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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
魔の森修復作戦(仮題)

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417 堅物 ※別視点

<リズ視点>


「おい、今は魔術バカやってる場合じゃねえぞ」


「はいはい、リズだって分別くらいついて――」


 全世界の魔術師が涙を流すであろう、芸術とすら呼べる感動的な出来のドームに感動していたところ、ディルが水を差してきた。渋々双眼鏡を下ろしてディルの方を振り返ると、傍には少し前に民間人から色々と言われていた子が立っていた。


「……えと、その子は結局、どういう感じの人?」


「ラズベリー。敵ではない」


「一応、そういうことらしい」


「そっか。ええと……よろしく?」


 悪人面のディルが大丈夫と言うのなら悪人ではないと思ってよさそうだけれど、こういう時って握手とかした方がいいのかな。……なんて思っているうちに、ラズベリーちゃんはドームを見ながらリズの隣に立った。


 続けて、今の森の位置を測るように周囲を見回し、口を開く。


「間違いない、あの場所は例の花畑の場所。貴方たちの仲間とリーダー達はあの中に閉じ込められている可能性が高い。早く助けに行った方がいい」


「それは、本来僕たちが向こうに居る予定だったからだね?」


「……そう。騙す形で貴方たちを利用しようとしたことは認める。ごめん」


 元々、リズ達も仕掛けられた罠の狙いは読んだ上でこうして二組に分かれている。そのために色々と準備して、秘蔵の魔道具をいくつか掘り出してきたくらいだし。


「僕はあの二人を信用している。心配は無用……と言いたいところだけど。ディル。この後、念のため様子を見に行って貰ってもいいかな」


「あー……まあ、流石に魔王があんなことする予定は無かったもんな。仕方ねえ」


 今までだったら魔の森で何かあったら「またイナリちゃんが何かやったんだな」くらいの感想だったかもしれないけれど、今回は事情が違う。イナリちゃんにあんな草魔法の極致みたいな芸当はできなかったはずだし、何か今までにない異変が起こっている可能性もある。


 その辺りの事を踏まえて、エリック兄さんはディルを向こうに送ることにしたんだろう。


「で、リズ達はどうするの?」


「そうだね、一旦救助した人たちを安全なところまで――」


「待って、ここまで来て厚かましいのはわかっている。でも、助けてほしい」


 エリック兄さんが話していると、ラズベリーちゃんが遮る。


「助けというのは?」


「こんなに都合がいいタイミングで魔王が動いたのは、魔王崇拝者の仕業だと思う」


「ああ、さっきも何か呟いてたやつか?」


 ラズベリーちゃんの言葉にディルが尋ねる。


「魔王崇拝者は魔王を制御できると豪語していた。ただの妄言だと思っていたけど、あれを見た今ならわかる。あれは人為的に仕組まれたもので間違いない」


「そ、そうなのかなー……?」


 魔王って要するにイナリちゃんのことだけれども、本人からそんな話を聞いた記憶は全く無い。仮にイナリちゃんを操る術があるなら、多分一番初めに会得するのはエリス姉さんだろう。何か、催眠魔法にやたら興味深々だったし……。


「恐らく連中は、秘密裏にどこかで儀式を行っている。それを特定するから、その間の時間稼ぎをしてほしい」


「残念だけれど、それはできないかな」


「……どうして?」


「君が裏で色々と尽力していたのはわかった。けれども、裏も十分に取れていない現時点で全てを信じることはできない。君は逃げることもできるし、実はこれも罠で、僕達が嵌められる可能性もある。あるいは、仮にも魔王の力を扱える相手となれば、十分な対策もせずに乗り込むのはリーダーとして頷けない」


 エリック兄さんにしては珍しく、ラズベリーちゃんを半ば突き放す受け答えだ。


 実際断りたいからこういう返しをしているんだろうけど、普段の優しい姿を知っているだけにちょっと怖いんだよなあ……。


「それと、ここまでの出来事はギルド経由で教会まで伝わる。きっと教会から戦力が派遣されるだろうから――」


「それだと遅い。……もういい、私だけでどうにかする」


 そう言い残したラズベリーちゃんは、歩いて茂みの中へと消えた。




「追わなくていいのか?」


「ああ。僕達だけならまだしも、今は他のパーティにも協力して貰っているからね。いつも以上に慎重にならないと」


「そうか。お前はこう、そういうところは本当に昔から変わらねえな」


「はは、冒険者として情けないかな?」


「そんなことは言わねえよ。ここまでやってこれたのはお前のおかげだしな。ただ――」


 エリック兄さんとディルが長年の相棒感を醸して話し始めた。何だろうこの、リズだけ仲間外れ感。イナリちゃんとエリス姉さんと一緒に居た方が良かったかな。


「――もう少し優しくしてやってもよかったんじゃねえか?」


「えっ」


 適当に杖の先端を弄りながら待っていたところ、ディルの言葉に思わず困惑の声を上げてしまった。


 あのディルが、他人を気遣っている……!?


 これは何か、天変地異の前触れなのでは?ああいや、天変地異はもう起こってたんだった。


「おいチビ、お前何か変な事考えてねえだろうな」


「え?い、いや別に何も!?ささ、どうぞ続けて?」


 今はリズの方が分が悪いから、話の続きを促す。今回ばかりは「チビ」呼ばわりも不問にしよう。


「ったく……。まあ何だ。思うんだが、他所はともかく俺たちはこの森の『魔王』が何なのかも、妙な術やら儀式やらで操れるような奴じゃないことも分かっているんだ。別に話に乗ってやってもよかったんじゃないか?」


「確かに、それも少し考えた。あるいは実際にイナリちゃんが何かされていたら大変だし、猶更行くべきだろう、とも」


「……だが他のパーティも居るから、ってことか?」


 ディルの言葉にエリック兄さんは苦笑して返した。


「ギルドの仕事を大量に捌いているお前を見ている時も思うんだがな……責任感があるのは結構だが、他の奴に任せることも覚えた方がいいんじゃないか?」


「ディル……」


「お前に頼られれば、喜んで引き受ける奴なんざいくらでもいるだろ。ほら、向こうを見て見ろ。向こうで指揮を任せられそうな中堅のパーティが待っているな?」


「……そうだね、少し相談してみよう。ありがとう」


「別に大した事は言ってねえよ。俺は堅物なリーダーを唆しただけさ」


 ディルの言葉に苦笑しつつ、エリック兄さんは別パーティのメンバーへ声を掛けに行った。


「ディル、少し見直したよ。……でも、イナリちゃんは操れないみたいな風に言ってたけどさ、イナリちゃんって、食べ物あげたら大体言うこと聞いてくれるよ?」


「……複雑な術も儀式も要らないって意味では、間違ったことは言ってないだろ?」

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