しっかりしろ自分
「はいっ!両手を合わせて、いただきますっ!」
「いただきますっ!」
そしていただきますの挨拶を済ますと真奈美は迷う事なく唐揚に子供用のフォークを刺して勢い良く食べて行く。
因みに今日のご飯にかけるふりかけは真奈美の一番好きなのり玉である。
唐揚げにのり玉、それだけでまるで幸せが一気に来たと言わんばかりに嬉しそうに食べ始める。
「美味しいねーっ」
「おいしいねーっ」
今の所真奈美は野菜も嫌がらず食べてくれるのでありがたい限りだ。
そして、真奈美が美味しそうに食べてるだけのこの光景を見るだけで私は何故だか涙を流し、止める事が出来ない。
「まま、いたいいたい?」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと涙が出ちゃってるだけ」
そんな私を見て真奈美は心配そうに覗き込んでくる。
娘に心配させてどうする。
しっかりしろ自分。
そう思うも結局私は数分間涙を止める事が出来なかった。
そんなこんなでご飯を食べて歯磨きをさせた後、数時間真奈美とお飯事をした所で眠たくなってきたのか目を擦り始める。
時計を見ると夜の八時を周った所である。
真奈美が眠ってしまう前にパジャマに着替えさせその間に布団の準備を済まして二人で入る。
そして私は真奈美と一緒に眠るのであった。
◆
「高城先輩、今日こそ一緒に飲みに行きませんか?」
今現在夜の八時。
俺が勤めている会社の定時でもある。
そして今日も今日とてクレーマーのメールを捌き仕入れ先へ電話を入れ、返却品や在庫の管理をする、いつもと変わらない一日であった。
そして俺の後輩でもあり一から育てた部下が飲みに誘うのもいつも通りである。
「ああ、良いぞ。どこに行く?」
「やっぱりダメですか。高城さん奥さんとは別れたという割にはガード硬すぎです………よ……へ?」
「何珍しい生き物に出会った様な表情をしてんだよ」
「あ、あの………私の聞き間違いでは無ければ今高城先輩は私と一緒に飲みに行ってくれると言いました?」
「ああ、そうだな」
「聞き間違いではなくて?」
「聞き間違いじゃなくて」
「ドッキリとかでは無くて?」
「しつこいぞ。嫌なら別に行かなくても───」
「行きます行きます行きますっ!行かせて頂きますっ!」
余りにもしつこい為断ろうとするのだが、それを後輩が必死になって止めにくる。
しかし、何で三十路手前の俺なんかにこんなにこだわるかね。
性格は置いておいて見た目だけは良いのだからわざわざこんなオジサンに片足突っ込みかけている俺なんかに構わなくても、と思わなくも無い。
「高城先輩、流石に表情に出過ぎですよ。私は高城先輩だから良いんです」
そう言って「行きましょう行きましょう」と腕を絡めて来る後輩が今日は何だか可愛く見えた。




