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Day 4 あなたの意思で東雲を処刑したあと

 ずっと閉ざされていた門から吹く風が母屋を打つ。

 朝もやをかき分けると、露草に服が濡れる。


 足の長い草むらが、ところどころ押し倒されている。


 目覚めたときに、艶と甲斐以外は畳の間から姿を消していた。直感で、門の外へと向かったと判断する。


「歩ける?」


 艶の肩を支えて甲斐は体調を看る。

 何とか立てたものの、足の筋力が衰えたのか、ゆっくりとしたスピードだ。


 果てしない大地が広がる。

 ふと前方に建物が現れた。

 いや、厳密には建物ではなかった。とても大きな木だった。それも桜の木だ。


 甲斐が眠りつくとき、背をもたせかけた根をはる巨木には劣るものの、見事なものだ。


「あら?」


 木の下で人影が動いた。誰かいる。

 甲斐たちは小走りで接近する。


「お、遅かったな」


 振り向いたのは曼荼羅だった。

 木の裏手に回ると鏡が手を挙げている。


 駆け寄ると頭上に気配がした。


「五百城さん...」


 二階建てほどの高さに五百城はいた。

 引き裂かれた腕をだらりと垂らして、木の枝に突き刺してある。からだの重さで開きつつある傷にはカラスがくちばしを執拗にねじ込んでいた。


「これで五人になったんだね。ボクはもう見当がついているよ」


 甲斐へと視線を滑らせた鏡は人差し指を向けてくる。


「え、わたし?」


 困惑する甲斐の背後で笑い声がした。


「お前が吸血鬼だ」


 曼荼羅も甲斐を指し示している。

 わけがわからなくなった甲斐は咄嗟に呼吸が苦しくなった。幾ら息を吸っても、肺が痙攣したかのように落ち着かない。


 そばにいた艶の腕に抱かれてその場にくずおれた。


 ところが曼荼羅と鏡、二人の指先は甲斐の頭上ですれ違っている。互いに向けられた指が、疑念を露にしていた。


「鏡さんとやら、あんた、吸血鬼だよ」


「そう言うあなたこそ人外だとボクは悟ったなあ、曼荼羅さん。五百城さんを八つ裂きにした理由を教えてくれるかい」


 桜の花びら舞うなかで、二人は舌戦を繰り広げている。

 桃色のカーテンに包まれた空気が肺を出入りする。五百城の生臭さも添えて。


「曼荼羅さんが怪しいのは今に始まったことじゃない。杏子も処刑の間際に曼荼羅が訝しいと吐露したよね。それにマリアが八つ裂きにされたのは、自分の占い先が吸血鬼ではないことを立証するためなんでしょう」


「意味が分からないな。杏子の発言? 立証? そんなことで怪しいだなんて馬鹿げている。仮にオレが吸血鬼だとしよう。マリアを殺害する明確なメリットなんてあるのか。もしマリアが狂人だとしたら、吸血鬼は不利になる」


「一匹だけしかいない狂人を殺して不利になる確率は乏しいと思うけど。それにマリアが狂人なら、東雲さんと杏子ペアのいずれかに吸血鬼が一匹、五百城さんでもう一匹の吸血鬼、ってことになるよ。おかしくない?」


 「ああ、おかしいな。いかにもオレを吸血鬼に仕立てあげたいやつの意見だ。吸血鬼同士は手を下せない。五百城が狂人なんだろう。東雲と杏子の中に吸血鬼、そして鏡さんとやら、あんたで終わりだ。さて、この人楼をもう終わらせようじゃないか!」


 高らかに宣言して、曼荼羅が「終わらせよう」と繰り返す。


「あなたを生かしておく理由なんてないのに...」


 ポツリと呟いた鏡がスマートホンをスワイプする。メモを取っているのだろうか。


 鏡が会話に集中しているから、いつものようにすぐメモが送られることがない。場は混沌としていた。太陽が刻々と移ろう。

 複雑怪奇な現状を甲斐なりに思考して整理しようと試みる。


「ねえ、艶はどう思う?」


 ややこしくて、結局は艶に水を向ける。


「そうねえ。曼荼羅さんが本物であれば、鏡さんを処刑しないといけない。吸血鬼だから。でも、曼荼羅さんが偽なら、鏡さんを処刑したらゲームオーバーよね」


「五百城さんが吸血鬼に殺されてるから、曼荼羅さんが偽者じゃない?」


 甲斐の台詞に艶は考える。腕を組んで空を仰ぐ。桃色の渦が降り注いでくる。花びらはきりがなかった。


「例えばさ、どっちが本物か分からなくて、吸血鬼が狂人を八つ裂きにした可能性もあるよね。吸血鬼同士は認識し合ってても、吸血鬼と狂人は互いに認識できないわけだから」


「それって五百城さんが偽、だけど狂人の場合?」


「うん。だから鏡さんが吸血鬼で、正体を明かされたくなくて、いちかばちか、八つ裂きにした。でも本物の占い、この場合曼荼羅、が生きていて。しかも吸血鬼だと見破られたってケース」


 あまりにも的確な艶の推察に、甲斐は何だかそれが真実に思えてくる。


「だったら鏡さんを処刑すれば勝てるんじゃない」


「うーん。曼荼羅さんが本当の占いなら、ね」


 睨み合う曼荼羅と鏡の、どちらがより信憑性のある発言をしているかが鍵となりそうだ。


「順番が大切なんだよ。ボクが伝えたいことはそれだけさ」


 手を止めた鏡。スマートホンから視線を外し、甲斐と艶に向き直る。


「順番?」


「曼荼羅を先に処刑する。まずは曼荼羅が本物の場合、明日の三人の内訳はこうだ」


 スマホのメモが送信される。


 (曼荼羅が本物の桜井である場合)

 桜井、桜井、ボク(吸血鬼)


「占いと霊媒師それぞれが全員死んでいるから、残りは吸血鬼一匹しかあり得ないわけだ。じゃあ次は曼荼羅が偽の場合」


 (曼荼羅が狂人の場合)

 桜井、桜井、吸血鬼


 (曼荼羅が吸血鬼の場合)

 桜井、桜井、吸血鬼

 または

 終了(東雲と杏子いずれかが吸血鬼のとき)


「ふーん、それで?」


 先が気になる甲斐は催促する。


「そんなに焦るなよ。最後にボクを先に処刑する場合について説明しよう」


 さっきまで桃色だった花弁に夕陽が透けてオレンジっぽくなってきている。焦るな、と制されても、甲斐の鼓動はおのずと速まった。


 (曼荼羅が本物の桜井である場合)

 終了(ボクが吸血鬼)


 (曼荼羅が狂人の場合)

 終了(ボクが吸血鬼)

 または

 桜井、曼荼羅、吸血鬼


 (曼荼羅が吸血鬼の場合)

 桜井、曼荼羅、吸血鬼


「なんで曼荼羅が人外だと明日残るのよ。吸血鬼同士ならまだしも、狂人なら八つ裂きにされる可能性だってあるでしょ」


「ふはは、甲斐はバカだね。いや、バカな吸血鬼なら偽の曼荼羅を殺すかもね」


 鏡は残念そうにため息を吐く。

 笑われる意味が分からない甲斐は愕然とした。


「あのね、曼荼羅さんが偽なら、鏡さんは吸血鬼ではないでしょ? 吸血鬼はそれを知っているから、敢えて曼荼羅さんを殺すようなことはしないと思うわ」


 甲斐の手を握り、艶が教えてくれる。確かに、吸血鬼同士は内通しているから、身内以外に吸血鬼のレッテルを貼るのは仲間だと気づくのだろう。


「賢い艶さんのお陰で分かったかな。さあて、そろそろ潮時だねえ」


 ガクンと項垂れた鏡は前のめりに突っ伏した。

 直に甲斐の意識も飛ぶ。処刑への階段を昇っていく。

 もうこの闘いの終わりが近づいていることを受け入れるかのように全員がすっと眠りについた。

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