263 面会の取り付け ※別視点
<イオリ視点>
翌朝。窓から日が差し、外では小鳥が鳴いている。床で眠っていた神官はもぞもぞと体を動かし、やがておもむろに体を起こして私の方を見る。
「おはようございます。……あの、もしかして寝ていなかったのですか?」
「当然だ。貴様が居ては、安心して眠れるわけが無いだろう」
「……なら、私は外に出ます。お昼ごろになったら起こしに来ますから、それまでちゃんと眠ってください。ただでさえ、体調は万全でないのでしょう?」
「拒否する。私が眠っている間に何をするつもりだ?」
「何もしませんよ。皆さんには適当に説明しておきますし、何より、後でカイトさんに会うのに、体調を万全にしていなくて良いのですか?」
よりによって勇者様の名前を上げるなんて、この神官はどこまで卑怯なんだ。やはり、隙を見せてしまったのが間違いだったか?
「……もし変なことをしたら、ただでは済まないからな」
「何度でも言いますが、何もしませんよ。……では、おやすみなさい。ちゃんと温かくするのですよ」
神官はそう念押しすると、渋々と言った態度で部屋を後にした。
流石に、他の仲間がいる中で行動を起こしてくることは無いだろう。念には念を入れて、足音が遠のいたのを確認した上で、私は毛布を被って目を閉じた。
<エリス視点>
「はあ、どうしてあんなに警戒されているのでしょうか……」
私は教会本部へ向かいつつ、溜息を零します。確かに、私はイオリさんの目論見を阻みかけていたわけですし、そこで好感度が下がるのは理解できます。
でも、イオリさんの警戒の仕方は、もっとこう、殺伐としているというか、命の握り合いのような空気感を感じるというか……。とにかく、とても仲良くなれる雰囲気ではありません。
イオリさんが歩んできた人生を考えれば、そういった警戒心が培われるのも無理はないのですが……イオリさんとイナリさんが外見的にそっくりすぎるせいで、イナリさんに嫌われているようで変な気分になります。
さて、そんなことを考えているうちに教会本部に着いたので、カイトさんの世話係の少年、ファシリットさんを探します。
これは、イオリさんの頼みである、カイトさんとの面会を実現するためです。よくわかりませんが、これができないと、何やら拙い事になりそうなので。
ただ、ファシリットさんがいる場所に検討がつきません。何となく、カイトさんが居そうな場所を探せば見つかりそうではありますが、それでも庭か自室周辺か……このいずれかでなければ、皆目見当もつきません。
「――勇者様に魔王を倒してもらうべきだ!」
「貴方は何もわかってないわ!それで勇者様が命を落としたら、私達に抗う術は無いのよ!?」
「万が一にも勇者様が命を落とすなどと、何たる不敬だ!」
「はあ!?事実を言っただけじゃないの!」
……はあ、最近の教会本部は、これがあるから嫌なんです。何より、これが日常と化しているのが。
最初こそ周りに居合わせた神官が仲裁していたものですが、そこで派閥を問われ、どちらかの立場に立つことを迫られるのです。
よって、今となっては、言い争いに乗じるか、見て見ぬふりをして、巻き込まれる前にその場を去るかのが適切な対処法になっています。私は当然、後者です。イナリさん派なので。
そういえば、イオリさんが居る今、私は何時イナリさんに会えばいいのでしょう?昼間から夕方にかけて、外出と称して訪ねるのが安全でしょうか。
「あれ、エリスさんだ。教会にいるところは久々に見た気がしますけど、どうしたんです?」
イナリさんの事を考えながら通路を歩いていると、以前ウィルディアさんの手伝いをしていた時の仕事仲間であった、私と同じ回復術師の女性の神官と出会いました。
「ええ、少し用事がありまして。ファシリットさんってわかりますか?あの、勇者様の世話役の……」
「ああ、ファシリット君を探してるんですか?確かさっき、勇者様の部屋の掃除をしてたと思いますよ」
「そうなのですか。教えて頂きありがとうございます」
「いえいえ、気にしないでください。今度、ご飯でも食べましょう!」
「ええ、是非とも。それでは失礼します」
立ち話もそこそこに、私は彼女と別れ、ファシリットさんがいるという場所に向かいました。
「カイトさんと面会がしたい?」
無事ファシリットさんを見つけた私は、早速用件を伝えました。
「はい。イナリさんについて、少々相談したいことがありまして……」
「イナリさんについて、ですか。……その、捜索して欲しいという話でしたら、申し訳ありませんが――」
「いえ、実は、先日の夕方ごろにイナリさんが見つかりまして、現在療養中です。その点は問題ありません」
「おお、それは喜ばしい事です!……ただ、やはり、面会を取り付けるのは難しいかと……」
「そうですか……。ですが、カイトさんはイナリさんの事を心配して下さっていたとか。ならば、直接無事を伝えるだけでもさせて頂ければと思いまして」
「……なるほど……」
どうにも、ファシリットさんは面会を渋ります。問題があるとすれば、カイトさんの多忙さでしょうか。
「カイトさんが忙しいという話は、噂には聞いています。……実際、面会できるとしたら何時頃になりますか?」
「ええと……予定を見てみますね」
ファシリットさんは近くの机から手帳を取り、それを確認します。
「明日までナイアで滞在。翌日帰還後、教皇との面会、教会への挨拶回り、メトラ村の畑を荒らすイノシシの討伐並びに近辺の治安調査。帰還時に食料運搬の護衛――」
「……それって、一日のスケジュールですよね?あまりにも詰め込みすぎではありませんか?」
「そうですね。ですが、勇者として成長するためには必要なことです」
「……」
以前冒険者ギルドで彼とカイトさんのやりとりを見た時にも思いましたが、教会側はカイトさんに無理強いをしているような気がします。成長という単語を掲げられると強く言えないのがまた厄介ですが。
恐らく、ファシリットさんは過激派の思想をお持ちなようなので、これ以上は触れないことにしましょうか。
「うーん、やはり時間は殆どありませんね。……多分明日には発表されますし、ここだけの話として先にお伝えしますが、来週あたりに、カイトさんに魔王の内いずれか一体を討伐させてみようという話が上がっているのです。それも相まって、予定はギチギチです」
「そうですか……どうにか、五分くらいでもいいので、時間を作れませんか?」
「五分ですか。……まあ、休み時間を少し削ればいけなくは無いです。では、三日後、正午辺りに庭に来てください」
「……わかりました、ありがとうございます」
私は礼を告げると、そのままその場を後にしました。
私は交渉が得意でないとはいえ、本当に最低限しか時間を作ってもらえませんでした。あの少年は、見た目に反してかなり堅い態度で、とてもやりづらさを感じました。
「はあ、これで満足して頂けたらいいのですが……」
パーティハウスに戻ったらイオリさんを起こしてこれを伝えるとして、「面会時間が少なすぎる!ぶっ殺す!」などと言われたらどうしましょう?イナリさんとは違って本物の獣人であるイオリさんに対して、私の結界術はどこまで通用するでしょうか?
私は憂鬱な気分になりつつ、白熱する過激派と穏健派の議論を後目に、教会を後にしました。




