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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
アルテミア復興

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244 勇者の反省 ※別視点

<カイト視点>


「カイトさん、いい加減にしてください。毎度駆り出される僕の気持ち、わかってくれます?」


「ごめんよ、ファシリット……」


 僕は現在、世話役の神官の少年、ファシリットに咎められつつ連行されていた。


 彼は僕と年齢が近いことも相まって、それなりに打ち解けた関係にはなっている。……今に限ってはそうでもないけど。


「でもやっぱり――」


「諦めきれない、ですよね?もう五回目ですし、いい加減聞き飽きましたよ。僕はこの後、リズさんのところに出向いて詫びを入れ、上司に『勇者は冒険者を諦められないらしいです』と説明し、何故か毎度脱走する貴方に対する対応策を捻りださないといけないんです。もしかして、僕が暇にならないように気を遣ってくれたりしてますか?」


「本当にごめん」


 ファシリットの言葉は、チクチクと僕の心に刺さっていった。


「……まあいいです。で、今回はどうやって抜け出したんです?正門の死角、茂みの抜け穴、破れたフェンス、前回使われた抜け穴……全部塞いだはずですが?」


「……えーっと……」


「何です?今更これ以上怒ることなんて無いですし、さっさと教えてください」


「壁に、こう、少し穴を空けて……」


「前言撤回します。帰ったらしっかり話し合いましょう」


「……はい」


 威圧感のある笑顔を見せるファシリットに、僕はただ短く返事を返すことしかできなかった。




 教会へ戻り、ファシリットからのくどくどとした説教も乗り切った僕は、魔法学校の魔術師達と共に研究作業に入る。


 彼らは、僕が古代言語などを読めると判明した後に外から派遣されてきた魔術師と、魔術災害の影響を回避できた、この街の魔法学校の魔術師で構成されているらしい。


 魔法学校や魔術師という言葉には胸が躍ったけれど、それをするための魔力と言うのが無いらしく、地球でもこの世界でも、魔法に触れることはできなかった。上げて落されたようなもので、これを聞いた僕が一日茫然としてしまったのは記憶に新しい。


 それと、魔術災害についてはそういうものがあったというだけで、詳しいことは聞かされていない。たまに見知らぬ人から非難されることがあったけど、僕は廃墟の調査中に転移させられただけで、そのような事を言われる謂れは無いと思う。ランバルトさんも気にしなくていいと言ってくれたし、間違いないはず。


「勇者様、こちらの装備をお試しになって頂けますか?」


「はい、わかりました。……被ればいいんですかね?」


「ええ、その通りでございます」


 魔術師の一人の言葉を聞いてから、渡された金色の輪っかのようなものを色々な方向から眺めつつ、頭の上に運ぶ。


 魔術師との協同研究の内容は様々だけれども、魔力を持たない僕の体に関する調査と、魔道具が使えるか否かの確認、古代言語や魔術言語の解読が主な内容だ。


 あっちの世界では勉強なんて嫌いだったし、こっち世界の勉強はワクワクするし、実際自分がこんな境遇になるとは思わなかったから、無限の可能性というか、何でもできる感じがしてとても楽しい。……それで調子に乗りすぎてしまったこともあるし、その点は反省している。本当に。


 それと、別に地球に帰りたくないというわけでは無い。あちらの食事が恋しくなることは多々あるし、残してきた家族や友達にも会いたいと思うことだって当然にある。でも、それはまた別の話だ。


 ところで、この前会った狐の女の子、イナリさんに僕がしていることについての話をして怒らせてしまったのは、今になっても実はよくわかっていない。……もしかして、そんな状態で謝ったから嫌われたのだろうか。だとしたら、その件でもう一度謝らないといけない。


 あと、僕がイオリと間違えてしまったせいで有耶無耶になったけれども、絶対にあの子は地球か、あるいはこの世界の日本的な文化がある地域と繋がりがあるはずだ。狐娘に稲荷とつける文化が異世界にあるなんて、偶然であったとしてもあり得るはずがないのだから。


 ……それにしても、イオリは何をしているかなあ。元気だといいんだけど……。


「勇者様、魔道具の方を……」


「あ、すみません」


 僕は思考に集中しすぎるあまり、手が止まってしまっていた。慌てて輪っかを頭に嵌めて、次の指示を待つ。


「勇者様、何かお体に変化はございますか?」


「いや、特には……。これ、何ですか?」


「……思考加速を促す魔道具でございます」


「へえ、それはすごいですね。もしかしたら効果が自覚できていないだけなのかも……」


「なるほど、では……ここが何処で、貴方は誰で、何が使命かを仰ってみてください」


「そんなことでいいんですか?ええと……アルテミア、菊野界人、勇者……」


「今一番したいことは?」


「え?あー……冒険者になりたいんですけど……ダメなんですよね?」


「はい。……効果は無いみたいですね。ご協力ありがとうございます」


 僕の質問に目の前の魔術師は即答し、僕が被っている魔道具を回収した。


 それにしても、誰も彼も、ダメの一点張りで、具体的にどうダメなのかは、ランバルトさんも、ファシリットも教えてくれない。一番具体的に教えてくれたリズさんですら、『勇者としての責務を全うさせるため』という、多少考えれば思い至れそうな理由に留まっている。


 これに不満が無いかと言われれば、ある。でも、イナリさんも言っていたけれど、僕は教会に恩返しをするべきだというのは、ただでさえ保護してもらっている身なのに、自分勝手にあれがしたいこれがしたいと我が儘を突き通したら、何時見限られてもおかしくないという意味で、その通りだと思った。


 あるいは、地球の読み物には「見捨てられてからが本番」というものも多かったけれど、いざ自分がそういった境遇に置かれると、そこまで思い切った行動には出られない。それに、そういった作品は大抵、裏で勇者を嵌める悪人がいるのが定番だけれども、そんな人も居ない。それどころか、いい人ばかりだ。


 彼らに報いるには何をすればいいか。……魔王を全て倒せばいい。そして、そのあとで、「元勇者の冒険者」としてやっていけばいい。


 勿論、その道のりはそう簡単じゃないとは思う。実際、魔王とか、どうやって対処すればいいのかなんて全く分からないし。でも、それは後々いくらでも教えてもらえるだろう。


「……僕も、頑張らないと」


「勇者様、本日の文献はこちらでございます」


「ああ、わかりました!」


 僕は小さく呟いて決意し、魔術師から差し出された、僕が解読するべき文章を受け取った。




<???視点>


 人気が無くなり暗くなった教会の一室で、二人の人間が会話していた。


「――報告は以上です。いかがいたしましょうか、ランバルト様……」


「ふーむ。そろそろ自己修練に励ませるのにも、限界が見えてきましたか」


「はい。……いや、割と早い段階で限界な感じはしましたが……。壁に穴を空けたと言われた時なんか、思わず手が出かけました。アルト神の遣いでなければ、危なかったかもしれません。本当に」


「よく頑張りましたね、ファシリット。ここで君がカイトと仲違いしては、全て台無しですからね」


「ええ、ありがとうございます。……それと、例の魔道具はうまく動作しなかったようです」


「わかりました。……まあ、それはうまくいけば御の字程度にしか思っていませんでしたし、構いませんよ。さて、そろそろ彼を教会に留めるのは終いにして、明日から、彼には街の魔物の処理をさせましょう。その間、引き続き魔道具の方の計画も進めるように」


「承知しました」


「ああそれと、あくまで冒険者としての業務では無いことは念押しするように」


「……承知しました」


 少年の声と共に、部屋の灯りが掻き消えた。

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