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朝の人助け

キェーー……




「ん…っ、ふぁ~よく寝たぁ」


 朝鳥の鳴き声にやや寝惚けながらも身体を起こす。実家の寝室よりは劣るが寮部屋と変わらないぐらいに寝心地の良かったベッドから起き上がる。昨夜は何だかんだ疲れていて身支度を済ませてすぐに寝てしまったし、今日から私のスローライフの第一歩ね!

 気分良くフンフン鼻歌を歌いながら簡素な服へと着替える。髪ももう巻いて結わなくてもいい。シュシュもどき(自作)で軽く縛って、それから昨日持ってきた貰ったバッグが…



キェーー…

 

  キェーーー…



 「あった。空間収納バッグ!」


 異世界アイテムの定番よね!冒険者でもない侯爵令嬢が手に入れるの大変だったんだから。こそこそドレスやバカ王子からの贈り物を売ってはチップに送って買わせたのもこの時の為…!

 両手でバッグの握りしめて感傷に浸っていると下のほうからバタバタと駆け上がってくる物音が聞こえてくる。


「おじょうさま~~~~!!!!」


 バンッ、とノックなしに扉が開かれ額に筋が浮かんだ。とりあえず首だけ振り向くけれど私の態度に気づいてないのか直進してくる強者。



「ま、また昨日の魔鳥の鳴き声がするんです! しかも2羽!!」

「あら奇遇ね、私も丁度よいモーニングバードコールだったわ」

「目覚まし鳥じゃありませんって! あれは魔物ですよ! マ、モ、ノ!」

「もー、別にどっちだっていいじゃない。害があるわけでもないし」

「魔物は害ですよお嬢様っ。それに段々と鳴き声が近づいてきているんです!」


 捲し立てるチップのテンションは朝から元気だなぁと思うものの、最後の言葉に半信半疑で窓からひょいっと顔を出す。二人一緒に窓からチップが言う方向を眺めていると確かに二羽、遠くの空に羽ばたいているのが視界に入った。


キェーッ!

キエッ!キェッ


「……確かに近づいてるわね」

「ど、どどどどうしたらっ」

「っ! チップ、あそこに何かない?」


 よく見ると二羽がぐるぐると回りながら羽ばたいていた下にも影が見えた。鳥達を引き連れている…?にしては鳥達の様子がおかしい。違う、これは――



「追われてるわ!」

「ちょっ、お嬢様!?」


 言葉よりも先に身体が動いた。階段を駆け下り扉を開く。先に二羽が旋回しながら向かってくる影に攻撃をしかけていた。

 上空を見やりながら走る。こんな時だけど走ってる自分に笑みが零れてしまう。昨日までの私を知ってる人が見たらさぞかく驚くことだろう。そう、今日からの私は好きなことをして好きに暮らすもの。


キェ!キェーッ!!

「……っ!…っ!」

キェェエっ!



「ごめんね鳥さん、弱いもの虐めは私嫌いなの」


 間合い数十メートルで立ち止まり全身から魔力の流れを上へと上げた両手に集中させる。扇子を持ってくれば良かったと今更思うけど仕方がない。じわりと額に汗が滲む。

 走ってくるのは既に負傷しているようで足元がおぼつかないようだ。二羽が此方に気づき旋回からまっすぐ飛んでくる。大丈夫。実技ではいつも満点だったのだから。掲げた両手をまっすぐ二羽へと突き出す。



「いくわよ!悪い嘴は凍りなさいー!!」


 手から放たれた魔力は二羽へと目掛け、正に鳴こうと広げた嘴をがっちり凍らせる。驚いた魔物は羽をバタつかせて逃げるように高く上空へ上がっていく。成功を見てから急いで逃げていたものへと走り寄る。

 あと少しという所で倒れた。


「あなた、大丈夫!?」


 慌てて膝をついて蹲った体をそっと向きを変えて横たえる。顔はスり傷だけ、体は……。


「少しだけ、身体の様子を見させて?」


 余程痛いのか滲んでいた瞳が此方へと向いた。こくりと頷いたから右手で抑えているのをゆっくりと剥がす


「ああ、これは痛いわね。先程の鳥達にやられたで間違いない?」


 衣服からも染み出ている出血に匂い。務めて冷静さを表にだして言うと相手は頷いた。ここで治癒魔術が使えれば良いんだけど、私の適正は水と氷のみ。せめて傷口を洗ってあげるぐらいしかできない。


「あの、良かったら私の家にくる?その、傷口を消毒ぐらいならできるから」


 私の言葉にぽかんと瞳を見開く相手に空いてた手をそっと合わせてニコッと笑う。問題は立って家まで行けるかな。


「お嬢様~~~!!!」


家の方から杖を持ってようやくヨタヨタ走ってくるチップ。色々遅かったけど何してたのかしら?何にしろ丁度いい


「ちょうど良かった。この子、怪我してるみたいだから家に連れていこいうと思って。チップ運んでくれない?」

「…っはぁ。…は…。こ、この子って」


たどり着いたチップは全身で呼吸してますって感じで上下に揺れていた。君も運動不足だね。これから毎朝ラジオ体操取り入れようかしら。杖を支えにして隣にやってきたチップは助けた子をみて、バッと私を見て、交互に見て


「オークですよ!!!!!」


 ひぃぃ~と私の後ろに素早く隠れる。おい。


「オーク!魔物です!何助けたんですかぁ!?」

「え、だって虐められてたから。人助けは自分の為って言うじゃない?」

「人じゃないです!ほら緑してますよ!」

「うるさい。かなり弱ってるみたいだからチップ、家まで運んでちょうだい」


 私だと多分ちょっと運べない。体格からして成人前だろうけど、それでも私の半分以上ある。引きづるには抵抗もあるしチップなら一応成人男子並みの筋肉はついてる筈なので大丈夫だろう。


「じゃ、私は先に戻ってその子に必要な物用意しておくわね」


 手を軽くふるとチップの返事を待たずしてホームタウンへと戻るのであった。




「魔物を運ぶなんて……。か、嚙みつかない、よね?」





 


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