釘は刺せる所で刺しとかないと
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目が覚めるとそこは見知らぬ天井。
そんな語り口を良く聞いたことがあるがまさか自分がそれを体験するなどとは思いもよらなかった。
まさに目が覚めると私の目に見知らぬ天井が映し出されているではないか。
そして思い出す。
確か私は地雷社員に襲われそうになり必死に抵抗していた所を店長に助けられて………そこまでは覚えているのだが、そこからは何があったのか全く思い出せない。
「痛っ!?」
そして何があったのか確かめる為にまずは起き上がろうとすると身体に激痛が走り思わず呻いてしまう。
「あんた肋骨が折れているんだから安静にしときなさいよ」
「…………お、お母さん?それにお父さんも」
それでも起き上がろうとする私に聞きなれた、それでいてもう聞く事も無いと思っていた声で安静にする様に言われた為声のした方を見ると、そこには声の主である私のお母さんがパイプ椅子に座っており、その隣には私のお父さんもお母さんと同じ様にパイプ椅子に座っていた。
「ふん、まるで死んだ人間に合った様な反応をしやがって」
「だ、だって………」
私と両親は縁を切っている筈である。
そりゃ驚きもするであろう。
「あなたの前の旦那さんが私達の所まで来てね、娘さんを許してやって下さいと頭を下げられたら、許してあげるしかないじゃないの。だってあなたがした事による一番の被害者である人が頭を下げるんですもの」
「それに自分の子供が悪い事をしたら叱るのが親で、私達がやった事はただその行為を面倒臭いと縁を切る事で娘と立ち向かう前に放棄して逃げた様にも思っていたからな」
そう、申し訳なさそうに話すお母さんに、どこかバツが悪そうに話してくれるお父さんの姿が目に入ってくる。
「とりあえずあんたの身体が治るまでは真奈美は、年が明けて元旦那さんの休暇が終わってからは私達の家で面倒を見る事にしたから。ちゃんとその事は保育園にも説明して承諾してくれたからあんたは今は他の事は考えずに身体を治す事に専念しなさい」
「一応縁を戻したからと言って許した訳じゃないからな。勘違いしないように」
「あなた、今はそれを言う必要はないじゃないのっ!」
「だが、釘は刺せる所で刺しとかないとだな………」
「分かっているわよっ」
そして私は何十年ぶりか両親の前で子供の様にわんわんと泣きじゃくるのであった。
そして私が落ち着いてから教えてもらったのだが、地雷社員は今回の件で強姦未遂と殺人未遂で治療が終わり次第警察のお世話となる様である。
被害者は私だけではなく、今回の事件で羞恥心や周りの目を気にしてしまい泣き寝入りしていた人達も訴える動きとなっているそうで余罪が次から次へと明るみになり最早示談どうこうで済む段階では無いそうだ。




