手紙を貰いました
――――――――――――――――――――――――――――――
拝啓 ローズレン・リーネクライス様
私は貴方が嫌いでした。
しかし、分かったのです。
私が嫌いなのは、貴方ではなく、貴方のように出来ない自分自身だったのだと。
私は国を離れて、自分の力で生きていけるように強くなります。
どうぞ、リーネクライス様もご健勝でいてください。
カーネリアン・ジャスミン
――――――――――――――――――――――――――――――
「わざわざ、嫌いだった告白文を送ってくるなんて…なかなかに気が強いご令嬢なのではなくて?」
私は苦笑いで元婚約者候補だったシルベスター様に不満をぶつける。
そんな私が珍しいと言って、終始嬉しそうなシルベスター様に腹が立つのは、なぜかしら?
「リーネの素晴らしさを知り、勝てないと諦めたように私には読めるけどね?」
シルベスター様は優しすぎます。
どう見ても、最後の嫌がらせとしか取れない手紙に、そんな意味を見出すなんて。
ぶうたれ顔の私の頬を突いてはニコニコとしているシルベスター様を、ギャフンと言わせてやりたいものですわ!
「お前ら、いちゃつくなら帰れよ。」
ミドーグチの呆れた声に、私は睨みつけます。
「いちゃついてなどいません。理解されないこの気持ちに苛ついていますわ。」
「怒った顔も可愛いだろう?ミドーグチよ。私のリーネは何をしても可愛いんだよ。」
「ああ…悪かった。リーネは悪くない。悪いのは全部この王太子だ。」
珍しくミドーグチが私を認めましたわ!
私はそれだけで心の霧が晴れたようです。
そもそもの成り行きは、ジャスミン嬢からの手紙にイライラしつつも、私は我慢をしていたのです。
気晴らしをしましょうとやってきたミドーグチ宅には夜勤明けだというミドーグチがいました。
私は寝ているミドーグチを無視して、ミドーグチの母親が私の為に用意してくれたどら焼を食べていたのですが、ミドーグチの母親がいないと飲み物が出てきません。
困った私はミドーグチを叩き起こしました。
「飲み物なんか、冷蔵庫を勝手に漁れ!」
寝起きのミドーグチは機嫌が悪いみたいです。
そのタイミングで追いかけてきたシルベスター様がミドーグチに激怒しました。
「あー!うるさい!お前らは黙ってどら焼も食えないのか?!」
「なんだその言い草は?私のリーネに向かって失礼ではないか?」
「じゃあ、そのリーネを連れて早く帰れ!」
「嫌ですわ!私はムシャクシャを気晴らす為に来たのです。晴れないうちは帰りません!」
私の言葉にシルベスター様が私に向き直りました。
「何があったんだい?リーネ。」
私はおずおずと手紙をシルベスター様に見せました。
冒頭に戻る。
私に同情したというミドーグチが、グラスにお茶を注ぎ、私の前に出してくれた。
私はコクコクと喉を潤し、食べかけだったどら焼にかぶり付く。
その様子をニコニコと見つめてくるシルベスター様と、呆れた表情で見つめてくるミドーグチ。
「なんですの?」
「「いや。別に。」」
二人の声が重なり、私は溜め息が漏れた。
「ミドーグチの母親はどこまで出かけたのです?」
「近所のスーパーだろう?もうすぐ帰ってくるよ。今日あたり、大福でも買ってくるんじゃないか?」
「大福?」
「あー、中は甘甘、外はモチモチな食いもんだよ。」
「なんだか、シルベスター様みたいですわ。」
「ぷっ…リーネ上手いな。」
ミドーグチが吹き出すのを見て、シルベスター様がムッとするのが分かる。
「その大福とやらは、美味いのか?」
「女性には人気があるな。」
「益々、シルベスター様みたいですこと。」
「あー、確かにな。」
「何なんだ!?」
「「別に?」」
今度はミドーグチと私の声が重なる。
目を丸くしたシルベスター様は何か言いかけ、溜め息を吐いた。
「ただいまー。あら、いらっしゃい!リーネちゃんとシル君。そうそう、大福食べる?」
ほんわかとしたミドーグチの母親の登場に、なんだか場の空気が和む。
「食べてやろう!そして、大福は男にも人気が出ると証明してやるぞ。」
シルベスター様が意固地になっているのを、ミドーグチは、苦笑いで見ている。
「じゃあ、みんなで食べましょう。」
手際よく緑茶と共に出された大福にかぶり付けば、確かに中は甘甘で外はモチモチだった。
「美味いじゃないか!」
「美味しいですわ。」
私とシルベスター様の声が重なり、ミドーグチの母親が声を出して笑った。
「貴方たちは本当に仲が良いのね!」
え?そうでもない気がしますわ。
「実はリーネが怒ってる。だが、何で怒ってるのか、私には分からん。」
シルベスター様が素直に告げた言葉に、ミドーグチ母親は「あらあら」と聞き耳を立てた。
シルベスター様が事の顛末を話し終える頃、ミドーグチは「寝る」と言って部屋に戻ってしまった。
「リーネちゃんは、シル君がリーネちゃん以外の女の子に優しくしたみたいで嫌だったのよね?」
「え?…そう言われてみれば、そうかも…」
「シル君、リーネちゃんはあなたにヤキモチを妬いただけ。シル君も、リーネちゃんがヒサシと仲良くしているのが嫌だったんでしょう?」
「ああ…確かに面白くなかったな。」
「二人して、互いにヤキモチを妬いたのね。でも、ヤキモチは好きな相手にしか抱かない感情よ?だから、二人は仲が良いってこと。」
ミドーグチの母親がお茶を飲む。
私がシルベスター様を見れば、彼の視線と交差する。
「リーネ、ごめん。」
「シルベスター様、ごめんなさい。」
私たちはどちらともなしに頭を下げ、そんな二人の頭をミドーグチの母親が撫でた。
「本当、二人とも可愛いわ~!大福みたい!」
「え?!」
「私もですの?」
「あら。だって、大福ってすっごい美味しくて腹持ちも良いのよ?美味しくて満足!二人みたいじゃない?」
コロコロと笑うミドーグチの母親の言葉に、私たちも吹き出してしまった。
「はぁ~。お腹いっぱい。帰りましょうか、シルベスター様。」
「ああ、今日は色々考えさせられ、気付かされた。ありがとう。」
「いいのよ。またいらっしゃいな。」
「「はい!」」
私とシルベスター様の声が重なり、ミドーグチの母親がまた笑い出す。
私の気持ちはすっかり落ち着いていて、やっぱり、ミドーグチの母親は偉大だと改めて思った。