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7人目・とある男爵令嬢〈後編〉


「さて、貴女はどうやってそれを、聖属性の使い手の居所をこれほど早くお知りになったのか。

 こちらもまだ、情報を確認している途中だったというのに」


 騎士君の視線が私を射貫く。

 いや、どれほど有能でも、私の情報源が前世の記憶とは気づくまい。


 いや、気づかないでください。お願い。

 私からすると。

 うわー、ヒロインちゃん本当に存在したんだ。しかも、いい子そう。

 という程度のことなんで。それ以上、ツッコミを入れないで。


 しかし騎士君の視線は揺らがない。

 仕方ない。一応、用意しておいた言い訳をいってみるか。

「ちょっとした占いですよ、騎士殿」


「カーティスと呼んでください、エデルトルーア」

 騎士君は笑みを浮かべるが、実に油断ならない感じだ。

 それに私の名前も、敬称なしで呼ばれるの2回目だぞ。


「では、カーティス殿」

「カーティスで結構です」

 私は結構じゃない。

「では、カーティス君」

「まあいいでしょう、エデル」

 ……ホントにいいわけ!?そして私の呼び名が愛称になってるし。


「エデル、その占いとやら、詳しく話していただけませんか?」

 疑問符がついてるけど、疑問符に聞こえない。


「今、流行りのカード占い、貴方も知っているでしょう。それを試しにやってみただけですよ」

 って、何でまた壁ドンみたいな状態に!

 さすがに慣れてきた……なんてことにはならない、慣れないってば!!


「エデル、私に隠していることはありませんか?」

 疑問符がついてるけどほぼ確信してるな、騎士君は。


 さて、前世や転生について話しても、生まれ変わりの概念がないこの世界ではね、騎士君には理解できないと思うよ。


 騎士君の視線が険しくなる、抑えきれない怒りと苛立ちと。

 驚いた。騎士君がここまで感情を露わにしたのは初めてだ。


「その情報を得るために、危険なことをしたのではありませんか!?

 多少は私のことを信頼していただいていると感じたのは、私の独りよがりでしたか!?」


 …………、へ?

 なるほど、騎士君は心配していたのか、私のことを。こんなにも。


 そんな私の表情を観察した騎士君は、大きく息を吐いている。

「本当に、危険なことをしたわけではなさそうですね」

 まあね、私はただ、私の中にある情報を使っただけだから。


 でも、参ったね。これを話す予定はなかったのに、死ぬまで。


 ええい、女は度胸だ。思い切って、騎士君の手に私の手を重ねる。

「私にとって貴方は、会話のできる大切な相手。それから、私は貴方を信頼しているよ」


 騎士君が目を見開く。

 もっと驚いてくれてもかまわないよ、ほとんど愛の告白みたいなもんなんだから。

 さて、前世や転生という言葉を使わずに何とか説明してみよう。


「私の頭の中には情報がある、この世界とは違う別の何かの。

 多くのことはそんなに役に立たないか、私が役立てることのできない情報だけど。

 でも、今回のような場合のこともある」


 鋭い眼差しで騎士君が聞いてくる。

「そのこと、他の誰かに話したことは?」

「まさか、カーティス君が初めて」

 というか今の話を信じたの!?私なら信じないぞ!!


「その情報、魔導具作成に使ってますね?」

「まあね。でも、変って程度で済んでいるでしょう?」

「今後もその程度で済ませてください」

「もともと、そのつもり」


「今回の件は、ロイ様にしか話していませんね?」

「もちろん」

「ロイ様はあの性格ですから、今回の件に魔導具士が関わっていると広めたりはしないでしょうが、厳重に口止めしておきます。同時に、いかにもありそうな理由付けを用意します」

「ま、その方が安心だけど」

「私は安心できません」


 うわ、騎士君の視線がこれ以上ないくらい鋭い。

「貴女の持つ“情報”とやら、場合によっては悪用されかねません。情報を持っている貴女の身にも危険が及ぶ可能性がある」

 そこなんだよねえ、考えすぎかもしれないけど。可能性は捨てきれない。

 だから誰にも言うつもりはなかったのに、一生涯。


「やはり、貴女はその可能性に気づいてますね?」

「ええ、まあ」

「もっと慎重になってください。今回の件は迂闊すぎます」

「でも、気づいたのはカーティス君ぐらいでしょ?」

「私が気づいたのですから、気づく人間はいます!」

「……」

「今度その情報を使うときは、必ず私に教えてください。貴女を守れるよういくらでも策を講じますから」

「では、よろしくお願いします」

と頭を下げた。頼もしいなあ、騎士君は。


 ん、ちょっと待って、もしかして、

「だから、今のタイミングで求婚したの!?」

「ええ、そうですよ。予定を早めることにしました。私と結婚することで更に貴女の身の安全を確かなものにできますから」


 聞かない方がいい気がするけど、聞かないわけにもね。

「予定?」


 騎士君が笑みを浮かべる。

「貴女の男爵家にはすでに話を通してあります。貴女の了承を得られれば婚約は可と」

 いつの間に!?


「反対はありません」

 確定か!まあ、反対どころか大歓迎だろうけどさ、変わり者の三女が片付いて。


「ロイ様にも話を付けてあります」

 そっちもか。


「私が結婚相手ではご不満ですか?」

 そんなことは言ってない、何ていうか。


「では、結婚式は1年後でよろしいでしょうか?」

 決定にしか聞こえないのは、なぜだろうね?


「新居の希望はありますか?」

 いったい、どこまで予定してるのかな?


 不意に、騎士君が照れたように顔を背けた。珍しい仕草だ。

「私を信頼していただけて、嬉しいです」


 ……騎士君が、誰にも見せないようにしていた私の警戒心に気づいていたとはね。

 何より、いつの間に、私はこんなにも騎士君に気を許してしまっていたのか。


「貴女に口づけても、よろしいでしょうか?」

 !!!


 笑みを浮かべた騎士君が私の手を取り、そっと指先に唇を触れさせた。




 翌日、私と騎士君の婚約が知れ渡っていた。

 何でだ!?いや、何でも何も、騎士君の仕業か。


 結婚がイヤとか言ってるわけじゃない。

 私はたぶん、結婚してもしなくても、それなりに幸せ。

 でも、騎士君と結婚するのは楽しそうだ。

 ただ一人、私の秘密を話してもいいと思った人だしね。


 ただ、できれば、何というか、交換日記から始めてほしい!

 あ、ちょっと待って、交換日記という慣習はこっちの世界にはあったっけ!?


 今日の報連相が終わってお茶の時間、そこで騎士君に言ってみる。

「交換日記から始めていただきたいのですが」

 すると騎士君から交換日記というものについて説明を求められた。その結果。

「それは良いですね」

 との騎士君の返事。本気!?

 

 騎士君が続ける。

「魔物討伐や、王都への連絡などで、長期に貴女に会えない時には特に。

 興味深い方法です」

 いや、私が書くかもしれない何気ない日々の記録から、何を探る気だ!?


 騎士君が席を立つ。

「残念ながら、時間なので。明日の夕方、こちらに寄らせてもらいます」

 あれ、連絡は3日後のはず。

「何か急用が入りそうですか?」

「婚約者に、貴女に会いたいので」

 ……カーティス君はストレートだな。


 騎士君を見送ったあと、待ち構えていたのは、連絡役の女騎士のテルーマさんと領主館の侍女のシュリアさんだった。

 何でだ!?いや、何でも何も、騎士君との婚約の件か。

 騎士君は将来有望だし、けっこうイケメンだし。婚約相手の私にどこからかクレームが来ても仕方がないってものだ。

 と思ったら意外にも違った。


「本当かどうかの確認ですわ、そうならばお祝いの言葉をと思って」と侍女さん。

「本当なんだな、おめでとう」と女騎士さん。


「さすが魔導具士殿と皆言っていますわ。カーティス隊長さんにアプローチしていた娘、何人も知っていますけど。彼女たち、諦めるの早かったんですよ。隊長は真面目過ぎて面白みがない、もしくはクセが強すぎるって」

と侍女さん。その隣で女騎士さんもうんうんと肯いている。


 ……話題を変えよう。

 そうだ、ロイ君から頼まれているミーナちゃんの件があった。

 この二人なら信頼できるし、ロイ君の味方だし。まずは、相談を持ち掛けて。




 それからしばらくして、ミーナちゃんが、ロイ君と共にこちらに来ることになった。

 うまく噂を流せたから、ミーナちゃんが居心地悪いなんてことにはならないはずだけど。

 ロイ君の、次期領主様の恋と結婚を応援してあげよう、って雰囲気を作り上げたからね。

 まあ、別の意味で居心地が悪いかもしれないけど、婚約者として来るんだから、その辺はOKということにさせてちょうだい。


 すると次に気になるのが、ミーナちゃんが転生者かどうか。

 前に、前世でいうところのスノードームみたいなものの作成を、ロイ君から依頼された。

 あれの発案、実はミーナちゃんだったみたいだからさ。

 やっぱ、転生者じゃない?


 私という転生者がいるんだから、1匹見かけたら30匹。

 私以外にも30人くらい転生者がいてもおかしくないよねえ。


 そんなミーナちゃんが、私の魔導具をみて首をかしげている。

 今日はわざわざ、スノードームのお礼に私の所まで来てくれたんだよね、うーん、いい子だ。


 しかし、やっぱりミーナちゃんは、まじまじと私の魔導具を見ている。

 私が参考にしているの、あのタヌキに似た青いロボットの道具だもんなあ。

 見る人が見れば、っていうか、あの時代からの転生者なら、わかっちゃうかな。

 と思ったら。


「これ、どう使ったらいいんですか?」

とミーナちゃん。

「ああこれはね、ほら」

「こんな風に使うんですか!エデルトルーアさんはすごいですね!」

 そういう純粋な賞賛は、私としても嬉しくなるよ。


 で、ミーナちゃんは転生者なの、どっちなの!?


 そんな感じで、ミーナちゃんと魔法や魔導具のことについて、あれやこれや、おしゃべりして、意見交換もしたりしていたら。

 ついでに、思いついたアイデアで試作して、二人であれやこれや試していたら。


 人生、どう転ぶか分からない。

 私の人生、どこに転ぼうとしているのか。


 ミーナちゃんと共同で開発した魔導具、魔物ホイホイ。

 もちろん、魔物ホイホイは私が勝手に脳内で読んでる名前だけど。

 これがなかなかの出来だと自画自賛していたら。

 ミーナちゃん、なんで第二王子殿下の婚約者とそんなに親しいの!?

 その第二王子殿下の婚約者を通して、国中に知れ渡ることになり。


 まさか、こんなことになるとはね。

 次期領主様にあげた情報が、めぐりめぐって結果、こんなことを引き起こすとは。

 辺境の片隅で、ただ好きなように生活していた私が、こんな形でこの世界に関わることになろうとは、想定外もいいところ。


 予想外過ぎて、こんなことも考えてしまうくらいにね。

 もしかしたら、この役割を果たすために、転生したんじゃないかって。

 まあ、それも悪くない。


 でも、そうじゃなかったとしても、それはそれ。

 結局どっちでもいい、私にとってはね。


 だって私の生活は、快適で充実してて、けっこう面白くて。

 なかなか気に入っている。


 私がそう思ったんだから、それでOK、ってもんでしょ!




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