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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
魔の森修復作戦(仮題)

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414 絞る

「――なるほど、力が収まらないと」


「うむ。それで我自身に力を溜めればよいのではないかと考えたのじゃが……それだと爆発するんじゃよな?」


「そうね」


 イナリの言葉にアースは頷いた。


「貴方がしようとしたことは力を圧縮よ。今後ずっと力を籠め続けるつもりならいいけど、今後碌に力は使えなくなるし、うっかり気を抜いたら最後、こうなるわよ」


 アースは顔の横で握った拳をぱっと広げた。


「創造神が同じことをすると宇宙が生まれるけど、あなたの場合……まあ、この世界の半分ってところかしら」


「う、宇宙?世界の、半分……?」


 ただイナリが爆発するだけの話かと思ったら、突然宇宙だの世界だのという単語が飛び出し、イナリは思わず言葉を反芻した。己が如何に危険な事をしようとしていたのかを少しずつ自覚し、顔が青ざめていく。


 そんなイナリを見て、アースは苦笑しつつ肩に手を置く。


「反省しているようだし、これ以上あれこれ言うのはやめておくわ。……ああでも、貴方がうっかり世界を滅ぼしたら、私も一緒にアルトに謝らないといけなくなるから、あまり変な事はしないで頂戴ね?」


「う、うむ。肝に念じよう」


 おどけた様子で片目を瞬いたアースに対し、イナリは素直に頷いた。


「それで、力を抑える方法だけれど……恐らく既に暴走状態で貴方だけじゃどうしようもない状態みたいだから、私が手伝ってあげる」


「手伝うとな。一体何をするのじゃ?」


「貴方を絞るわ」


 やや前のめりな姿勢で耳を傾けていたイナリは、その体制のまま硬直した。


「……聞き間違い、かの?」


「絞ると言ったのよ。こう、ぎゅっと」


 聞き間違いであってくれと内心祈っていたイナリの想いとは裏腹に、アースは無慈悲に雑巾を絞るような動作で腕を捻る。この創造神は、イナリに雑巾になれと言っているのだ。


 果たしてそれでイナリの悩みが解決するとも思えないが、アースの真面目な面持ちからして一応解決策の一つではあるのだろう。色々な意味で信じられないが。


「他にもっとマシな案は無いのかや?」


「うーん……直接弄ることもできなくはないわよ?」


「な、何をじゃ!?」


 絞るよりも嫌な響きの単語が飛び出し、イナリは尻尾をぼわりと膨らませながら一歩引いた。もしかしなくとも、失敗したら大変なことになるに決まっている。


「後は……貴方の力を私が貰い受けることもできるわ」


「ほ、ほう。詳しく聞かせるのじゃ」


 絞る、弄ると碌でもない言葉ばかり聞かされた後に漸く出てきたまともそうな案に、イナリは密かに胸をなでおろしつつ、アースに続きを促した。


「文字通り、貴方の身体に流れる力を私の方へ向けるのよ。ただ、アルトに同じことはできないから気を付けて頂戴ね。私が貴方の生みの親だからこそできることなんだから」


 アースは胸に手を置いてしたり顔で告げた。


「……何故、そんな良い方法より先に、あんな碌でもない案が出てきたのじゃ?」


 一方、渋い表情を浮かべて身構えるのはイナリである。……まさかこの創造神、加虐趣味でもあるのだろうか。


「何だか、ものすごく失礼なことを考えられている気がするのだけれど……この方法だと、力を貰い受けた後、貴方はしばらくただの人間と同じような状態になるのよ」


「む、確かにそれは気になるのう。どの程度続くのじゃ?」


「そうね……最短一週間、長くても一ヶ月ってところかしら」


「ふむ」


 イナリは一言相槌を返し、尻尾を揺らしながら考える。


 確かに一定期間とは言え人の身になると言われると身構えることもあるだろう。


 しかしイナリは普段神の力もそこまで行使していないし、普段は街中の安全な環境で過ごしている。これが何百年、何千年も続くとなると考える必要もあったかもしれないが、最長一ヶ月程度で元に戻れるのであれば十分に許容範囲である。


「よし、問題無かろう。お主に力を預ける方で進めるとしようぞ」


「本当に?思っているよりも大変よ……?」


 即決したイナリに対し、アースは心配そうな表情でイナリを覗き込む。


「平気じゃ。他の碌でもない方法と比ぶべくもない」


「……ま、本人がそう言うなら仕方ないわね。それじゃ早速――」


「――あいや待つのじゃ!」


 アースがイナリの力を貰い受けようと手を握った直後、イナリはアースの言葉を遮った。


「まだやるべきことが残っている故な、もう少し待ってくれぬか?」


「やること……ああ、この森を戻すって話かしら」


「然り。折角じゃ、もし時間があるのならば我が活躍する姿を見て行かぬか?勿論、手出しは無用じゃ、ただ隣で見ておるだけでよい」


「……まあ、貴方のそんな姿は中々見られ無さそうだし。いいわ、先導して頂戴」


「くふふ、そう来なくてはの。さあ、こっちじゃ」


 一人は少し寂しいと思っていたところ、思わぬ同行者を得られたイナリは密かに心を躍らせながら森を歩き始めた。


「しかしそうか、暴走か……。我の力が覚醒したとか、そういう話だったらよかったのじゃが。……いや、我から溢れる力が抑えきれぬと言えば、それはそれで強そうで良いやもしれぬな?」


「アホなこと言ってると絞るわよ」




 イナリはアースへこの後の計画を説明しながら森を歩き、間もなく社の近くへ到着した。時刻は昼下がり、色々と予期せぬ事があったものの、進捗状況としては申し分ない状況だ。


「あとはこの辺りで我の力を使うだけなのじゃが」


 茂みから顔を覗かせるイナリ達の視線の先には、己の社の前で対峙する人間達の姿があった。よく見ると、その中にはイナリに声を掛けてきた男やエリオットの姿もあった。


「確か、人払いの布石は打ったって話だったわよね?普通に居るけれど……」


「うむ……え、何してるんじゃあやつら……」


 イナリ達は困惑した面持ちで顔を見合わせた。


 この森は現在進行形で魔王、すなわちイナリの力が暴れている非常に危険な場所だ。そんな場所にいるなら普通は逃げる一択だろうに、何を口論することがあろうか。


 勿論、もう彼らが居ようが居まいが計画を推し進めるつもりではあるのだが、それはそれとしてどういった理由でここに居るのかは少し気になるところだ。


 故に、イナリは耳を立てて彼らの会話に耳を傾ける。


「――魔王を……制御して……なら……」


「――……魔王とは……龍……」


 しかし、辛うじて魔王の話をしていることが分かるのみで、具体的な内容はさっぱりであった。


「よくわからんが、別に気に掛ける必要も無さそうじゃ」


「そう。……ん?また何か来たわよ」


「む?」


 再び顔を上げて見ると、先ほどまで対峙していた二つの集団に加え、見慣れた冒険者の装いをした集団が現れた。その中には、今頃民間人を連れて脱出しているはずのエリックとリズの姿もある。


「……本っ当に、何してるんじゃあやつら……!」


 どうにも思い通りに事が運ばないことに対し、イナリはその場で頭を抱えて唸った。

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