久しぶりの我が家に?
「チップ~~~!」
敷地内へと入り姿を確認しながら家の扉をあけた。埃一つなかった室内はそこらに鳥の羽根が散らばっていてチップの苦労が伺えた。チップ何処?ひとまわり見渡し一階は居ないことを確認して二階へと上がる。階段をあがると何やら声が遠くから聞こえる。音の方へと歩いて行けば私の私室?
「お嬢様ぁ~……お嬢さまぁ…」
「キエーッ」
「キエエッ」
「そんなこと言わないで下さいよう…、お嬢様」
「チップ!私はここよ!大丈夫!?」
鳥相手にぶつぶつと話しているひょろりとした彼に慌ててかけつけると頬がこけていた。いけないと思いマジックバッグを棚から取り出す。中からパンを取り出し彼へと差し出す
「食べて…!ごめんなさいチップ!」
「ああ、パンだぁ~お嬢様がパンを…」
ぶつぶつと呟いていた声がパンを見やるとほろほろと涙を流しパンを頬張る。頬張るパンを横から突く鳥二匹に、慌てて追加のパンを与えてチップを介抱する。パンを両手に幸せそうに眼を閉じる姿に哀愁を感じ、間に合って良かったと思う
鳥へと顔を向け、鳥の瞳に自分をうつしながらキッと睨みつけ
「ルーク様!」
呼べば、ふわりと空気の揺れを感じ彼が表れる。
「もう良いのか?スカーレット」
「良いわけないですわ…!」
ん?と機嫌の良い魔王に、ビシっとチップを指さして目を吊り上げる。全然大丈夫じゃないですかっ、食事も取れず鳥二匹を私だと勘違いしてます。あと少し遅かったらどうなっていたことか…!
魔王だからって気にしてなかった全部言い切って肩を大きく揺らす。この惨状を見て魔王は何とも思わないのかしら?
「ふむ、こやつも食事が必要だったか」
やっぱりそこから!?
分かっていたけど魔物と人間の違いを理解していない。私に対しては食事にとても気を使ってくれていたのに、差がありすぎます
「…せめて鳥ではなくムシューさんのような人間を知る者を寄越して下さい。でないと城へは行けません」
「…なっ、すぐに戻るという約束ではないか」
「これとそれとは違います。私はルーク様を信用していたのですよ?なのにチップはこんなに衰弱して…どこが大丈夫なんですか?」
パンを両手に目を閉じスースーと寝息を立て始めたチップ。きっとこの数日間始終鳥と一緒にどれだけ心が休まらなかったことだろう。羽根だらけの室内を見れば容易に想像がつく
ひとまずマジックバッグの所有者権限を外しておく。これで中身の食事でチップは大丈夫だろう
「鳥は回収して、ください。」
キッと睨めば驚いた表情の魔王、つい朝方までの雰囲気は何処へやら。それ処の話ではない。今日は一日チップについてあげなきゃ…ああ、彼をベッドに運びたい
「ルーク様、ダッドを呼んで下さい。彼をベッドに運びたいので。それと今日は帰りません」
「それは、ならぬっ。ダッドは呼んでやるが戻らぬは許さぬ」
「このまま放置なんて出来ません。彼の安全を確認してからでないと」
「……ならば俺も共に居よう。それなら良いな」
へ?
魔王もこの家にいる…?いやいやいや部屋もチップと私の部屋しか無い小さな家に魔王とか無理ですって。
「変わりの者を呼ぶ。しかし其方がこやつと共に居るのは許せぬ」
「そんな……」
暫くしてダッド親子がやってきてチップを彼のベッドへと連れていってくれた。その間魔王はずっと傍から離れない、何なの…疲れた
魔王以外居なくなった自室のベッドへ腰掛けて大きく息を吐く。魔王はどうするのかと思ったら隣へと腰かけた。当たり前のように腰を抱かれて引き寄せられる
「ルーク様…っ」
「静かに」
手で制するもその手すら握られてしまう。何をするのか見ていると握られた手へと魔王は口付けた。距離感ー!
「それは、ここでは…っ」
「其方が悪い」
「悪いって私は何も…」
「帰らぬと言った。今朝までの言葉は何だったのだ。俺を騙していたのか」
魔王を騙すなんて恐れ多い。ただチップが心配だっただけなのに、これでは魔王が嫉妬しているように見える。それことあり得ない。
お人好しのチップは私の無理矢理に付き合わされて今こうなっているのに、黙って城へと戻れるわけがない。何日も心配してただろう、鳥を私だと思って話してる姿を思い出して申し訳なく思う
「彼は私がすべてを捨てさせて連れて来たんです。心配、くらいしても駄目ですか?」
「………。」
「わ、私が好きなのは、ルーク様です…っ」
何も言わない魔王に視線を合わせて、ええいままよっと伝える。何度も言うのは恥ずかしいけど伝わってと願いながら。
魔王と視線が合う。握られていた手がふっと緩められた。
「もう一度」
「ルーク様が、好き、…です」
「もう一度」
「ルーク様がす…っん」
唇が重なる。身を任せるように瞳を閉じると腰を抱いた腕が背中へとまわり自然と押されるようにして身体が傾き、気づけば背中には柔らかなマットレスの感覚に、あれ?と思う
重なる口付けが長い、息が苦しい。ふぁ、と唇を開けば魔王の舌が歯列をなぞり侵入する
「…っ…!!」
薄くひんやりとしていた唇とは異なり熱い舌の動きに翻弄され、両手で魔王の背中を握りしめる。どうしたら良いのか分からず、んく、と喉がなる。いいように弄ばれ顔は真っ赤になっているだろう。背中にまわした手でせめてもの抵抗と叩くと、ゆっくりと唇から離れていく
「…はぁ…っ」
「…スカーレット」
きっと瞳は潤んでいるに違いない。目を開ければ艶めいた口元の魔王と視線が合い羞恥に染まる。私の濡れた口元を魔王の節だった指が拭い、其の指に口付けを落とす魔王…
エロすぎぃ……っ
最推しがこんなにエロいなんて聞いてないぃぃ…っ!あのゲームは全年齢だったからこんなスチルは見たことが無いし知らない。ご褒美過ぎます…っ
ひんやりとした魔王の掌が胸元へと触れ、びくんと肩が揺れる。胸元…?って、えっこれ、もしかして私…っ
カァァァっと赤くなりながらも、ヤバイヤバイヤバイと脳内が叫んでる。両手でバッと胸元の手を反射的に掴んでしまう。首を左右に振る、これ以上は駄目なやつ…っ
「ルーク様ぁ…っ、も、だめ…」