Day2 like
きらびやかな黒い生地と、黄金色の波紋がゆらめく姿に、生唾を飲みこむ。天の川が憑依したかのような髪の一本いっぽんが淡く透けていた。
庭園の彼方からししおどしの残響が深く畳の間にしみた。
「ごきげんよう、皆さん」
薄く開いた唇から漏れた空気はたちまちにして振動し、桜井甲斐の鼓膜が甘く痺れた。
横並びになった彼女らもまた同様の、えもいわれぬ体感に心を鷲掴みにされているのだろう。
そして四月十四日の朝。
鯉の泳ぐ池の縁で、精緻な刺繍の施された帯で、柔らかな首を幾重にも縛られた、初めての犠牲者、桜井勅のなんと青ざめた顔だろうか。
ごきげんよう、などと告げたときの柔和な表情は虚空へと連れ去られていた。
代わりに目は見開き、その眼球はほとんど零れ落ちる直前で、湿った着物はきっと昨晩の雨に打たれただけのものではないことを、場の誰もが了解していた。
「勅さん...」
呆然と立ち尽くす群衆にあって、ようやく口を割ったのは、彼女もまた至極の美貌の持ち主である、切れ長の瞳が印象的な東雲さんであり、ため息を吐き、嗚咽し、膝からくずおれた。
かくして残された九人の女たちは互いの琴線に触れまいと、息を殺して押し黙る。
沈黙は始まりの合図であり、池に頭から溶けていく勅が散った桜の花弁に囲まれている様子もまた、新たな災厄を想起させるには十分過ぎるほどに見事だった。
スッと後方から誰かが駆けてくる。畳をする足さばきの早さたるや並の鍛え方ではない。そしてふいに立ち止まり、
「東雲さん、あなた」
ゆっくりと指先をうずくまる東雲に向ける。よく研いだ短刀を突きつけるが如く、全員の視線が一挙に両者へと注がれる。
「あなたは...」
吸血鬼ではないわ。