思わぬ?同行者はいりません!
すっかり冷めたシチューを私とタツキの二人で食べる
あれから満足したオーク親子には捕ってきた魔物を丁重にお断りして持ち帰って頂いた(懇々と捕ると採るの違いも説明して)
単純な脳内の彼らはあれらは仲間内に渡して次こそはちゃんとしたのを持ってくるらしい。勿論それもお断りしたけど大丈夫の一点張りで聞かなかった。次が不安で仕方ない
オークが居なくなってようやく落ち着いたタツキはまだ14歳だった。聞けば冒険者をしており隣街から薬草の採取に来ていたところ後ろからゴブリンが襲ってきたとのことだった
私からはロクとの出会いから日参してくる日々のことを話せば驚いた顔をし
「え、あいつら毎日来んの? しかも食べ物強請って?」
「ええそうよ。代価交換だと思ってるみたいで無理矢理何か仕事をしてくわよ」
「マジか…」
「オレの知ってるオークじゃない…」
「安心して。私の知ってるオークも同じよ。彼らがオカシイのよ!」
初めは怪我していたからほっとけなくて治療した。けどその親が礼をしにやってくるオークなんて聞いたこともない。最近じゃ食事の為に来てるようだし。きっと彼らは変異種なのだ。見慣れていて感覚が麻痺して忘れることも多いけど
「でもスカーレットは何でこんな廃墟に住んでの? ここ誰も居ないって聞いてたんだけど」
「えっ、ええ、ここで店を開こうと思って来てみたんだけど…」
「人居なくちゃ意味なくね?」
タツキにも痛いところを疲れて口籠る。年下の子にも分かるようなことどうして3年間も気づかずに計画し実行してしまったのだろう。もう遅いけど
「でも住んでみたら意外と快適よ? 毎日暇がないくらい」
「オークが来んだからだろ? あんたおもしろいなぁ」
取り繕いニコっと浮かべるもばっさりと切り返される。うっ。
食事を取り調子が戻ってきたようで良かったが結構言うわねこの子。楽し気な視線を感じてスプーンを咥える。これ以上言っても面白がられるだけそう
「タツキだって奥の森へ採取しに行ったの? 隣街からならもっと近くに森があったわよね」
気になっていたことを口にする。隣町とここシージュの間にも森はある。わざわざシージュを超えた先の森は魔王の領地に近い為よっぽどのことがなければ行く者は居ない筈だ
ちなみにオークの親子は毎日その森を通って来るらしい
「それは……」
「話したくなければいいわ。相手がゴブリンってことは貴方年齢も若いし冒険者になったのも最近じゃないの?」
この国は12歳から冒険者登録が一応出来るようになっている。冒険者といっても色々と職業があるみたいだけど一人でこんなところまで来るのは余程の腕前か物知らずだ。タツキは後者だと思った
「オレ…妹がいてもうすぐ10歳なんだ。だから…」
「12歳というとちょうど中等部入学の年齢ね」
「あいつオレより頭いいし、可愛いし学校行かせてやりたくて…っ」
12歳は中等部学園の入学年齢だ。ただこの国イラーンの中等部就学率は貴族を除けばかなり低い。それは学校へ行くよりも働きだす者が多い為。義務教育ではなく且つ、資産を投じて学園へ入れる余裕のある家は多くはない為殆どの平民は学びを選択しない
二階で寝ているチップもその内の一人。二つ年上の彼は教会での就学止まりだ。それ以降は庭師として親子で我が家にて働いてくれていた。従者となった後は私と同様に家庭教師をつけていた筈
タツキはどうなんだろう、口振りから平民といったところか。獣人の貴族は獣人国にしか滅多に居ない為、獣人と言えば平民か冒険者…孤児や奴隷だったりする
「確認だけどタツキ達は普段何してるの? 妹さんは?」
「オレは前までは教会に居た。妹はまだそこにいる。でも10歳になったら出されるから…」
「そう…。だからタツキは危ない奥の森まで来て採取をしていたのね」
ふむ、と手を口元に当て考える。幼い猫獣人が二人教会に居たということは孤児なんだろう。いくらタツキが採取を頑張っても採取集めは報酬が少ない気がする。このまま帰ってもまた奥の森へやってくるだろう
そこまで考えると終わった食器を片付けるために立ち上がる
「ちょうど私も一度街へ降りてみたかったし、明日一緒に行きましょう?」
「え、いいのか? オレ甘えちまって」
「ええ、食材の調達や魔石も欲しかったし。隣町は行ったことがなかったから案内してくれると嬉しいわ」
「そんなことならオレに任せてよ」
明日街へ行くことが決まった。日々減っていく食料に不安を覚えつつあったので買い出しはどこかで行かねばと思ってた。案内があればとても助かる。今日の全く役立たないオークらより役に立ちそうだ
次の日マジックバッグに旅支度を入れて身軽な軽装へと身を包む。辺境の街だけど用心はするべき、しっかりフードを被る
チップもついてきて欲しかったが、もしお尋ね者として伝令が出ているなら私とチップな筈なので遠慮して貰った
「もう大丈夫よ」
先に用意を終えたタツキへと声をかける。昨日よりは動けるようになった彼は朝食にパンをジャムをたっぷりかけて食べていた
「このパンうまいな、よし行くか」
「お嬢様、くれぐれも気を付けて下さいね、歩きなんて大丈夫でしょうか…」
心配そうに玄関の椅子に座るチップに笑ってみせる
「何とかなるでしょ、タツキもいるし。足りなくなってきたパンなど購入してくるわね」
「本当は僕の仕事なのに…すみません」
「気にしないの。昨日のぎっくり腰治ってないんだからゆっくり休んでちょうだい」
今朝チップの叫びに行ってみれば腰が抜けていたという運の無さオンパレード。タツキに二階から下ろしてもらい座っているのがやっとだった
「じゃあいってくるわね! オーク達は適当にあしらっておいてね!」
「それが一番の問題なんですけどね…」
乾いた笑いを聞きながらタツキと私は出発した
「…………」
家から出て少し歩いたところに馬車が止まっていた。黒毛の逞しい馬が二頭引いている馬車のエンブレムは特にない。何故廃墟の街に馬車があるのか嫌な予感しかないがエンブレムがないのが気になる
タツキとお互い視線を合わせてから伺うように歩いていく。もしもの時は氷漬けにしてしまおう。
馬車の数メートル前まで来たら御者が下りてきて恭しくお辞儀をした
「スカーレット様ですね。主が中でお待ちしております」
言葉と共に扉を開く彼は燕尾服を着こなし白髪の髪を後ろへと流し小さな丸眼鏡をしていた初老の男性だった。誰?
「えっと、貴方は一体…」
「それは主に聞いて頂ければと。本日はカイガ街まで送りするように承っております」
あくまでも姿勢を崩さない御者に困りタツキへと視線を向ける
「街まで連れってくれんの? ラッキーじゃん。馬車なら一日もかかんないし乗ろうぜ」
「タツキも言うなら…」
頷き御者の手を取り馬車へと上がる。続こうとしたタツキの前に扉は閉められた
「えっオレは!?」
「主はスカーレット様だけ、とのことですので」
「はあー!?」
一体どうゆうこと? 閉められた扉の窓を覗くとタツキと御者が話している
「ほら此方に座るがいい」
後ろから低い声がかかる。聞き覚えのある声に振り返ればと中へと見上げれば長い足を組み優雅に座る魔王が居た
「久しいな、スカーレット。」
「ヒッな、なななぜ?」
反射的に叫びそうになり口元を抑える
「なに、カイガ街へ行くと聞いてな。この前の約束を果たしに来た」
約束? 何!? 魔王となんて約束なんてするはずないっ。馬車の中で立ったまま狼狽する私に魔王は肘をつき面白げに眺めている
扉が叩かれた。窓を見るとタツキが慌てた顔で叩いていた。大丈夫、と頷いて窓を見ていると後ろでパチンと音がし窓のレースが閉じられてしまう
「とりあえず座ったらどうだ。街に用事があるうのだろう?」
「え、どうしてそれを…。あ、あの外の獣人は知り合いなのです」
「御者の隣に乗せていくから安心しておくれ」
気になり窓をちら、と見ながらも座ると魔王は頷き、馬車が揺れ動き出したのが分かった。私は気になっていたことを口にする
「その、魔王様…」
「魔駝鳥だ」
「魔駝鳥?」
遮られて目を瞬く。魔王は大仰に頷いてから
「そうだ。前に肩に乗っていたの覚えてるだろう。魔駝鳥だ」
鳥、名前があったんだ。しかも魔王と意思疎通出来てるのか…
そういえば毎回鳥も来てたわね。もしかして魔王に筒抜けだったりするのかしら
「気になるか?」
「い、いえっ、大丈夫です!」
ニヤリと口端を上げて笑みを浮かべた彼に思わず首を横に振ってしまう
馬車の中は思いの外居心地が良く揺れも気にならない。ただ目の前の彼だけは…
ちら、と視線を向けると此方をずっと見ていたのか視線が合う。気まずくなって窓に顔を向けるも隠れて景色も見えない
手持ち無沙汰な私は思わず唇を尖らす
「フッ、」
ああ、笑われた。この空間どうしよう…
魔王の思惑はさっぱり分からないけれど歩かなくて済んだのは助かった。もう顔を上げれない私は早く街につくことばかり考えていた




