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時をかけるのは、悪役令嬢  作者: コノハナ咲夜
10/26

魔道士たちに会いに行きます。

神殿から戻ってすぐに昼食を軽く摂ってから、王城に向かう。

昼食の時、お母様が何か言いたげにモジモジとされていたので

『お母様、花を散らした女性は気配が変わるのですか?』

と尋ねた瞬間、見事にスープをむせ込んだお母様に、それ以上聞くのを止めた。

ただ一言。

『私にその時が来たのなら、お相手はシルベスター様ですわ。』

そう呟いて退席したのだが、その場に残ったメイドたちの話では、『奥さまは大変反省されておいでです。』とのことだったので、ちょっとプライドが高いお母様が謝ってきたら、私は許すつもりでいる。

さして気にしてもいないのですけどね。


「シルベスター様の目の色に合わせた金のブローチを付けましょうか。」

「シルベスター様に以前頂いた髪飾りを使いましょう。」

私の周りのメイドたちが上機嫌で身支度を整えていく。

中には鼻歌を歌い出しそうな娘もいて、私はクスリと笑ってしまった。


「みんなの機嫌が良いと、私も嬉しいものね。」


私が素直に言葉を発しただけなのに、メイドたちからは何故か怒られてしまった。


「逆です!」

「お嬢様の機嫌が良いから、私たちは嬉しいのです!」

「愛しい王太子殿下を想ってご機嫌だったのではないのですか?!」


…?!

あら、やだ。

私ったら、ミドーグチたちにまた会えると思っていたのが顔に出ていたのね。


「…では、互いに機嫌が良いのが何よりということね?」


私は決してシルベスター様を(ないがし)ろにしていませんわよ?

ちょっとだけ…ハンバーグが優勢なだけなの。


メイドたちがクスリと笑って作業の続きを始めたのを見て、私はそっと息を吐いた。




「お菓子を包んで持って行くんですか?」


屋敷の料理長、ライデンが目を丸くする。

王城には国中で最も腕の立つ料理人が集まっている。そこに行くのにお菓子とは言え、食べ物を持っていくだなんて、料理人たちからしたら非常識なのだろう。

しかし、私がお菓子を渡したい相手は王家の人物ではない。


「昨日、私を助けて下さった魔道士たちにお土産を渡したいの。」

私の答えにライデンが笑って頷いた。

「そんなに感謝してくれる令嬢なら、次からも全力で助けたくなりますね!分かりました、すぐに用意します。おい!カルー。」

ライデンに仕事を割り当てられたのは、先月から働いてくれている料理人見習いのカルーだ。

カルーはまだ15歳とあどけない少年だが、センスが良いと料理長が絶賛していた。

「カルー、急がせてしまってごめんなさいね。」

私が直接彼に声を掛ければ

「いいえ!何事も勉強ですから!」

ビシッと姿勢を正して答えた。

その姿がどことなく料理長に似てる気がして、納得する。


カルーがお菓子を包んでいる間に、私はライデンにそれとなく話題を振る。

「ねえ、ライデン。もし、私がこの世界ではまだ見ぬレシピで料理を作って欲しいと頼んだら…貴方は引き受けてくださる?」

「この世界ではまだ見ぬレシピですか?…良いですね~。そんなロマン溢れる仕事を他に譲る気などさらさらありませんが?」

「そう。じゃあ、その時がきたら宜しくね。」

「?…はい!」

ライデンが姿勢を正して返事をしている間に、カルーが作業を終えてやってきた。

薄い布を幾重にもふんわりと重ねて、可愛らしいリボンで留められたそれらを見て、私は感嘆の溜め息を吐いた。

「可愛らしい。」

「リーネお嬢様をイメージしました。」

「完璧だわ。」


ライデンの評価は大袈裟ではなかったことが証明され、カルー本人よりも、何故かライデンの方が誇らしげにしている。


「ありがとう。うちの料理人は腕が良いだけじゃなく、気遣いも一流だってことが解ったわ。」

「有難きお言葉です!」





シルベスター様とのお茶の時間まであと1時間という時間に、私は王城に到着した。

瞬間右手の先に痺れを感じで魔力を注げは、ヒラリと一枚の紙が現れる。

「まあ、シルベスター樣ったら。」

開かずとも差出人に見当がつくのは、紙の質や素材が最高級であることもだが、ふんわりと香る彼の匂いが染み付いているからだ。

『1時間も早く来てくれるなんて、嬉しいよ。』

私はメイラにペンを貰い、その紙に返事を書き綴る。

『魔道士たちにお土産をお渡ししてから、殿下の所に伺います。』

その紙に簡単な魔法陣を書いて魔力を注げば、パッと紙は消える。


今頃、シルベスター樣の手元に現れただろう。


「さあ、魔道庁へ参りましょう。」





王城の敷地内。

西の端に魔道士たちが研究を生業とする魔導庁はある。

小さい子供は立ち入り禁止のこの区画では、何やら鼻をつまみたくなるような独特な匂いや、何かを焦がした跡など、決して安全とは言い切れないアレコレがある。

そんな新しいのか古いのかさえ不明な建物の中を進んで行けば、受付らしいカウンターが見えてきた。


受付のはずだが、誰もいない。

カウンターには呼び鈴があるが…壊れているようで音が出ない。

「すいませーん!どなたかいらっしゃいませんかー!」

私が目一杯声を張り上げてみたが、全く誰かが近づいてくる様子はない。

今度はルイコスが声を張り上げる。

「お〜い!ローズレン公爵令嬢がお越しだぞ~!美味しいお菓子を持ってきているようだ!心当たりのある奴出てこーい!」

耳を両手で塞いでいても、キーンとする大声に、目眩を覚えた矢先、いくつかの足音が近づいてくるのが聞こえ、顔を上げた。


「ローズレン公爵令嬢樣?まさか、本当に?」

昨日見た顔が3つ並ぶのを確認し、私はメイラにお菓子を配らせる。

「昨日は、ありがとうございました。ほんの気持ちですが、お仕事の合間にでも、召し上がって下さい。」

「あ…どうも…」


魔道士たちは内気な者が多いと聞くけれど、確かに会話がスムーズに成り行かない感じは独特だ。


「…で、魔道士様?昨日お願いした魔法陣の件なのですが。」

「…え?あれ、本気だったんですか?」

「冗談を言うほど、私は会話に長けておりません。いつでも本気ですわ。」

「…すぐに用意しますが、2時間ほどかかります。」

「2時間ですわね。では、シルベスター様とお茶の後にまた伺います。」

私が踵を返すと同時に

「お、お持ちします!公爵家の馬車までお持ちしますので、あまり、ここには来ないでください。…万が一にも貴方に何かあったら…」

確かに、シルベスター様なら私をここに近づけたくないでしょうね。

「分かりました。では、公爵家の馬車まで持ってきて下さいな。馬車にはうちの侍従がいますから、渡して下されば結構です。」

「はい!すぐに作って持って行きます。」


再び、踵を返して変な匂いがする建物から出ると、空気が美味しいと思う前に先ほどの手紙の匂いに包まれたのだった。


「あの…シルベスター様?」

「リーネ大丈夫かい?変な物に触ったりしていないかい?この建物の中ではね、壁に触れただけでも肌が荒れるほど危険がいっぱいなんだ。きみの綺麗な肌が荒れていないかと心配で。」

…なぜ、そんな危険な建物を放置しているのだろうか…?

「魔道士たちは頑固だから、掃除も入らせてくれず…年々、危険度が高まっているのです。」

ユースベルタの説明に、納得する。


「…ところで、シルベスター様。そろそろ離して下さいません?」

抱きつかれたままでは、私も動けないどころか、心臓が鼓動を打ちすぎて壊れてしまいそうだ。

「ああ…ごめん。」

やっと離れてくれたシルベスター様から少しだけ距離を取ろうとするも、ガシッと私の腕を捕まれてしまった。

「な…なんで」

「またどこかに走って行かれてはたまらないからね。」

「そんな、子供ではありません。」

私の必死の抵抗が、シルベスター様の鼻で笑うような笑みで、意味を失ったことを悟った。


「シルベスター様は頑固です。」

「ああ、私はリーネのことになると頑固になる自覚があるよ。」

「!!?」

顔が熱くなるのを、扇で隠して呼吸を整える。


私たちの後ろから生暖かい視線が注がれるのを気付けないほど、私は子供ではございません。

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