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Day 2 昼過ぎ

 再び九人が揃う。


「このまま処刑する人を選ばなければ誰も犠牲にならないなんてことはないかしら」


 冗談めかして東雲はおどけてみせる。


「永遠に日が暮れちまわないぜ、それだと」


 鋭い口調で曼荼羅は太陽を親指で示す。爪にはマニキュアが塗ってある。それかトップコートだけかも。何だが意外に女の子らしいところがある。


「ゲームが終わらない限りは、オレたちはこのへんてこな世界に閉じ込められたままだよ。手っ取り早くしようや」


 みんな薄々感じていたが、山麓の尾根に太陽は触れつつも沈まない。水車の影は甲斐の足元で止まったきり動いていない。

 曼荼羅の察し通り、時間は淀んでいるようだ。


 それから曼荼羅は一歩踏み出す。庭にはやはりししおどしが小気味良い音を奏でる。水が飽和して竹筒が石を穿つその、こん、こんっ、というリズムに合わせて


「今夜は決まってる。お前か、お前だな」


「えっ?」


 当惑するのは東雲と、もう一人。


「おい、東雲は分かる。だがな、何でこの杏子ちゃんが選択肢に入るんだあー?」


 唇を尖らせて、杏子は大声で喚く。


「あー、そーかそーか。分かっちゃったなあ。曼荼羅さんよ、あんた自分だけ逃げようって魂胆だろ」


「面白いね、根拠を訊かせてよ。杏子ちゃんとやら」


 ニヤリとする曼荼羅と杏子以外の七人は黙っている。風が寒くなってくる。いや、実際には勘違いで、誰かの命を天秤にかける寸前というのは、悪寒を禁じ得ないのかも知れなかった。


「説明してあげるね。まず、杏子ちゃんが本物の霊媒師で、偽者が東雲じゃん。だからどっちか殺そうって、でもね、それなら少なくともどちらが本物か見極めるための対話の時間を設けさせなきゃいけないってわけ」


 杏子の論説に鏡が頷く。


「ボクからも補足すると、杏子さんと東雲さんのどっちか。だけではなくて、五百城さんと曼荼羅さんも処刑の有力候補者だと思うわけさ」


「さっきのメモによれば五割で偽者の桜井さんを処刑できるものね」


 すかさず五百城がフォローする。今のところ甲斐も依存はなかった。


「例えばウチが吸血鬼ではないと証言した東雲さんが、本物の霊媒師なら、ウチも本物ということになりますし」


「いやいや、それは甘いぜ五百城さんよ」


 しばらく口をつぐんでいた曼荼羅が刹那に忠告する。


「偽者が本物の霊媒師を当てることだってあり得るぜ。というか、合理的に考えて、五百城とオレを処刑するのはセンスないって分からないか」


「分からないよそんなの、二択じゃなくて四択で多数決が筋じゃない?」


「とんだ甘ったれだな杏子ちゃんとやら、ほんとに甘すぎてヘドが出るぜ。お前ら明日以降のことなーんも予想してないな。じゃあ霊媒師残すとして、それが意味あんのかよ」


 会話に無関心な読者と、熱にうなされる艶を尻目にどんどん意見が交わされていく。ちっとも変化のない影の長さに甲斐がため息を吐いたときだった。


「参ったな」


 曼荼羅が倒れる。湿った土にからだがめり込む音がする。


「どうやら永遠はないようですね」


 五百城の目がそっと閉じられる。そこここで地面に伏していく女たち。甲斐も猛烈な睡魔に襲われて、膝から前のめりに崩れ落ちた。



**********



「霊媒師と占いの、どっちを残すかってことだけどね」


 九匹になった金魚の水槽は、欠落したものを補うように泡の勢いが増していた。

 餌を振り終えた発起人の顔はぼやけている。

 蛍はトイレにでも行ったのか、姿がない。


「霊媒師ってさ、片方が吸血鬼ではありませんって言って、もう片方が吸血鬼でしたって言ったら、もうカオス。二人とも吸血鬼ですって言ってもカオスだし、その逆で吸血鬼じゃないってなってもカオスでしょう」


 網で金魚を掬っては戻しを繰り返す発起人は、袖がやや濡れている。


「その代わりさ、占いならさ、情報が落ちやすいのよ。放っておいても損はないのよ。まあね、あくまでね、ひとつの意見に過ぎないわけで、何が正しくて、何が間違いかなんて、絶対なんて絶対ないんだけども」


 素早く一匹を捕らえた。赤い鱗がピチピチ跳ねる。勢いあまって「あっ」と言う間に発起人の手のひらからこぼれるヒレは鮮やかに輝いていた。



**********



 畳の間は閉ざされている。破れた障子は復元し、中央の燭台だけが鈍く光っている。


「ふんすい、みたい」


 マリアが起き上がりざまに呟いた。そうだ、噴水にそっくりだ。ただし渇れ果てているが。


「ああ、みんな起きたね。ある程度のリミットを越えると勝手にここに集められるようだ。気をつけないと、明日からは」


 鏡は服についた土埃を払って言った。


「じゃあ、この場も強制終了されないためにも早く誰を処刑するか決めないとな」


 どこから取り出したのか、曼荼羅は指先をナイフで切った。控え目に落ちる赤い雫が、燭台の皿を満たしていく。


 それぞれが思い思いの相手を、処刑されるべきその人を念じながら、名前の刻印された皿に血を施す。


「最後は自分の意思で決めるのよ」


 五百城が患部を抑えて暗がりに消えていく。

 こうして八人はそれぞれ燭台に献血する。


 東雲は「杏子」へ

 鏡は「東雲」へ

 艶は「曼荼羅」へ

 五百城は「杏子」へ

 杏子は「東雲」へ

 マリアは「東雲」へ

 曼荼羅は「杏子」へ

 甲斐は「鏡」へ


 さあ、読者のあなたは誰に血を捧げるのか。多数決になるが、万が一同数となった場合はいずれかを選ぶといい。

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