1人目・王太子の婚約者候補〈エピローグ〉
再び、殿下と私的なお茶会の日がやってきました。
「今日はこの前に比べて、顔色がさらに明るいですね。良かった」
殿下が穏やかに微笑まれます、わたくしの頬にそっと指先で触れて。
挨拶より前に殿下がこうされるとは、予想だにしませんでしたが。
さて、どうしたのものでしょう。
この場では殿下がマナーみたいなものですから、好きなように観察していただくのが良いのかもしれません。
ですが、困りました。
殿下に触れられて嬉しいような気がします、けれど気恥ずかしい。
なかなか新鮮な感情です。
ですが、わたくし、気恥ずかしさのあまり挙動不審になってしまうのではないでしょうか。
挙動不審になるまで、あとどのくらいでしょう。
経験がないので、何とも予測がつきませんわ。
「すみません、ティア。あなたはまだ万全の体調ではありませんでしたね。座りましょう」
このタイミングで助かりました。
頬が少々熱く感じますけれど、挙動不審にはならずに済みましたもの。
「今日は、わたくしの好きなお茶をご用意しました。殿下に楽しんでいただけると、良いのですが」
……なぜでしょう、殿下の微笑みが変わったのがわかりました。
何というか、有無を言わせない笑顔に。
「アレンと、呼んでください」
……そういえば、そんなことになっていたでしょうか。承知しました。では、
「アレン様?」
殿下の表情が嬉しそうに、本当に嬉しそうなものに変わります。
ただ、これだけのことで?
わたくしにとっては不思議なことです。
ですが、殿下にとっては、そうではないのかもしれません。
あ、と気がつきました。
この方をお名前で呼ぶことができて、わたくしも何だか嬉しい。