かけがえのない宝物へと変貌していた
「ささ、お嬢様。わたくしめがお嬢様をお持ちいたしましょう」
「んっ!!」
そんな真奈美の両脇を元夫が抱きかかえ、真奈美は満足そうに返事をすると色むらができないようにインクをペタペタ、ペタペタと何度も付けた後、ハンコを押すだけにしては十秒前後と長い時間押し続けて見事綺麗にパンフレットへと三毛猫のキャラクターが描かれたイラストが加わっており、よほど嬉しかったのか真奈美はその結果にどや顔で見つめたあと、肩で風を切るかのように三毛猫のレストランを颯爽と退店していく。
そして私たちは真奈美隊長の下、一度一周し終えた園内を、再度気に入ったアトラクションを乗りながらまだ押していないハンコを探す任務へと向かうのであった。
結局、ハンコを全て探し終える頃には閉演時間間近までかかってしまったのだが、時間内にコンプリート出来て本当に良かったと思うし、いい思い出になったのは確かである。
その、十二個ものハンコで裏面がいっぱいになったパンフレットを大事そうに手に取り、恍惚とした、そしてやり切った表情をしながら見つめる真奈美はなんだかんだで偉いと私はおもう。
ネズミの国と比べれば確かに小さな遊園地ではあるもののアトラクションの数はそれなりにある為敷地内面積はそれ相応に広い。
その園内を子供の足で一日中回っていれば疲れが溜まってぐずり出してもおかしく無い程なのだが、真奈美は文句ひとつ言う事も無くむしろ誰よりも率先して少ししか書かれていないヒントを頼りにハンコ探しをして見事コンプリートしたのである。
いわばこのパンフレットはもうただのパンフレットではなく私達家族にとってはかけがえのない宝物へと変貌していた。
恐らくこの経験も、真奈美にとっては間違いなく財産となるだろう。
そう思うと当時にはやり真奈美は将来天才になるのでは、と思わずにはいられない。
流石に一日中歩き回ったからか真奈美は車に乗って直ぐにパンフレットを握りしめながら夢の世界へと旅立って行くので、皺や折れ目が着いたら真奈美が起きた時に大変だと、寝ているにも関わらず強い力で握りしめている手を半ば強引に解いてパンフレットを保管してあげる。
そして休憩は挟まず大きめのパーキングエリアまで一気に行くと真奈美を起こしてあげる。
私も本当は寝たかったし、元夫が寝てて良いと言ってくれたのだが、ここで寝てしまえばこの幸せな時間が実は全て夢だったのではないかと思うと寝るに寝れなかった。




