誰がどう見てもクズな女
「何?どうしたの?」
「いやぁ、大学時代の友達と久しぶりにストレス発散してきたらこうなっちった」
「なっちったってアンタねぇ」
「あんたねぇ」
そして、へべれけとまではいかないもののそれなりにはやり切ってきた自覚がある俺の姿を見て苦言を言いたそうな北川とその真似をするお姫様が仲良く出迎えてくれる。
「お、今日は何だかお姫様はご機嫌だなぁーっ」
「きょうはぱぱとあそんできたのっ!」
「おおっ、それは良かったなぁっ!」
「うんっ!ぱぱはまながいないとだめなおとなだからっ!」
「はははは、そんな言葉どこで覚えてきたのかおませさんだなぁ」
何だか、良いな。こーゆーの。
そう思ってしまう。
だからこそ、北川の夫は俺以上に苦しんで踠いて必死になっているのだろう事が窺えてくるのと同時に、元夫の強さも分かるというものである。
きっと娘の前で北川を罵倒したかったに違いない。
溺れて必死になって水面を探して、簡単に肺に空気を入れる方法が目の前にあるのにグッと堪えて自らの力で水面へ浮上する事を選んだのであろう。
その事が北川の表情と、何より真奈美の表情を見れば分かる。
それに対して俺はどうだ。
子供もいないし結婚もしていない。
一家の大黒柱という自覚も無ければスタートすらしていない。
そんな、北川の旦那と比べたら受けたダメージは全然違うであろうに、人前で罵倒するという簡単に空気を吸うことのできる方法を取ってしまった。
「全く、何で泣いているのか分からないけど、どうせ元婚約者絡みでしょ?それに、今『俺には悲しむ資格はない』とか思ってんじゃないの?顔に書いているわよ。本当に高城は昔から分かりやすいわね。どうしてそう思ったのか知らないけど高城には悲しむ資格はあるよ。加害者である私に言われるのもしゃくかもしれないけど、高城には悲しむ権利がある。それを誰かと比べて悲しんではいけないとか思わないで欲しい」
「ハハッ、クズな女か良い女かわからねぇなっ!」
「何を今更分かり切った事を。私は誰がどう見てもクズな女よ」
きっとあの頃の俺は『浮気は男のするものだから男の俺さえ気を付けていれば問題ない』と心の何処かで思っていたのかもしれない。
けれども浮気は一人ではできないという当たり前の事を忘れて、無条件に信じて裏切られて、そのどうしようもなく馬鹿だった自分にも腹が立っていたのかもしれない。
だからこそ北川の旦那と比べようと、何の意味もない事をして馬鹿な自分を自分で叱りたかったのかもしれない。
そんな俺を叱るでも無くただありにまま受け入れようとしてくれている北川は、自分はクズなのだと苦笑いしていたのが印象的だった。
そして俺は次の日の仕事帰りに観賞用のサボテンを買って部屋に緑が加わるのであった。




