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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
魔の森の騒乱

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99 もはや才能の域

「有毒。これも有毒。……このリンゴは食べられるか?」


「うーん……あ、これもアウトだね」


現在、ディルとリズは、念には念を入れて、イナリが嬉々として持ってきた木の実やキノコを仕分けていた。


「……なるほど。最終的に三十六個中、二十個が有毒か。……お前、毒鍋パーティでもやるつもりか?」


「そ、そんなつもりではなかったのじゃ……」


「イナリちゃん、狙ってやってないのならもはや才能の領域だよこれ」


 結果として、イナリが持ってきたものの半分以上が、人間が食べると何かしらの害があるものであった。


そのあまりの戦績に、ディルは呆れを通り越してもはや憐みすら感じていた。せめて、狙ってやったと言ってくれた方がまだマシだったかもしれないとすら思っていた。


「というかだな、エリスは何してたんだ?お前だって、ここにあるものの大半は判別がつけられただろ?」


「ええ、しかしとても重要な理由があるのです。私達が森に入っていってからの事なのですが―」




 時は少し遡り、イナリとエリスが森に入ってすぐの事。


「む、これはお主が前言っておった『虹色の悪魔』じゃ!」


 イナリが森に生えていた目が痛くなりそうな色合いのキノコを指さした。


「おお、イナリさん、正解です!よく覚えていましたね」


 エリスはイナリがしっかりと毒キノコについて覚えていたことを褒め、頭を撫でる。


「ちと食べてみても良いかの?」


「いやダメですよ、何言ってるんですか?」


 イナリの頓珍漢な申し出に、エリスは思わず撫でる手を止めた。


「ほれ、前は何も知らずにこれを食べてしまったじゃろ?しかし、これがどのようなものかを知った今なら、また別の味わいを感じられるのではないかと思うての」


「ダメです。イナリさんに効かないとはいえ、毒キノコだとわかった上でそれを食べさせるようなこと、私は許しませんよ」


「そ、そんな……」


 イナリは耳と尻尾をしゅんとさせて項垂れる。


「くっ……こ、心苦しいですが、ダメなものはダメです」


 その様子を見たエリスは若干心が揺さぶられたが、何とか耐えた。


「イナリさん、この森の中には他にも色々あるはずでしょう?そちらを採って戻りましょう」


「仕方ないのう……。あ、ではこれはどうじゃ?」


 イナリは近くにあったピンク色のキノコを指した。


「それは……名前は忘れてしまいましたが、確か毒キノコだったはずです。あ、その隣のキノコは食べられるものだったはずですよ」


 エリスはピンクのキノコの隣の、橙色の縦長いキノコを指した。


「むむむ……どのように判別しておるのじゃ?」


 イナリは唸りながらキノコをつまんで様々な方向から確認する。


「ええと、私も専門家ではないですから、判別法までは知りませんが……。冒険者ギルドには食べたら危険なものをまとめた本なんかがありましてね、ギルド書庫で参照できるのですよ。確かそのキノコもそこに載っていたはずです」


「む、図書館ではないのかや?」


「図書館にもあるでしょうが、そちらはかなり詳細が事細かく書かれた、学術的な側面が強く出ているでしょうね。それで知識が身に付けばそれに越したことは無いのですが、冒険者が皆そういった本を読んで理解できるとは限らないですから。ギルドに用意されたものはかなり要点を絞った内容になっているのです」


「なるほどのう」


 つまり、利用者の知識レベルや用途に合わせた内容になっているということだろう。時間があればそれらを見に行くのも面白そうだと、イナリは頭の片隅に留め、再び木々の間を歩き出した。


「む、これはどうじゃ?可食部が少ない故あまり好んでは食べておらぬが、味は悪くなかったはずじゃ」


 次にイナリが目にとめたのは、この世界に来てすぐの頃に食べたアボカドっぽい実であった。種が巨大すぎて可食部が殆どないのがネックだが、瑞々しくて若干の酸味もあり、悪くなかったはずだ。


「……それは『シードセル』という実だったでしょうか。僅かながら麻痺毒が含まれていたはずです。イナリさん、それも食べたんですね……」


「ここに来てすぐの頃にの。しかしこれもダメであったか。ふうむ……」


 この後もイナリは森を歩いては木の実やキノコを見つけてはエリスに問いかける。


「エリスよ、これはどうじゃ?」


「毒入りですね」


「……今度こそ、このキノコはどうじゃ。悪くない食感だったと記憶しておる」


「確か、食べたら二日ほどで死に至りますね。……食べたんですね?」


「……では、この実はどうじゃ?」


「食べると一か月ほど昏睡状態になると言われている実ですね。あ、その隣の木の実は食べられますよ」


「……うぅ……今度こそ、今度こそはお主らでも食べられるもののはずじゃ……」


「……これは確か食べたら十分で死に至るキノコですね……あっ、すみません、泣かないでください」


 あまりにも有毒のものしか目に留まらず、エリスによる度重なる却下によってイナリのテンションは下降し続け、遂に目に涙を浮かべるところまで至ってしまった。


 これにエリスは慌てて、どうにかフォローの言葉を捻りだす。


「と、とりあえず次行きましょう!次こそは良いものが見つかるはずですから!」


「ぐすっ……本当かや……?」


「本当です!ささ、いきましょう!」


 エリスはどうにかイナリを奮い立たせる。


エリスとしても、そろそろ毒入りだと告げるたびにしゅんとするイナリを見るのが苦しくなってきたところで、頼むから、そろそろまともなものを見つけてくれと内心で願っていた。


「む、これはどうじゃ!これ、リンゴじゃろ!?確実にお主らでも食べられるのじゃ!やったのじゃ!」


 次にイナリの目に留まったのはリンゴであった。


これはイナリの地球での知識に基づいて明らかに毒入りでないとわかるものであり、勝利を確信したイナリは手を挙げて喜ぶ。


「ふふっ、やりましたねイナリさん、これなら―」


 イナリを称えながらエリスはリンゴを手に持って全体を確認し、リンゴのがくの部分が異様に青いことに気がついてしまった。


 これはただのリンゴではなく、普通のリンゴだと思って食べた人々を数多く死へと導いた「インサイドブルー」と呼ばれるリンゴであった。当然、毒リンゴである。


「ふふん、どうじゃエリスよ、今度は大丈夫じゃろ!?」


 イナリは目をキラキラと輝かせ、尻尾をパタパタと振ってエリスの判定を待っている。


 それを見たエリスは事実を告げるべきか否か葛藤した末に、ついに答えた。


「はい、大丈夫ですよ」




「いや、大丈夫ですよじゃねえだろ、毒入りじゃねえか」


「私にはもうイナリさんを悲しませるようなことが出来なくて……そこからここに戻るまでの道でイナリさんが見つけた物は全部持ってきてしまって……」


 エリスは顔を両手で押さえて、懺悔をするようにその後の出来事を語る。


「それにしたって毒入りの割合が異常だよ……。え、この森ってそういう植物ばっかりの地帯なの?」


「いえ、私が見た限りではそんなことは無かったのですがね。どういうわけかイナリさんは悉く毒入りの方を選んでしまうのですよね」


「イナリちゃん、実はそういう能力とか性質とか持ってたりする?」


「持っておらぬわ!うう、ようやくお主らでも食べられるものが見つかったと喜んでおった我の気持ち、どうしてくれようか……」


「うーん、確かにこれは見てて悲しくなるなあ……」


 過去にイナリを止められず「超まんぞくオムライス」を注文するに至ってしまった実績を持つリズは、エリスに共感する姿勢を示した。


「でしょう?私は相当耐えた方ですよ」


「俺にはさっぱりわかんねえ。全部突っぱねりゃいいだろ」


「一回イナリさんと一緒に行動してみてください。多分わかりますよ。……いや、イナリさんをディルさんに任せるのは不安なのでやっぱり無しでお願いします」


「何だそりゃ……」


「とりあえず、食べられるものはエリック兄さんに渡してくるね」


 リズが籠に乗せられたキノコや木の実をもって、火に鍋を乗せて何か料理をしているエリックの方へと歩いて行った。


「おう。……この毒入りの方は捨てて来いよ」


 それを見送ったディルは、イナリに毒入りと判別された物を処理するように言った。


「い、嫌じゃ。そんな勿体ない真似は出来ぬ……。我は問題なく食べられる故、これらは我が食べるのじゃ。そのまま食べることには慣れておる故、調理も要らぬ」


「いや、何というかだな、絵面がヤバいんだよな……」


「子供に毒キノコを食べさせて、その横で普通の料理を食べるって、相当えげつない所業ですよ……」


「子供じゃないのじゃが?神じゃが??」


「残念ながら、お前が神だろうが何だろうが、少なくとも俺の中ではお前は子供っていう認識だからな、今までと何かが変わることは無いぞ」


「ぐぬぬ……」


「イナリさん、そこの畑の肥料にしてはいかがですか?それなら無駄にもならなくていいでしょう」


「いや、肥料など無くても我の能力で一発じゃし……」


「あっ、それもそうですね……。では捨てましょうか?」


「……仕方ないのう、肥料にするのじゃ」


 イナリの矜持が植物を無駄にすることは許さないので、渋々、毒入りの植物群はイナリの畑の肥料として活用することにした。


「皆、あと少しでご飯が出来上がるからね!」


 そしてタイミングよく、エリックが皆を呼ぶ声がその場に響いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] そもそもそんな猛毒群を畑にまいたら普通の植物とか土壌、死滅するか汚染されるのでは…?
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