターはにこりと笑うと帰った。

その一連の様子を見た専属たちは言葉を失ったように、その場がシーンと静まりかえった。


「つまり…今回成功すれば、私たちは一生リーネの傍にいなければならず、失敗すれば、リーネを失うわけだ。」

「そんなの!どんな条件でもリーネお嬢様に付いていきます!」

「私は騎士団を脱退した過去がありますが、可能な限りリーネお嬢様の傍に居たいです。」

「私は…旦那様の執事ですが…お嬢様の執事に鞍替え出来るのでしょうか?」


セイバスの質問に、クリスティン兄様は少し考えた後、「信頼できる後継を見つけられるのなら。」と答えるに留まった。


私は愛されてますわね。


うふふ…と笑っていると、兄様が私をジロリと睨み、説明を求めてくる。

「そうですね…。私がこれからする話は口外法度な内容が含まれます。宜しくて?」

「今さらだろう?」

クリスティン兄様の言葉に、みんな頷いた。


「まず、私の特異魔法は…決まっておりません。」

「は?」

「正確には、私が想像出来ることなら全て可能なので、出来ないことが少ないと申し上げておきます。」

「そんな!神のような!」

「ええ。それも原因かもしれませんわね。」


私は現在、部屋に防音の魔法を掛け、外に漏れることがないよう厳重に注意を払っているつもりだが、私の特異魔法のように、他人の特異魔法を知れる特異な人がいれば、バレてしまうことを伝える。


「基本、特異魔法は善にも悪にも便利な魔法です。たから、自分は何が出来るなど、おいそれと口にしないのが通常(ふつう)でしょう。口にするのは…知られても構わない情報のみ。」


私の言葉にメイラとルイコスは何かに思い当たったよう。

流石、優秀ね。


そう。

犯人は私が記憶を操る能力を持っていることを知っている。

それを裏付けるように、事故の記憶を人々から消したことで、「自分には効かない」もしくは「私の特異魔法を知った者には効かない」と勘違いした可能性があるのだ。


それを確かめる為に、私はわざわざ接触したのだから。

『みんな記憶が消えていると思い込んでいるフリ』をしてね。


実際は、私の想像一つで誰の記憶をどう操るかも自由だ。

しかし、私はやりたくないからやらない。


私の本当の特異魔法は、実はミドーグチたちの存在なのではないかと思っている。


さて。

「作戦を説明するわ。」


炙り出すは、人間を駒のように扱っている真犯人。

神か何かにでもなったつもりなのでしょうけれど…残念だったわね。


本当の神は、ミドーグチたちの世界にいるのよ。

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