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時をかけるのは、悪役令嬢  作者: コノハナ咲夜
14/26

夏祭りと花火

「じゃじゃーん!」

私がミドーグチ宅で寛ぐことが日常的になった今日この頃。

会社という、モンスターが沢山いる魔界のような場所から命からがら逃げてきたと話すマユと一緒にアイスクリームという、甘くて冷たいお菓子を食べていると、ミドーグチの母親がキレイな絵が描かれた紙を見せてきた。

「夏祭り?」

「ああ!もうそんな時期なのね?」

「?何ですの?」


夏祭りとは、沢山美味しい物が並ぶお祭りで、夜空には花火という光のお花が沢山咲くのだそう。





「凄く!気になります!」

「ああ…リーネの衣装もかなり、気になる。もはや、寝間着と変わらぬのではないか?いや、寝間着姿よりも儚げなのは…何とも目のやり場に困る。」


夏祭り当日、私の話を聞いて「絶対ついて行く!」と言ったシルベスター様と私は、ミドーグチ宅に着いた途端、ミドーグチの母親とマユの手によって、浴衣という衣装に着替えさせられて、今に至る。


「シルベスター様、よーく見てくださいませ!このような衣装を着た人が沢山いるじゃないですか?」

「ああ…どう見てもリーネが一番綺麗だ。」

「し…ししし…シルベスター様?!」

真顔で答えるシルベスター様だって、上半身が…肌の露出が多くて…色っぽいではありませんこと?


完成に大満足なマユとミドーグチの母親はニシシ…と似たような笑顔を向けてくる。


そうよ。

これはこの世界のお祭りの衣装だもの。

恥ずかしがる暇があったら、美味しい物を片っ端から食べ尽くして差し上げますわ!


「焼きそば…いい匂いがするな…」

「りんご飴…なんて可愛らしいのでしょう。」

どうやら、シルベスター様も同じ答えに行き着いたらしく、私たちは珍しい食べ物が

並ぶ通りを行ったり来たりすることとなった。


広島風お好み焼きを手に入れるべく、並んでいると、可愛らしい女の子たちが話しかけてきた。


「あの!お二人を写真に撮らせて下さい!」


「写真?」

シルベスター様はまだ知りませんでしたわね。

「一瞬にして私たちの姿が絵に映る、この世界の魔道具ですわよ。」

私が耳打ちして教えると、シルベスター様の好奇心が疼いたようで

「良いぞ。撮れ!」

私の肩を抱き寄せ、満面の笑顔を彼女たちに向けた。

「キャーッ!」

女の子たちが悲鳴を上げながら写真を撮ると、

「見せてみろ」

と一人の女の子の魔道具を覗き込んでいる。


ミドーグチやマユに何度か撮られている私でも、この魔道具だけは不思議でならない。

私もそっと女の子の手元の魔道具を覗き見れば、綺麗な笑顔のシルベスター様がこちらを向いている絵があった。


私も欲しいわ。


「これ、私にも貰えぬか?」


シルベスター様が女の子に交渉を始めた所で、綿あめを持ったマユがやって来た。


「ええ?写真が気に入ったの?ちょっと待って。」


全てを察したマユが、女の子たちに何やら自分の魔道具を出して話をすること数分。

「帰りにプリント…紙に写してあげるわ。」

そう約束してくれた。


やっと順番が来て、広島風お好み焼きを手に入れた私たちは、ミドーグチの母親が予約しておいたという席に向かう。

人がたくさんいる狭い空間で、否応なしにシルベスター様とくっついて食べる食事など…美味しいのかどうかすら、良く分からない。


ドキドキします。

落ち着きませんわ。


そんな思いを打ち消すかのように、突然ドンッと大きな音がしたかと思うと、光の線が夜空に一直線に上っていく。


あ、光が消えた?


再びドンッと音がしたかと思うと空一面に大きな光の花が咲いたのを、驚きながら見つめていると、私の腰に手を回していたシルベスター様の手に力が籠もったのが分かった。


そっと覗き見れば、驚愕に瞬きを忘れたかのようなシルベスター様の顔が、空を見上げていた。


「綺麗ですわ。」

「ああ…凄いな。」

「シルベスター様がです。」

「え?」


やっと私が見ていたことに気付いた様子のシルベスター様が恥ずかしそうに顔を手で覆う。


「リーネには敵わないよ。」

「え?」


私たちは初めて見る花火の感動を胸に、帰路に着いた。


途中、初めて会った時の衣装を着たミドーグチが、赤い光る棒を持って立っていた。


「お前はここで何をしているんだ?」

シルベスター様が不思議だと言わんばかりに話しかけるのを、ミドーグチは面倒臭そうに答えた。

「交通整理ですよ。こうも人が多いとあらぬ事故が起こりやすいですからね。これも仕事です。はい、分かったら帰って下さい。後がつかえてます。」


魔法のない世界では、人が誰かの為に働くことも当たり前なのですね。

ミドーグチはきっと、かき氷もたこ焼きも、焼きそばもお好み焼きも綿あめもりんご飴も食べないで働いていたのです。

働きながら、少しだけ見える花火に何を思ったのでしょう。


「そうか。お前らのような影の努力があってこその祭りなんだな…ありがとう。」

シルベスター様の言葉に、ミドーグチは一瞬呆けた顔を見せた後、ちょっと照れ臭そうに笑っていた。


帰り道、マユに連れられてきたコンビニという商店で、箱のような魔道具から写真という私たちの絵が出てきて、今日一番のお土産になったことは…言うまでもない。


今回は、ちょっと筆休め的なお話でした。

シルベスターの人柄と、御堂口親子の人柄が見えたら、私は嬉しいです。

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