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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
魔の森修復作戦(仮題)

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408 魔核片を知る者 ※別視点あり

<エリオット視点>


 思い出すだけで身の毛がよだつ、恐ろしい怪物を目にした後。


「――よし、追って来てはいないみたいだな。全く、何なんだアイツは?」


 僕達は一目散に逃げていた。……とはいえ、僕は手足が縛られて動けないので、実際に動いたのはリーダーや手下、近くに居た仲間数名だし、僕は気を失っていただけだ。


「はあ、はあ……リーダー、こいつ重いですよ!わざわざ運ぶ必要、ありますかね……」


「そんなのでも使い道はある。あの化物の餌にするなり、人質にするなりな」


「……確かに」


 手下の男は納得した様子で肩に担いだ僕を見る。実際のところ、あの場に置いて行かれるのと今の状況、どちらの方がマシだっただろうか。


「それよりどうするの、リーダー?仲間の半分くらいは捕まって安否不明、そうでなくともパニックになっている可能性が高い。狙っていた標的も、おそらく……」


「……例の冒険者二人と他の奴らの事は、今はいい。魔術師もあの化物を調べるとか言い出したからな、あの場所で一旦別れた」


「アレを前に正気で居られるってのかい?正気とは思えないね」


「はっ、生粋の魔術師ってのは、正気なやつの方が少ないさ」


 手下の女の引いたような声に、リーダーは鼻で笑って返した。


「ひとまず、まずは魔王信仰者どもに話を聞いて、あの化物が魔王なのか確認する。元々信じちゃいなかったが『魔王を制御している』なんて宣っていた連中だ。場合によっちゃ、こっちも相応の対応をすることを視野に入れないといけないなあ?」


 リーダーは怒りを孕んだ笑みを浮かべた。


 しかし、イナリさんとエリスさんは大丈夫だろうか。僕はまた手下に乱雑に担ぎ上げられながら、二人の冒険者の安全と、自分が化物や魔物の餌にされないことを祈った。




<イナリ視点>


「――ひ、ひい、やめてくれ、死にたくない……」


「――助けてくれ、誰か!」


「ふーむ、何とも凄惨な光景じゃ。生憎と同情心は沸かぬが」


 触手のように蠢く草が森に潜んでいた賊を捕え、イナリ達の前で逆さ吊りにしていた。その下では食人花となった花々が花弁を広げ、賊の落下を今か今かと待っている。


 賊の様子は阿鼻叫喚、彼らにとってここは地獄だろう。


「それはそうと、見たかエリスよ。相手は蜘蛛の子を散らすように逃げていったのじゃ」


「そうですね、邪魔者は消えました。ですので、先ほどの話の続きをしましょう」


「あー……な、何の話じゃったか?我、全く記憶にないのじゃ」


 目を泳がせたイナリが引き攣った笑みと共にすっとぼけると、エリスはずいと顔を寄せる。


「私とイナリさんだけの世界を作ろうという話です」


「そんな話は絶対にしていなかったのじゃ。……全く。まずはお主を正気に戻すのが先決じゃな」


 イナリは身体を擦り寄せてくるエリスを押し返しつつため息を零した。賊の脅威は対処したが、エリスの脳内がお花畑状態であることには変わりない。このままだと、イナリの身が別の脅威に晒されることになるのも時間の問題だ。


「ひとまず、解毒ポーションを飲むがよい。きっと気休めにはなるはずじゃ」


 果たして解毒ポーションの効果が如何ほどかは未知数だが、一瞬でも正気になるのなら儲けものである。イナリはエリスの鞄を漁って解毒ポーションを取り出し、エリスに飲むよう促した。


「……それで?お主、先の技は一体どうやったのじゃ。我の力はあんな使い方はできないはずじゃが」


 イナリはエリスがポーションを飲む様子を眺めつつ問いかける。


「草で敵を縛り上げた方法ですか?それは勿論、私とイナリさんの想いが生んだ力の結晶が――」


「そういうの、今はいいのじゃ」


「あ、はい」


 イナリの指摘に冷静になる辺り、解毒ポーションも全く役に立たないわけではないようだ。


「え、ええと……怒り、でしょうか?カッとなって発動したようなところがありますし、もう一度やれと言われてできるかはわかりませんね」


「――それは困る。俺は、貴様らが何者かを、見定める必要がある」


 突如割って入ったガサガサとした特徴的な男の声に、イナリ達は警戒して身構える。


「――ッ!?誰ですか!」


 花畑に現れたのは、黒い外套に身を包んだ魔術師であった。顔は暗く、顔や表情を見ることはできない。


 彼は誰何するエリスに一切動じることなく、イナリとエリスを交互に見据えながら花々の上を歩く。その様子にイナリは違和感を覚えた。


「待て……こやつは何故、我らを認識できておる」


「まさに、そこが疑問なのだ。私以外の者は皆、どういうわけか、貴様らを、化物として認識している。……なるほど。本来は、そちらが正常なのだな」


 魔術師は名前すら名乗らず、未だに悲鳴を上げている賊に目を向けた。


「喧しいな。『眠れ』」


 魔術師が呟くや否や、草に吊し上げられていた賊は皆一様に眠りについた。


「な、何じゃこやつは……」


 ただの賊とは一線を画した力を見せる魔術師に、イナリは尻尾をぼわりと膨らませて警戒心を露にした。


「細かい御託は、得意ではない。率直に言おう。先ほどの力――貴様、魔核片を取り込んだか?」


「魔核片?」


「知らないのか?」


 エリスが怪訝な表情で返す。魔核片はアルテミアの研究所で登場した単語のひとつだが、具体的なところを知るのはイナリのみである。


 この魔術師は、アルテミアの地下で見た研究に関する知識を有している。その上、イナリ達を正常に認識できるということは、聖女のように神の力を有しているということを意味する。……だが、一体どうして?


 その疑問が表情に出ていたのか、目敏い魔術師がイナリに矛先を向ける。


「……どうやら、獣人の方が、何か知っているらしいな。『話してみろ』」


 イナリは魔術師の言葉の命令部分に妙な「重み」を感じたが、気のせいだろうと流し、腕を組んで答えた。


「ふん、答えるわけが無かろう。魔核片に纏わる実験がアルテミアの地下で行われていた事など、口が裂けても言わぬわ!……はっ!?」


「い、イナリさん!?」


「ち、違うのじゃ。今のは口が勝手に……まさか、これが催眠魔法なのかや!?」


 イナリは両手で口を抑えて慄いた。催眠魔法の恐ろしさと、まさかかからないだろうと高を括っていた魔法をもろに受けたという事実に。


「……おかしいです。普通の催眠魔法は、特有の詠唱や専用の魔道具を用いるはずです。確かにイナリさんは催眠に掛かりやすそうとは言いましたけど、こんな一瞬で掛けられるなんて、普通じゃないです」


「勤勉なのは感心だ。だが、それを知ったところで無意味。さあ、『他に知っていることを話せ』」


「ダメですイナリさん、無視してください!」


「ほ、他には……ふ、ふん、種が分かれば、対処など容易よの」


 僅かに返答が零れかけたイナリだったが、エリスの警告の甲斐もあって既のところでぐっと堪え、したり顔で告げた。


 すると魔術師は感心したように肩を揺らす。


「ほう、この力に抵抗できるのか?」


「ど、どうじゃ。我に掛かればこの程度、造作も無いのじゃ」


「面白い。では、趣向を変えてみよう――そこの神官。『この獣人に口を割らせよ』」


「くふふ、何を言うておるか。神官は我以上に催眠魔法に掛かりづらいと知ら――うむ?」


 イナリが相手を煽っていると、背後から両腕が掴まれ、そのまま足が宙に浮く。


「あ、あれ?……え、エリス?」


 宙づり状態で困惑したイナリが後方を見ると、そこには虚ろな目をしたエリスの姿があった。

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