魔王と楽しくお買い物!
カイガ街には何も問題なく入れてしまった…
門番に何か魔王が話したと思ったら良い笑顔で通された。私一人では名前を名乗れないからどうしようと思ってたところ。本当だったらタツキと入るつもりだった。入れたから良かったけど
楽しそうに走る子供達。露店は活気溢れた声が行きかう。久しぶりの感覚に思わず頬を上げて辺りを見回してしまう
「楽しそうだな、スカーレット」
通りの並べられた花に何処からか漂う香辛料の香り。そこにはシージュ街には無い生活の空気があった
人混みの中、頭上からの声に目を細めて頷く
「ええ、実はこの街は初めてなの!」
「そうか。それは良かった色々見てみよう」
肩に置かれていた手が髪を撫ぜた。思わず目をやると視線が合ってしまった
「……っ」
魔王だけど髪の色が変わったからか魔王じゃないみたい。プラチナの髪は太陽に輝いてとても綺麗、目元は深紅のままだけど色が濃くパッとみダークブラウンに見える。角は収納されたのかしら…
それよりも今日は、
「買いたいものが沢山あるの。食べ物に本に…」
露店を眺めながら指折り数える。今日は当分の食糧と本、あと苗ね。食糧はオーク親子の分も考えると多めに購入しなくちゃ
馬車や果物、思えば魔王から色々してもらってた
何かお礼したほうが、いいのかな
「あの、まお…っ」
う、と言いかけて両手で口元を抑える
人混みの中慌てて見渡したが此方を気にする人達は居ない。ほっと安堵して胸を撫でおろしているとクツクツと笑い声が聞こえた
「だって……っ!」
ああ、呼べないってもどかしい!
う~~、とやり場のないもどかしさに唸ってしまう。余計笑われると分かってるけど誰の所為よっ
「ハハッ。俺のことはルークと呼べ」
またも髪を撫でられてしまう。魔王に比べたら私なんて赤子みたいなものだろうけど!
赤い顔で口をぱくぱくしてる私に楽し気な魔王。絶対絶対楽しんでるっ
「…ルーク様!」
「フッさて何処から見ようか?」
楽し気に返されて思わず横へと顔を背ける。悔しいの気持ち?よく分からないけど鼓動が早い
今ここに魔王がいると分かったらどうなるんだろう。こんな風に笑って歩いているなんて誰が想像出来ようか
何とも言えない気持ちでルースとは反対側を見やれば髪を指に絡ませてるのを見つけてしまい更に何も言えなくなってしまった
「こっちのバナナにマンゴー、あとリンゴも貰えるかしら」
「まいどっあり! 嬢ちゃんここは初めてかい?」
「ええ、美味しかったらまた買いにきます」
目についたものを購入していく。この街は温暖な気候だけあって売っているものも前世でいう南国のものばかり。いつかは自家栽培してみたいけどひとまずは購入しなくちゃね
でもバナナって何からなるんだろう…?帰ったら購入した本で調べてみよう
初めはどうなるかと思ったけど魔王は一歩後ろについて来るだけで特に何もなく。偶に私が購入したものを繁々と見ていらっしゃる
「タツキ、大丈夫かしら…」
街へ到着した時を思い出して少し心配になる。のんびりと馬車に乗っている間、外で何かあったのかも。まぁでも元々ここの街の子だから大丈夫、かな
歩きながらうんうんと考えているとすぐ後ろから自然に腰へ手が添えられた
「今は居ない男の心配か? ここにもうひとりいるのだが?」
ひぃぁっ!
口に出さなかったけど耳元で囁かれた声にびくりと肩が跳ねる。すっかり大人しいから放置…じゃなかった無視してましてすみませんー!! 決して面倒、じゃなくて面倒だなんて思ってたわけじゃないんですー!
上手く返事ができずにあわあわと唇を動かして魔王を見上げ
あれ?
「魔王様…?」
「ルーク」
「ルーク様…」
おずおずと言葉を紡げば「うむ」と目元を細める魔王。うっ、角がないから顔面偏差値半端ない!!キラキラ眩しい
「買い物…楽しいですか?」
透明人間として扱ってた私が聞くことではないが
「楽しそうな其方を見ているのは退屈ではないな」
「私、ですか…?」
「うむ」
そんなに子供みたいにはしゃいでたかしら?確かに珍しい果物が多くてテンション上がってたかも。コホンと小さく咳をして背を正す。以前の私が見たらびっくりかも
学園ではマナーレッスンも完璧だった。王子の婚約者として少しの失敗も許されない毎日。厳しい勉強とレッスン、友好関係も好きに出来なかった
今は?毎日遊びに来るのはオーク、隣にいるのは魔王
「ふふっ」
今と昔を思い返して自然と柔らかい笑みが零れてしまう
「ルーク様とご一緒できてとても楽しいですわ」
心の底から出た言葉。にこりと笑みを向けて魔王へと話すと、目を瞠った魔王の表情に更に笑みが零れる。きっとチップと二人だけではこんなにも楽しくなかったでしょうね
そんな感謝の気持ちもこめての言葉でしたが
「そうか…」
「ルーク様? あとは本屋にも寄りたいのですが」
「…あああ、行こう」
どうしても身長差のせいで見上げる形になってしまう。見上げれば魔王は片手で口元を抑えていた
不思議に思いながらも次の店へと行った




