安心と謝罪
「大変申し訳ございませんが手配完了致しましたのでご報告致します」
「ッチ」
整わぬ息で声をあげるも無駄かと思った時、コンコンと扉を叩く音と共にムシューの声が聞こえた。盛大に舌打ちした魔王はやっと手を引いてくれて私の上から起き上がる
「魔王様、何事にも順序というものがおありですよ、と申した筈ですが?」
「許可は取ってある」
「取ってませんーーっ!!」
きっぱりと答える魔王に慌てて被せる。何の許可?ねぇ、何の許可を取ったというの?
わたわたとベッドから起き上がる。胸元よし、口元よし!身なりを整えていると二人何やら話しており
「…そうか、良くやった」
「いえ、魔王様こそスカーレット様は人間ですので些細なことでも気を付けて下さいませ」
「ああ、そうだったな。分かった今日は魔王城へ一度戻るとしよう」
「後処理後、私も戻りますので」
え、魔王戻るって言った?
「スカーレット、先に戻るが其方を待っている」
「え、…はい」
立ち上がった魔王は軽く見出しを整えると、此方に笑みを向けた後消えていった。
残された私はムシューへと目を向ける。彼の表情は困ったように笑っていた
「スカーレット様、この度は申し訳ございませんでした。主人に任せていましたがまさかオークではなく駝魔鳥だったとは知らず」
「いえ、ムシューさんの所為ではないので…」
「それでも、です。彼には私の遠縁のものが後ほど来る手配を致しました。人間側に詳しい者です。ですのでどうか安心して城へと戻って頂けますでしょうか」
そう言われてしまうと頷くしかない。でも見たこともない人物を信用するのも気にひける。せめて一目見てからがいいとムシューに伝えれば小首を傾げられ
「急ぎ用意しますがその間…外には出ないで頂けますでしょうか?多分荒れますので」
荒れるって何が、とは聞けなかった。ムシューはでは、と静かに戻って行った。パタン、と自室の扉が閉まる音に夢から覚めたような感覚を受ける。が、自分の着ている漆黒のドレスを見てすべてが現実だと思い知ると先程までの魔王とのやりとりが思い返され頬に熱が篭る
こ、こここのベッドで口付けをして……っ。あの時ムシューが来なければ今頃どうなっていたのか、流れるまま抵抗できなかった自分に頭をブンブンと振って考えを打ち消す
気にしちゃ駄目…っ、
まずはチップの様子を見に行こう。立ち上がりチップの部屋へと入るとダッドが居た。言われたようにちゃんと付いていてくれたことに感謝する
「ダッド、ありがとう。急にごめんね」
「なぁに、久しぶりにかき氷食えると思えば全然?」
ニカッと鋭い牙を見せて笑う緑色のオークがこんなに頼もしく思ったのは初めて。先程使用者解除していたマジックバッグから自分の扇子を皿を取り出す。いつものように更に氷を盛ってダッドに渡す。彼は嬉しそうに氷を持って一階へと降りていった。好きな蜂蜜でもかけて食べるだろう
ベッドにすやすやと眠るチップへと近づいて彼の額の髪をどかす。最後に見たまぬけな顔より痩せていた。ずくん、と胸の内が暗くなるのを覚えながら近くの椅子へと腰かける
「ごめんなさい、チップ…」