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オークの子供との出会い

 あれから簡易ベッドへとオークの子供を寝かせ、傷口を洗い流して手当を私達は遅めの朝食をとった。子供は体力の限界のようで深く眠りについている。あれから胡乱げな眼差しで見つめ続けるチップへと向き直り


「なあに? チップ君」

「…分かってるでしょうお嬢様」

「ええ、オークの子供ね」

「そうですって、オークですよ。どうして魔物を助けたのですか」

「怪我していたら助けるのは普通でしょう? 貴方だって病気になった木があれば助けるでしょ。何か違いでも?」

「っ、それとこれとは違」

「違わない」


 遮って断言する。偽善かもしれないけれど日本の記憶が蘇った今は魔物だから絶対悪という思いがどうしても出来ない。人間同士だって傷付けあうのと同じ、この子供だって魔物同士で負傷した。私がたまたま魔物の被害にあっていないから言えることかもしれないけど――。


「とにかく、この子はもう助けちゃったんだし諦めて」

「うぅ、せめて何もありませんように……っ」


 チップの肩を小突いてやるとガクリと項垂れた。

 昨日からチップには働いてもらってたし、少し可哀そうかな…。よし、計画してたアレをやろう!


「チップ、苺とブルーベリーならどっちが好き?」


 立ち上がりキッチンへと歩きながら問いかける。きょとんとしたチップに棚から昨夜のうちに収納しておいたジャムの瓶を二つ見せて選ばせる


「あ、えっと苺、ですかね? 昼食ですか?」

「違うわよ。一息ついたしデザート、食べたくない?」


 木製のお椀型の皿を二つ、瓶と一緒にテーブルへと置く。


「デザート?」

「そう、食後に甘いものってね」

「ジャムだけですが…?」


 困惑気味の表情を浮かべるチップの前にお椀を置いて、今度はちゃんと扇子を手に持ち皿へとかざす。集中して水から氷を作るイメージを先程よりも鋭く、水は霧のように、氷は固まりではなく雪のように……

 皿の上にキラキラと輝き落ちていく。小さな山のようにこんもりとしたきめ細かい氷が出来上がる


「これは、雪!?」

「まだよ!」


 驚いた表情にフフンと鼻先が上がる。瓶からたっぷりの苺ジャムを上からかければ、とろりと美味しそうに出来上がり!


「じゃーん! 苺かき氷よ!」


 見よ。これが日本の夏の味覚、定番中の定番。材料はかけるシロップだけ(ないのでジャムで代用)自分の属性ありがとう!

 フンフン自慢げな私に驚くチップ。あ、スプーン忘れてた、はいどうぞ。サクッとかき氷に刺してあげる


「かき、ごーり??」

「そう、かき氷よ! 美味しいから食べてみて!」


 早く早くとせかしながらも自分の皿にも氷を作る。チップが苺なら私はブルーベリーにしよう。たっぷり上からかけて~…

 パクッ。


「~~~っ! これよ! この消える感じ! 私天才!」


 ん~! 美味しい! 口の中でふわりと消えて残る果実の酸味と甘さ。残らないのがまたいい、次へと止まらなくなるのよねっ

 私の食べているのをジッと見てから意を決したようにゴクリと喉を鳴らすとスプーンに大盛りに持って。


パクッ!


 カッ! 目を見開いたチップが私を見た


「な、なんですかこれは! 口の中で消えた!? 一瞬雪かと思いましたが雪よりももっと粒子の細かな…いや、雪でなければこれは、ぱく。んむ、溶けた後にはジャムの甘さと冷たさが広がって、更に食べたくなる!!」


パクパクパクッ


 ブツブツ呟いたかと思えば止まらぬ速さで食べきってしまった。殻になった皿を見ているチっプにクスクスと笑いながらも再びかき氷を作ってあげる


「今度はブルーベリーにしてみる?」

「是非!」


 ずいっと出された皿に上からジャムを垂らす。とろりと流れるのがまた見ていて楽しいんだよね


「いやー、このカキゴーリ、とやらは学校で流行っていたのですか? 僕初めて食べますけど大変美味しくてびっくりですよ」

「んーん、これは私が考えたのかな。ほら氷特化型だから極めたらこんなことまで出来ちゃった、みたいな?」


 本当はかき氷の為にガンガン氷属性を上げて切磋琢磨した結果淡雪のようなかき氷が作れるようになったんだけどね。才能の無駄遣い? ううん、これからの私に大切なことなのだ。


「でも本当においしいですよお嬢様。これならいくらでも食べれそうですね」

「でも元は氷だから食べ過ぎるとお腹が冷えてしまうかもしれないの。そこだけ要注意ね」

「まぁでも、この街は海外沿いで気温も高めですから丁度いいんじゃないですか? ん〜疲れが癒されるー」

「…あの、僕も……。」


 口内を楽しむようにモグモグと動かしながらチップはようやく緊張が解けたように背もたれに持たれて食べている。私もブルーベリーを頬張りながらシロップだけを作れないかしらと考えていた時、もう一人の小さな声が聞こえた


「それ…、食べてみたい、です」


声のほうへと顔を向けると眠っていた筈のオークの子供が上半身を起こしてこっちを見ていた。


「それって、このかき氷のこと?」

「はい、美味しいって聞こえて……っあ、ごめんなさいっ」


 聞き返し方が間違えたのか怒られると思ったのか子供は小さくなって下を向いてしまった。しまったな、と思いながら自分の皿に同じように氷をつくり苺ジャムをかけたのを手にして持っていく


 「これは先程私が食べたお皿で悪いんだけど、新しく作ったから食べてみる?」


 ベッドの側で膝をつく。出来るだけ子供と同じ目線にして問いかけた。恐る恐ると顔を上げたオークの子供は皿を受け取るとクンと鼻をよせ匂いを嗅ぐ。甘い匂いに緑でも頬が緩んだのが分かった。


ぱくり。


「!!!」


ぱく。ぱくぱくぱくぱく!


 一口食べたかと思えばカッと目を見開いて言葉無く止まらぬ勢いで食べ始めた。

 何処かで見た光景と思ってチップを振り返れば苦笑を漏らしていた。それだけ元気に食べれるなら傷は対して無さそうだ、良かった。


「お口に合うかしら?」


んっく!と喉を鳴らして大きく呑み込んだ子供の目はすごくキラキラしていた。


「これ!すごく! 美味しい! 生まれて初めて!」

「そう、良かったわ」

「俺、オークのロクって言うんだ。助けてくれてありがとう」

「私はスカーレットよ。何もないここで暮らしてるスカーレット。隣はオマケのチップ」

「オマケってお嬢様!」


 食べきった子供は落ち着いたようだ。何はともあれ、とりあえずいい子そうな気がする


「本当に助かったよ。あいつら弱いもの虐めばかりしてる嫌な奴らだったし」

「そうなのね、傷はとりあえず応急処置しておいたけどもう大丈夫なの?」

「うん!俺オークだしこんな傷すぐに治っちまうよ! それよりこんな美味しい物を食べさせてくれてありがとう。何かお礼できたらいいんだけど」


 うーんと悩んでしまった子供に手をひらひら降って


「子供がそんなこと気にしなくていいのよ。それより親が心配してるんじゃない?」



 言われて気づいたようで、慌ててベッドから降りる。一瞬ドキリとしたが確かに足つきはしっかりしてる。さすがオークと言ったところか。


「そうかも! もう4日くらいずっと追っかけられてたから」

「それ絶対やばいやつですよお嬢様!」


 ハッとしてチップが杖を握りしめた。確かに子供が居なくなって4日。親がいるなら探していることだろう


「道は分かる? それなら早く帰ったほうがいいわね」

「うん! そうするよ! ありがとうスカーレーット姉ちゃん!!」


ニコォッを牙を見せて笑うとオークだなぁと思った。ロクは口惜しそうにスプーンを舐めていたので苺ジャムを少しだけ持たせてあげた。かき氷は解けちゃうしね。


「また遊びに来るね~~~!」



「来なくていいですよー…」

ブンブンと緑の手を振りながら遠ざかっていくロクにチップが呟いたので。背後からローキックしておいた。

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