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豊穣神イナリの受難  作者: 岬 葉
人間の悪意

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149 情報共有と作戦会議

「まず、犯人に関する説明をさせていただきます。冒険者ギルドの関係者、アントを名乗っていた男は、つい最近この街で詐欺行為で手配されていた男でした。また、冒険者ギルド事務の方々のご協力により、冒険者ギルドとは一切関係のない者であることも確認済みです」


「はい、私が保証します」


 兵士の言葉を後押しするようにリーゼが頷く。


「そして犯人の犯行動機ですが、ある男に声を掛けられ、今そちらに座っている、イナリ様を連れ出すことで大金を支払うという条件を提示され、子供を適当に騙すだけの楽な仕事だと思ったので引き受けた、とのことです」


「完全に侮られておるのじゃ……」


「イナリちゃん、食べ物で釣れるレベルのチョロさだからなあ。擁護のしようが無いかも……」


 兵士は子供二人の会話を一瞥した後、話を続ける。


「手口について、まずイナリ様に関する情報を冒険者経由で収集したようです。その内容は、名前、所属パーティについて、最近の様子などでした」


「ふむ。確かにあの男が我について言及したのはその程度であったな。あやつが我を見て安心しておったのは、我の姿を知らなかったからやもしれぬ」


「……しかし、そんなに露骨に聞いているのに、誰も怪しまなかったのでしょうか?」


「詐欺師に特有の情報を引き出すための話術に加えて、昼から酒を飲んでいる冒険者に声を掛けたりして、怪しまれないようにしていたようです。また、イナリ様特有の風貌により、ある程度有名になっているという点も、怪しまれるリスクを減らしていたようですね」


「ううむ、獣人の少なさが災いしておるのう」


「いや、服装にも問題がありそうですけどね……?」


 イナリの言葉にエリスは唸った。


 イナリはエリスから服を渡されない限り、基本的に地球から持ち込んでいる着物を着ている。外見上は獣人であるイナリが珍しい物を着こんでいるともなれば、目立つことは必至であろう。


「そこで集められた情報から、犯人はギルド関係者に偽装し、冒険者ギルドに行くと偽ってイナリ様を連れ出す計画を立てたようです。犯行に及ぶ際に使用した制服は、取引を持ち掛けた男の仲間から支給された物とのことでした。また、この時、犯人が所持していた冒険者ギルド長の偽造印も同時に支給されたようです。制服については、ギルドの倉庫から制服が一着減っていたことが確認されており、何者かが侵入して盗んだものと思われます」


 兵士の言葉にリーゼが頷く。これもまた確かな事のようだ。


「そして犯行当日、イナリ様が一人になるタイミングを狙ってパーティハウスにてイナリ様に接触したようです」


「すみません、質問なのですが」


 エリックが手を挙げて兵士の言葉を止める。


「はい、何でしょう?」


「恐らく我々が五人パーティであることも把握されていたと思うのですが、何故犯人はディルがいる状態で接触してきたのでしょうか?」


「それは、『虹色旅団』所属のディル様は普段から街中を散歩したり、冒険者ギルドの訓練場にいるという情報をギルドで収集したようで、そこから、イナリ様に接触した際の時間帯にはもう誰も居ないだろうと読んでいたためですね」


「ああ、なるほど……ありがとうございます」


「……ディルさんの意識の高さがバッチリ裏目に出てますね。いや、結果的にイナリさんが守られたので良いのかもしれませんけども……」


 兵士の答えに、エリスは呆れたように呟く。ディルの規則正しい生活を元に、イナリが一人であると判断してのものであったようだ。


「結果的に犯行は失敗に終わりましたが、本来は、予め指定された路地裏まで移動して引き渡しを行う予定だったようです。また、誘導が失敗した場合は、強引に押し入って連れ去ると聞かされていたようです」


「む?しかしあやつは最後まで一人だったのじゃ。周囲に野次馬こそできたがの。仲間らしきものは居らんかったぞ?」


「ええ、どうやら尻尾切りをされたようですね。おかげで、結果的に裏切られた犯人はすんなりと供述してくれたので、助かった形にはなるのですが」


「なるほど、そういう事情があったのですね」


 エリックが腕を組んで納得したように頷く。


「犯人がイナリ様を引き渡して以降の具体的な計画は、犯人も知らないと供述していますが、元々下水道の捜索自体が計画に織り込み済みであったようで、そちらに注目が行っている間にイナリ様を魔の森へ連れ去るつもりだったとのことです」


「……中々凄まじい計画ですね」


「ええ。というわけで、犯行は個人によるものでしたが、その背後に、この街の住民を脅かしている犯罪集団が関与していることを認めるとともに、魔の森に本拠地があると判断し、明日にでも捜索に向かうことが決定しています」


「……もしかして、それを伝えるために呼ばれたのですか?」


 エリックは確認するように問うた。実際イナリも、事の顛末を聞くか、あるいはこちらの聴取がされるのかな、などと予想していたので、この展開は少々予想外であった。


「はい。犯罪組織の様子からするに、ギルド員や兵士の中に内通者がいる可能性も考慮しなければならないため、確実に信用が置けるメンバーで遂行しようと考えています」


「そうなると、その作戦にあたる人員も必然的に少人数になると思うのですが、それで問題なく遂行可能なのでしょうか。失敗すると警戒されて逃げられる可能性も高まるのでは?」


「はい、その点も考慮した上で、我々は可能であると考えています。魔の森を隈なく探すとなるとそうはいきませんが、必要な箇所だけを抑えていけば、確実に可能だと考えています」


「必要な箇所というのはどのように絞るのでしょう?」


「イナリ様が誘拐されかけたことから、他にも誘拐された子供は存在している可能性が高いです。ともすれば、誘拐した子供を運ぶには馬車が必要になります。必然的に、拠点も魔の森の中でも馬車が通れる場所に絞られます。……言うまでも無く、先日の事件を受けて魔の森側の街門の馬車の通行は停止させていますし、馬車が門を通った段階で摘発できればそれに越したことは無いのですが……」


 兵士はそこで言葉を濁す。声に出しては言えないが、既に手遅れと見ているのだろう。


「ともかく、そういった理由から、放棄された村のいずれかに拠点があるとみています」


「なるほど」


「というわけで、『虹色旅団』の皆さまにも作戦にご協力頂きたいのですが、いかがでしょうか?」


 兵士に問われたエリックは、エリスとリズを見てから返事を返す。


「……わかりました」


「……ディルに確認をとらなくて良いのかや?」


「いつもこんな感じですから、大丈夫ですよ」


「なるほどの……」


「それで、我々は何をすれば?下水道の捜索と同じように、兵団と共に動けば良いのでしょうか」


「それなのですが、少々ご相談がございまして……」


 兵士が改まったように前置きをすると、一旦言葉を止めて他の兵士と目配せする。そして深呼吸をしてから、口を開く。


「……イナリ様に、囮役をしていただきたいのです」


「話になりませんね。帰りましょうか」


 兵士が相談内容を口にした瞬間、エリスは膝に乗せていたイナリをそのまま抱えて立ち上がる。


「え、ちょ、良いのか?」


「はい。あまりにも危険すぎますし、イナリさんが私たちのパーティに入っているから大丈夫だと思ったのでしょうが、イナリさんは見た目通りの子供です。それを餌にしようだなんて……」


 エリスが冷たく言い放ち、やや部屋の空気がピリピリとし始める。


 リズとエリックはどうかとそちらを見れば、席を立ってこそいないものの、二人とも苦い表情であり、少なくとも肯定的に思っていないことは明らかであった。


 また、リーゼも顔を顰めている。どうやらこの話は初耳のようだ。その一方、フレッドは「まあこうなるよな」とでも言いたげな表情であった。


「お、お待ちください!我々も、大変なことを申し上げていることは重々承知しております!しかし、ここで確実に捕まえないと、きっと他に誘拐されている子供たちは助けられないのです!我々も計画を徹底的に練って、イナリ様に危害が及ばないよう徹底します。どうか、ご検討いただけないでしょうか?」


「……そうは言いますけどね、囮にしている時点で十分危険ですよね?それに、危害が及ばない保証もどこにもありませんよ」


「仰る通りでございます。当然、お断り頂いても結構です。その場合は下水道の捜索と類似した作戦になると思います」


「……ですが、確実性は下がりますよと言いたいんですよね?」


「……はい」


「……まあ、私だけがとやかく言ってもどうしようもないですし、イナリさんを含む、三人の意見も聞いていただければと思います」


 エリスは一旦席に戻り、他の二人の発言を促した。


「……リズは、何とも言えないかな。エリス姉さんの主張は尤もだけど、兵士さんが確実に悪者を捕まえたいっていう気持ちもわかるから。まあなんにせよ、イナリちゃんが頷かないことには絶対にナシ、だとは思うよ」


「僕は、イナリちゃんが頷かないことには反対ですね。囮作戦をしなくとも、やりようはあるはずです。……もし仮にやるとなったら、徹底的に計画は練らせてもらいますし、必要に応じてそちらの皆さんの会議に介入するかもしれません。何にせよ、イナリちゃんの安全は第一にしてもらいます」


「ええ、それは絶対に約束いたします」


「……イナリさんは、いかがですか?」


 エリスはイナリを覗き込み、返答を促す。


 イナリは一度エリスの青い瞳と目を会わせ、頷きあう。その瞳は、どう答えようが誰もイナリを非難しないと、そう確信させるものであった。


 それを見て緊張を解したイナリは一呼吸置いてから、口を開く。


「良いぞ」


「そうですよね。皆さんも聞きましたね?というわけで……はい??」


「その話、引き受けると言うておるのじゃ」


「……はい???」


 静かな部屋に、エリスの困惑しきった声が響いた。

1000pt突破しました、ありがとうございます!


この作品を投稿し始めた当初の目標でもあったので、感無量です。


これからも「豊穣神イナリの受難」をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 土の地面に触れて無い限り豊穣の力無効とかでもない限りイナリを捉えておくこと出来ないしね トレントが生まれて来るとイナリも危険だけど そういう無敵さから来る油断と仮にも神と呼ばるだけあって善性…
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