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まさかのお隣さんは魔王城!?

 バタンと扉をしめた後、視線を感じて振り返るとチップがやはりこちらを見ていた



「何よう、今日はもう疲れてるから細かいことは明日にして頂戴」


 はぁ、と大きくため息をつく。本当に今日は疲れた。王子の婚約者として感情を抑えるレッスンを長年受けてきたのに何だったのかしら。


「そうですか、では一つだけ。その髪飾りはどうしたんですか?」

「え?」


 言われて髪に手をやれば硬い何かに触れた。そっと取り外すとそれは美しい細工がかった深紅の髪飾り。

 いつの間に?

 思い当たるのは頭を撫ぜられたあの時…?


「ルーク様だわ…」

「でしょうね。そんな大粒のルビーの髪飾りを用意できるのなんて王族ぐらいですよ」


 どうするんです?とチップに言われても私も何故としか答えれない

 かき氷のお礼どころじゃない。魔王の考えが分からない


「もう今日は疲れたから眠るわ。髪飾りは…多分面白がってるんでしょうね」


 婚約破棄された私が王族並みの髪飾り。考えると可笑しくて笑ってしまう。もともと宝石に興味が無かったけれど…。

 部屋に戻り髪飾りを見れば見るほど、あのカイガ街では到底購入できるものではないと分かってしまう。とういうことは初めから用意していた…?

 かき氷の値段がこの髪飾りだとしたら、一体あと何杯食べに来るの??


「…寝ましょ」


 疲れた私は湯あみもそこそこに眠りへとついた





 朝、昨日の出来事は夢だったんじゃないかと思ったけどサイドテーブルに置かれた髪飾りを見つけて真実だったと実感する

 こんな廃墟の街でこの髪飾りは場違いすぎる…が、いつ魔王がまた来るか分からない為ハーフアップにし髪飾りをつけることにした

 合う服が無いわね。うん、ドレスなんて必要ないからすべて売るか置いてきてしまったし仕方ない。それよりもここではドレスなんて動きづらいしか無いか。思い返してくすりと笑ってしまう。化粧もしてない今、本当に飾りだけが浮きだって似合っていないんじゃないかと思えてきた


「よし!今日はソース作りをしましょう!」


パンっと頬を叩いて気合を入れた私は一階へと降りていく

昨夜よりは動けるようになったチップが杖を支えに歩いてきた


「おはようございます。お嬢様」

「おはよう、チップ」

「簡単に朝食つくるわね」

「あの~いつも思うのですがお嬢様に作らせてて良いのでしょうか」


 申し訳なさげに眉をハの字にしていう長身のチップに笑ってしまった。今更じゃない?


「気にしないで、作るのが好きなだけだから」


 片手をひらひらさせながらフライパンを用意する。今日は簡単にパンとベーコンエッグの予定。前世では米とみそ汁派だったけどこちらにお米が無いからパンで我慢。卵は醤油派だけどそれもないからソース的な調味料を使ってる


「しかしお嬢様いつの間にこんな庶民的な料理を知ってたんですかね~」


 待っている間、手持ち無沙汰に呟くチップを横目に卵を割り入れベーコンエッグ作る。パンは軽く焼き目をつけて皿に乗せたら完成

 本当に簡単な朝食で自分でも笑っちゃうけど今はチップと二人だけだから気にしない

 うん、美味しい~。ニコニコと笑顔になりながら朝食をすませばチップは畑を肥しに行くという。腰は大丈夫かしら


「大丈夫ですよ~。畝の様子を見てきますので後でお嬢様水やりをお願いできますか?」

「分かったわ、後で行くわね」


 見送った後、マジックバッグから先日購入した果物を取り出す。すべて水で綺麗に洗ったあと水気をふき取り皮を剥いていく。ふふっ、もしお父様が見ていらっしゃったら驚くでしょうね。こんな使用人の真似事をして!とか言いそうね。

 コンロが3口しかない為一度に出来るのは三種までね…今日はリンゴと苺と…オレンジにしよう。うん。

 大き目の鍋にカットした果物、砂糖、レモン汁を用意していると外から叫び声が聞こえた


「お嬢様~~!!!!」


 チップの声だ。

 どうしたのかしら?ここ数日の事以上に驚くことなんてあるのかしら?と思いながらも外へ出てみると腰を抜かして地面にへたり込んだチップが居た


「チップ、どうしたの?」

「お嬢様!と、とととと」

「ととと?」


 首をこてんと傾げる。意味が分からない


「隣を見て下さい~!!!」

「隣?…えっ!?」


 ばたばたと腕を動かしながら隣を指さすチップに隣の家は崩れかけた廃墟だった筈…と振り向けば


「えっなに城!?チップー!?」


 見たこともない城、もとい建物が建造されている。

 はっきり言うと大きい。王宮にも引けを取らない。そしてこの建物は見覚えがあった、前世の記憶で。

 嫌な予感しかしない。私は頭痛になりそうに額を抑えながら、とりあえずチップのもとへと行く


「昨日は無かったよね…?」


 隣との境目の大きな塀を眺めながらぽつりと漏らす。昨日までの廃墟が元に戻ったとしてもこんなに大きくはならない。一体何故…

 額を拳で抑えながら遠い記憶を思い出す。見覚えのある城、バカ王子の城では無く他の城と言えば…妹が泣いて見せてくれた100%コンプエンディングのスチルに出てきた魔王城…


「魔王城!?」

「っ魔王城!!??」


 私の声につられてチップが更に驚いて声を上げる。条件反射のように私のスカートの端を握りしめられ、またかと思うけど仕方ない。私も驚いたんだから。でも覚えてるスチルのイラストと隣の建物は瓜二つで。違いと言えばここが元シージュ街だということ。魔王城は魔王領の北東に位置していたはず。それがどうしてここに…


 二人して呆然と建物を眺めていると聞き覚えのある声が城のほうから聞こえてきた


キェーーーーーッ!

 キェェーーーッ


 ああ、やっぱり魔王城だわ。いつもの鳥二羽がこちらへと飛んでくる。おかしいわ、私はここでかき氷屋を開きたかっただけなのに訪れるのは人外のみ。今日は鳥

 

「キエッ」

「キエエッ」


 私のところまで来た鳥は周りを旋回しながら鳴いてくる。ついて来いということかしら?団子拒否したい


「おじょうさまぁ…これって」

「拒否、出来るかしら?」

「相手を魔王ですよぉ~」


 ぶんぶんと首を横に振るチップの顔は青い。何度この顔を見ただろうか、私が強引に連れてきてしまった分少しだけ申し訳ないなと思う。

 さて今の問題はこの鳥達。きっと私が動かない限りずっと周りに付いている気がするので行かないという選択肢は無理。鳥達の言う通りに動くのも癪だけど仕方がない

 はぁ、と一息つくとスカートの裾をチップの手から外し、ぱんぱんと軽く叩く。私はスカーレット・スワン・フォルツナー。君恋の悪役令嬢の最後が魔王城なんてシナリオ面白いじゃない。もちろん最後なんてごめんこうむります!

 いざ、魔王城!




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