覚悟を決めた者の目
そして目につくのはまるで匠の技であるかのようにピーマンだけを除けていく真奈美のスプーン裁きである。
かなり細かく刻んだつもりなのだが、真奈美からすればいくら細かく刻んだ所で『めに見えたら除去対象』に入ってしまうのであろう。
かくいう私も幼い頃はピーマン除去と人参除去の匠だった為真奈美の気持ちも分かると同時にピーマンを食べてほしいという母親の気持ちも何となく分かる。
あの頃は私を殺すつもりかと思っていたのだけれども、これも母親の愛情であったのだ。
大きくなるにつれてその事は頭では理解していたつもりなのだがこうして自ら体験するのとではまた違た感情が湧き出てくるので不思議なものである。
「真奈美、ピーマンが「僕も食べてっ」「僕だけ仲間外れにしないでっ」って言ってるよ?」
「やっ!ぴーまん、にがいっ!たべないっ!ぴーまん、そんなこと、いってないっ!!」
分かり切ってはいた事なのだが、やはり流石に真奈美の良心に語り掛けた所でピーマンの苦みが勝ってしまう様だ。
「ピーマン食べたら今日のデザートはブラックベリーかもしれないよ?ほらピーマンさんも「僕を食べてくれたら今日のデザートはブラックベリーにして貰うようにお母さんと交渉してみるよっ!!」って言ってるよ?」
「……………」
そして流石の真奈美もピーマンだけを食べず仲間外れにしてしまうという良心の呵責に、さらにピーマンを食べるとデザートがブラックベリーが出てくるという状況にかなり悩み始めているようである。
そして私はさらに真奈美へと一押しの攻撃をする。
「ピーマンさんが「僕、ゴミ箱に捨てられちゃうの?みんなと一緒に真奈美ちゃんに食べて貰いたいのに」って泣いているよ?」
この言葉を聞いた真奈美の目は覚悟を決めた者の目をしていた。
「オムライスと一緒に食べたら苦くないよ?」
「んっ!!」
それでも流石に『分別されているピーマンのみ』を食べるのには勇気がいるらしく、助言をしてあげると勢いそのままにオムライスと一緒にピーマンを食べ始めるではないか。
「ぴーまん、にがくないっ!まなおとなだから、ぴーまんたべれるもんっ!!」
そして一度平気だと、苦くないと分かれば後は早いもので意気揚々とオムライスをぺろりと平らげてしまう。
「凄いーーーっ!真奈美偉いねーーーーっ!!」
そしてこんな風に頑張った時はその頑張りに見合った分だけ褒めちぎってあげる。
子供からすればピーマンを食べるというのはそれだけ覚悟のいる事なのだから。




