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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
魔の森修復作戦(仮題)

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415 翻弄される暗躍者 ※別視点

<ラズベリー視点>


 「世界庭園創造会」は実に奇妙な形で成立している集団だ。


 まず初めに、どこからか流れてきた、アルト神以外の何かしらを信仰する異教徒集団がここに住み着いた。


 自然と調和することで力を授かることができるとか何とか、彼らの主張は殆ど理解しがたいものだ。それも当然、彼らはこの森の魔王を神として崇める狂人――魔王崇拝者なのだから。


 彼ら曰く、この森の魔王が暴れていないのは偏に彼らの尽力の賜物だとか。……たかだか百人足らずで魔王が制御できるなら、今頃世界は平和になっているはずだ。


 ともかく、そんな狂人集団に利用価値を見出したのが、これまた別の土地から流れてきたあのリーダーが率いる一団――名もなき悪党たちだ。


 彼らは魔王崇拝者の理念に「共感」し、魔物や余所者から守る名目でここに住まうことにした。そして司祭級の者と懇ろになり、信者に「神のため」との名目で雑用を任せたり、悪事を唆したりするようになった。


 これで信者がお縄になったところで、それは表向き「暴走した信者が大変なことをしでかした」ようにしか映らない。教会が動き始めたら尻尾を切るだけの話なので、隠れ蓑とするには実に都合がいい環境だった。


 ……が、異教徒の手綱を握るのは難しかったらしい。魔王を崇拝するような者が有する常識や価値観は常軌を逸しており、同じ言葉を使っているのに話が通じない場面が多々あった。


 これにはリーダーも困ったようだが、結局暴力で解決すると彼らを利用しづらくなると判断したらしい。その結果「世界庭園創造会」という集団の皮を被って、他所からまともな人間を連れ込むことになったのだ。


 そうして甘言に惹かれてしまった哀れな一般人が、エリオットのような人々だ。彼らは現状、魔王崇拝者と同じような生活を強いられ、便利な駒として使われているのだ。


 元々私は、情報収集のために哀れな一般人の一人としてここに加わったわけだが……「雇い主」の指示は段々思ってもいなかった方向へ進み始め、被害者を最小限にしろだの、信用を得て上手く掌握しろだのと、最初とは全く違う指令を下してきたのだから堪ったものではない。


 勿論「雇い主」である以上、指令には従うが……この仕事が終わったら報酬について交渉する権利はあるだろう。




「――この辺りはお前らに任せたからな」


「了解」


 作戦決行の日。部隊をまとめて出発する直前でのリーダーの言葉に私は頷いた。


 この後、リーダーは私が持ちかけた依頼を受けた冒険者を襲撃するだろう。だが、間違いなくそれは失敗に終わると確信していた。


 話では、向こうは女二人だけ。しかも片方は獣人とはいえ子供のメンバーを揃えて依頼を受けると言っていた。


 だが、向こうは高等級の冒険者だ。あんな露骨な罠に対して馬鹿正直に二人で赴くわけが無い。絶対に他の仲間を潜伏させているだろうし、一朝一夕に用意した策は、まず間違いなく意味を成さないだろう。


 強いて言えば、彼が信頼を置いている魔術師が不安要素ではあるが……技術に長けているだけで体力は無さそうだし、経験のある冒険者なら簡単に対処できるはずだ。


 そんなわけで、厄介者の排除は冒険者に任せて、私は残りの些細な「おつかい」を済ませて帰るだけ。長い道のりだったが、ようやく終わりが見えてきた。


 そう内心安堵していたところ、襲撃隊の一団の中にふと気になる人物を見つけた。


 それは先日一緒に冒険者ギルドへ赴いた男、エリオットだ。彼が望んで仲間となったならただ侮蔑して終わりなのだが、手足が縛られ、口も塞がれて恐怖に染まった表情を浮かべている辺り、とてもそういう事情ではなさそうだった。


「……リーダー。何故あいつを部隊に?」


「ああ、あいつか?禊さ、禊。俺たちの側に完全に引き込むなら、これくらいはしないとな。それに、お前も通った道だろ?」


「それは確かにそうだけど」


 リーダーの言う通り、一応は「禊」を行っている。あれは、反逆的な姿勢を見せていた者を魔の森の奥深くに連れて行って、置き去りにするというものだった。あれは色々と苦労させられた記憶がある。


「それとも何だ、あいつに情でも沸いたか?」


「それは無い」


「ハッ、即答か。可哀想で涙が出そうだ」


 リーダーは嘲るような笑みを浮かべ、集合させていた部下のもとへ戻り、発破をかけて出発していった。その様子を見届けつつ、私は外套を深くかぶって歯噛みした。


 エリオットは現状、この集団の中では最も命が軽い立場と言っていい。完璧な仕事をするためにも、ここから逃げるついでに回収する予定だったのだが……厄介なことになった。


 冒険者の方で救出してもらうことを期待しようにも、あの男のことだ、危険が迫ったら「人盾」ぐらい平気で使うだろう。そうなると冒険者側も迂闊に手を出せなくなってしまう。


「……どうしようかな」


 そう独り言を零しつつ、拠点の巡回に向かうことにした。歩いている間に良いアイデアが浮かんだらいいのだが。




 あれこれ考えながら森を歩いて進み、一般人達が過ごしている区画の近くを通りがかった時。


 数人のグループが、木陰に隠れながらどこかへ向かっているところを発見してしまった。私を見るなり屈んで姿を隠した辺り、何かしらの行動を起こしていることは明らかだ。


 他の連中はアレに気が付いていないのかと周囲を見回すが、誰も彼も間抜けな面を晒して、農作業に勤しむ作業員を眺めているだけだ。あまりのザル警備に呆れて言葉も出ない。


 とはいえ、こちらとて彼らを咎める気は毛頭ない。


「……あー、今日はいい天気だなー」


 空を見上げて独り言を零してみれば、向こうも安堵したのか、ガサガサという音を立てながら少しずつどこかへ向かっていく。道化を演じるにも限度というものがあるので、もう少し隠れる気を見せてほしいのだが。


 ともかく、こんな一般人が魔の森を歩くのが自殺行為というのは彼らも理解しているだろう。つまりこういった行動を起こすということは、逃げる算段があるか、あるいはこの場の暮らしに耐え兼ね、決死の覚悟で脱走を試みていると見るべきか。


 前者ならば詳細を確認しておく必要があるし、後者ならば無駄な死者を出さないために多少の道標を用意する。どちらにせよ、彼らの動向を追う以外の選択肢は無い。


 そう判断した私は、木々の上に飛び乗り、慎重に彼らを尾行することにした。




 しばらくすると、私が尾行していた者は数十人の団体と合流した。


 ここは森の一角、特徴的な岩がありやや開けた場所ではあるが、魔物用の罠を撒くだけ撒いて、開拓も巡回も殆どしていない場所だ。


 一体こんなところで何をしているのだろう――まさか、知らない間に秘密の会合でも行うようになっていたのか?……いや、それだけ派手に動いているのならば、他の連中も気が付いて、今頃問題になっているはずだ。


 となると、流石に時間が経てば異常事態だと騒ぎになるだろうし、彼らはこのまま脱走するつもりなのか。


 現状の整理に思考を巡らせていると、拠点の外側、罠を撒いてある方角から、木を切り倒すような音と共に何かが近づいて来る。


「……魔物?」


 いつでも飛び出せるよう腰に提げたダガーに触れて警戒した直後、木が勢いよく倒されたと思えば、ぞろぞろと武装した集団――冒険者の一団が現れた。


 その中でも異彩を放つ、私よりやや小さいくらいの背丈の魔術師が声を上げる。


「おぉ、ちゃんと皆待っててくれたんだ!よかったー!」


「お、おお、冒険者だ。本当に来たんだ……!」


「やった!私達、助かるのね!」


 なるほど、ここに来た者は皆この冒険者達の保護を当てにしていたのか。以前この拠点に来た冒険者――確か「疾風」と言ったか――彼らが根回ししたのだろうか?


 それにしても、先ほど声を上げた魔術師をはじめ、「虹色旅団」の面々まで連れて来るとは随分と周到な気がする。


「……ん?」


 ちょっと待て。


 確か、私が依頼を持ち掛けたのは「虹色旅団」の女子二人だったはずだ。まさか、リーダーの側に向かった冒険者は本当にあの二人だけなのか?


 あんな露骨に「これは罠です」と宣言しているような依頼を持ち掛けたのに、まんまと嵌っているということか?


 だとすると非常に拙い事態だ。冒険者にリーダーを潰してもらうどころか、被害者が増えるだけではないか。


 この状況を修正する最善手は何だ?私だけの手に負える問題なのか?


 あれこれ思考を巡らせ、また目の前の光景に意識を戻すと、冒険者のうちの一人、ガラの悪い盗賊の男の目が私を真っ直ぐに見据えていた。


「おい。そこに居るお前は何だ?」


 彼は、他でもない私に指を向けていた。

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