狩りへ
「あの黒い塊っていつ見ても気味が悪いよな、この間なんか俺たちみたいな姿をしたやつも見かけたぜ?」
「お前らカラスに限らず動物は別に襲われないからいいじゃないか。僕ら人間は見つかったら躊躇いなく襲われるし生まれ変わるとしたら鳥にでもなりたいよ」
カラスと空を見上げながらどうでも良い会話をしていると後の洞窟から声が聞こえてきた。
「おーい、カシュー。そんなところでボケッとしているなら手伝っておくれよ」
「ウルが来たな。じゃあまた後で、夕方くらいには暇になると思うからその時にでも」
「人間サマは働き者だねぇ。夕方か、俺の目がまだ仕事をしてくれるようだったら来てやるよ」
そう言って一羽のカラスは飛び去り、一人の15歳ほど、たしか僕と同い年だったはずのウルがやってきた。
どうやら狩りをしに出掛けるらしい。どうせ暇なのでついていこう。
「お前って本当にボーっとするの好きだよな。動物には好かれるし。あんまり外でボーっとしているとあいつらに襲われるぞ?」
「大丈夫だよ。あいつらの気配はなんとなく分かるんだ。さっきは近くに停まったカラスを見て、生まれ変わったら鳥になりたいなぁなんて」
僕は他の人に動物と話せることを伝えていない。
言ったところで信じてもらえないだろうし、信じられてああしろ、こうしろと言われるようになってしまうのも面倒だ。
「お気軽なやつだよなお前は。だからこそお前の危機察知能力が羨ましいよ」
僕らは闇に見つからないように地下に住み処を作って暮らしている。
地上出る時は狩りや食材採取に向かう時くらいだ。
闇は非常に狂暴で500年たった今でも倒し方すら分かっていない。
見つかったら逃げるか、殺られるかの二つに一つだ。
しかし、逃げきれる人間は本当に僅かだ。
闇は僕らより足が早いし、どうやら体力という概念もない様子。
闇は意志疎通する力もないのが幸いか。
話を戻そう。逃げきれる人間が少ない理由は二つある。
一つ目は先ほど言った体力の違い。
もう一つは見つかったら他へ被害が拡大しないように集落から離れるように逃げることと教わるからだ。
僕らの生活圏内は洞窟入り口からせいぜい半径3kmほど。
そこから先は誰も知らない。集落から離れるように逃げたら土地勘もないし、闇に囲まれてすぐにあの世行きだ。
だが僕はこの集落からかなり外のことまで知っている。
なぜならカラスやらリスやらが聞いてもいないのにペラペラお喋りをするから。
まぁ知った所で活用するような場面もないし、誰に言わないけれど。
「おい、カシュー。大きな猪だ」
ここら辺にいる動物は揃って育ちがいい。
天敵がすくないからかな?
「僕が向こう側へ行って注意を削ぐよ、矢を外すなよ?」
「誰に言ってるんだ。集落一番の狩人と言ったら俺、ウル様だぞ?」
「はいはい」
猪はキノコに夢中なのか地面に頭を突っ込んでフゴフゴしている。こっそり右側へ回り込もう。
よし。わざと枝を折って音を出す。
フゴ?
ドスッ!!
猪の側頭部に矢が刺さった。
どうやら一撃で脳天まで至ったらしい。さすがだな。
「まぁこんなもんだな、血抜きして戻るか」
その時、一匹のリスが目にとまった。
「まてウル。近くにやつらの気配がする。こっちへ」
木の上にいたリスが向こうに黒いのがいたと呟いていた。
おそらく近くにいるだろう。少し様子を見よう。
しばらくすると遠くに人型の黒い塊が見えた。
そいつはややこちらに近づいてきたが、しばらくすると森の奥へ入っていった。
「ぷはぁー!カシューがいなかったら猪と一緒に死んでたな、さっさと血抜きして戻ろう」
やつらは本能のまま生きてるようで、コミュニケーションは取らないし群れている所も見たことがない。
「そうだな」
まぁグダグダして戻ってこられても困るしさっさと集落に戻るか。
僕らは猪の血抜きを行い急ぎ足で集落へと戻った。