アイスクリーム作ってみます!
私、くくくく口付けしてしまったわ…!
あの後、何も無いかのように食事を再開し、食べ終わると滞在してる自室へと送られた。魔王は何か用事があるとかで席を外している。一人になって先程のやり取りを思い返すと顔から火が出るほど恥ずかしい
慣れてないことの連続に、あんなに甘い言葉を紡ぐ男性を私は知らない。王子にだっていつも最低限の会話のみだった。あのように手を触れ唇に……
再び思い出して顔が赤くなってしまう。両手で頬を抑えながら部屋の中を無駄にぐるぐると歩く。何か動いていないと恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそう
あ、と思い出して顔をあげる
「ムシューさん、いらっしゃいますか?」
扉へと声を掛ける。少しの間を置いてゆっくりと扉が開き初老の男性が入ってくる。
不思議なことに本当に声をかけるだけでムシューはやって来てくれるのだ。ここ3日でもう慣れたけど
「あの、することがなくて。家の様子が知りたいの」
「それは主よりお答えする権限を頂いていませんので何とも」
「えええええ…」
軽く会釈をしつつも横に首を振られてしまった。直接聞けないから聞いたのに、チップちゃんと食事取れてるのかしら。久しく見ていないひょろりとした顔を思い出しながら思案気に口元に指をあてる
「お暇でしたら、あいすくりぃむとやらを作ってみますか?」
「え!?アイスクリーム?どこでそれを…」
「主よりお聞きしました、必要なものがあれば何なりと申しつけ下さい」
そういえば前に魔王とちらっと話したことを思い出す。でも作ったことないって言ったんだけど…。することも無いしやってみようかな。材料の調達も食事を何処からか用意しているムシューなら出来そうだ
「お願い、しようかしら…?材料は…」
夕刻、夕食が運ばれるのと同時に頼んだ材料は目の前にある。大きさの違うボウルが二つに牛の乳、生クリーム、砂糖、卵。本当はもっと必要だったかもしれないけれど大体これで作れる筈
ケーキを作る要領でまずは卵と砂糖を混ぜていく。電動ミキサーが恋しくなるけど仕方がない手動で頑張る。そこに牛乳と生クリームを入れて更に混ぜる。本当は温めてからが良いんだけど私の属性は水と氷、冷すことしか出来ない為諦める。
大きなボウルに水を張り、そこへ出来たアイスクリームの素が入ったボールを浮かす。水を氷へと変化させて冷やしていく。時々かき混ぜればアイスクリームの完成
「簡単なんちゃってアイスクリームだけど、味はどうかしら…?」
だいぶ固まってきたアイスクリームを人差し指で掬って味見をする。少し砂糖の残りが舌に感じるが素朴な甘みがして美味しい。今度は魔導コンロもマシューにお願いしようかしら、と考えてから自分がずっとここにいるつもりになっていることに驚いた。いつの間にか短期間で魔王に絆されてる。これでは魔王の思うがままだ、こんな簡単に流されて良いの?先程の魔王を思い出して唇を指で触れ
「ルーク様…」
呟いてからハッとして慌てて周りを見渡すが魔王は居ない。話せばすぐに表れる魔王は今日は本当に用事があるらしい。少し残念に思いながらも完成したアイスクリームを掬って食べる。唇に触れる冷たい感覚が魔王との口づけを思い出し、会いたいと思った
城へ来てから初めて食べる一人の食事はいつもより味わって食べれた。美味しくあったが楽しくはなかった




