仕方がありません!
一階へと降りていくと食べ終わったダッドが皿を洗っていてくれた。おかわりを聞くと頷くので氷を作る
昼食がまだだったな、と思い出して収納袋からサンドウィッチを取り出す。作る気力が起きない為あるもので済ましてしまう。もそもそと食べてるとダッドの視線に気づく
「サンドウィッチも食べる…?」
「いやーっ、悪いな!美味そうに見えちまって」
ガハハと豪快に笑うダッドに同じものを倍用意してやれば嬉しそうに頬張ってくれる。数日前に戻ったみたいだなと思った。その時はチップも元気に笑ってた…
はぁ、と溜息が自然と零れていた
「まー、チップのことは俺らが面倒みるから気にするな。スカーレットは魔王城で幸せになってくれれば一番だ」
「幸せにって、ここでも十分幸せよ?」
「あー…、違う。そうじゃないな。俺らにとってスカーレットが魔王様のところに居てくれるのが一番なんだ」
「それって、どういう意味…?」
私の幸せがダッド達の幸せ?意味が分からず首を傾げるも、ダッドはその通りとばかりに頷くだけ。
何となく曖昧にはぐらかされた気分に眉を寄せる。ぱくり、とサンドウィッチを頬張りながら窓際へと目をやれば小雨が注いでいた
「あら、雨…?この地方で雨が降るって珍しいんじゃない?」
海沿いの元シージュ街は年中真夏で雨季がない地方だった筈。珍しいことがあるものね、と窓を眺めていると段々と雨が強くなってくる。この世界に台風なんて聞いたことがないけど通り雨か何かかしら?
「始まったか」
何でもないように言うダッドへと顔を向ける。雨音は徐々に強まり次第には雷雨になった。え、本当に雨強すぎる…!この家大丈夫かしら!?
「始まった、ってダッド何か知ってるの!?」
ガシャーーンと遠くない何処かに雷が落ちた音がした。思わず両手で耳を抑えながらダッドへと問う。チップが心配で二階へと移動することに
「何かってそりゃ魔王様の機嫌に決まってるだろ」
「魔王の機嫌…!?」
「お前さんが出て行って帰ってこないから、気分が良くないんだろ?天気見れば簡単なことだ」
何それーっ?魔王は天候も操るの!?この雷雨ってかなり機嫌悪いんじゃ……っ
「ちなみに範囲はどのくらいなの!?」
「ここは隣だが、そうだなぁ…人間側まで影響はいってるだろな」
そんな…。私の所為でこれが起きてるというの?無関係の人間の村までこの雷雨を浴びるの…?
チップの部屋へと入り寝ていることを確認する。窓はカタカタと小さく揺れ雨の激しさが伺える。私、魔王城に戻らないと…
「魔王城、行かなくちゃ…荒れるってことことだったの?」
「天候が荒れるってことか?俺ら魔物の間じゃ別に珍しくないけどな。ここ数十年は無かったが」
「そんな…」
「こればかりは魔王様の心次第で誰も止められないって知ってるから気にするな」
大丈夫、とばかりに親指を立てて見せたダッドだけど、私が関わってると知って放置なんて出来ない。チップのことをお願いして自室に戻ると一息スゥと呼吸し
「ルーク様!戻りますから来て下さいっ」
「スカーレット」
一間置いて返ってきた返事に抱き留められた腕の中。もう今日何度目か覚えてしまった感覚に安息する。
「もう良いのか?マシューの話ではまだ…」
「良いんです。この天候を見れば仕方ありません」
「…あー……すまぬ」
頭にすり、と頬が触れるのを感じつつ、魔王の態度にこの天候が態とではないと分かる。まわされた腕にそっと手を添えて見上げれば、どこか困ったような表情をしている。初めての顔に少し驚いた。魔王が困っている
「ルーク様、チップのこと本当に大丈夫ですよね?」
「あ、ああ。その件はムシューに任せたから大丈夫だ。我はどうも人間に疎いところがあるようだ…」
「お城に戻るのは分かりましたが、色々とルーク様とお話がしたいです」
「そ、そうか。我もそう思っていたところだ」
戻ると伝えれば分かり易く表情が明るく変わる魔王に小さく笑みが零れてしまった。雷雨が小雨に変わってきている。城の隣だからか魔王の影響力がすごい。これなら洪水なども起きずに止みそう。ホッと胸を撫でおろす
新たに来てくれる人物とやらも詳しく教えて欲しい。それは魔王よりもムシューに聞いたほうが良いかもしれないが。
「戻りましょうか、魔王様」