5(完結)
「なんじゃ。申してみよ」
「これより私、馬に乗ってわが居城に戻ります。相当飛ばしていくつもりですが、その時、私に追いつくことが出来た方と結婚します」
「面白い。カザリンからこういう提案があったが、どうする王子たち受けて立つか?」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
六つ子の王子たちは力強く返事した。
「よろしい。ある意味公平な勝負じゃ。勝ってカザリンと婚約する者を次の王太子としよう」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
六つ子の王子たちの返事は更に力強くなった。
◇◇◇
「お母さん」
カザリンはマリーを呼んだ。
「何かしら。カザリン」
「ちょっと『椎美偉悦楠』借りるね」
「ちょっ、ちょっとカザリン。『椎美偉悦楠』は確かに速いけど、相当な暴れ馬だよ。乗りこなせるの?」
「大丈夫。おいで『椎美偉悦楠』」
「ぶるんぶるんぶるるるん」
「ええっ? 大丈夫なの?」
懸念するマリーにセバスが声をかけた。
「姐さん。本当に大丈夫です。実は俺が運動させていたのは『嗚呼留絶屠三番』だけで、『椎美偉悦楠』はお嬢が運動させていたんでさあ」
「え? あの子ったら、いつの間に。花嫁修業もちゃんとしていて、どこにそんな時間が……」
「血は争えませんね。どうしてもとせがまれて、騎乗を教えてから、お嬢が『椎美偉悦楠』を乗りこなすまで、あっという間でした」
◇◇◇
「行っくよおーっ。セバスチャン、あれ鳴らして」
「へいっ」
カザリンの依頼にセバスは高々とそのメロディーを響かせた。
ぱぱぱ ぱぱぱぱ ぱぱぱ ぱぱー
「それーっ」
カザリンはまさに人馬一体となり、弾丸のように走り去っていった。
六人の王子たちは必死になって追いかけるが、引き離される一方だった。
六人の王子たちが道程の半分ほどまできた時、もはやカザリンは自らの居城についているものと思われた。
しかし、六人の王子は一人として欠けることなく、ボロボロになりながらもカザリンの居城まで完走した。
六人の王子はひどく落胆したが、カザリンは笑顔で六人を迎えた。
「私からするとあなたたちは全員合格です。小さい頃から『椎美偉悦楠』に乗っていた私に勝てるのは、『嗚呼留絶屠三番』に乗った父くらいです。でも、あなたたちは最後まであきらめなかった。その気持ちがあればいつかは追い付けます。だから、全員合格。後はあなたたちのうちのどなたが私と結婚してくれるかです」
六人の王子は一斉に言った。
「「「「「「カザリン・ジルバーマン辺境伯令嬢、私はどうしてもあなたと結婚したいっ! 結婚してください」」」」」」
「あらら。誰がいいとか、ご自分は遠慮したいとかないのですか?」
「「「「「「ありません。カザリン・ジルバーマン辺境伯令嬢、どうしてもあなたと結婚したいっ」
」」」」」
「私も決められません。どうしてもとなると6人全員との結婚となります。それでもいいですか?」
六人の王子は一瞬顔を見合わせたが、すぐに答えた。
「「「「「「それでもいいですっ!」」」」」」
◇◇◇
カザリンと六人の王子全員との結婚には、さすがに国王とゲッツ・マリー夫妻も絶句したが、女神は大爆笑した。
「きゃあっはっはっはっ、さっ、さすがはゲッツとマリーの娘、やっ、やってくれるわ。おっ、おもしろーい」
セバスは号泣した。
「お嬢。立派になって。このセバス、お嬢が決めたことなら、精一杯祝福させていただきやす」
◇◇◇エピローグ◇◇◇
カザリンと六人の配偶者は、強力な騎馬軍団を編成し、ついには大陸全土を統一。カザリンは自ら帝位について、女帝エカテリーナと称した。六人の配偶者とその子どもたちは鉄の団結を誇り、千年帝国を築いていくことになる。
ゲッツ・マリー夫妻とセバスは領地に善政を敷くと共に、領内に大規模な騎馬育成牧場と騎兵養成学校を経営し、カザリン・女帝エカテリーナに貴重な戦力を供給し続けた。
やがて、ゲッツは爵位をセバスに譲り、セバスの子孫は帝室の強力な藩屏として、帝国と共に繁栄していくことになる。
ブルーメはそのダンスの才能を持って、帝都に劇場を創設する。その劇場は帝国の文化の一大拠点となっていくのである。
ナールナルは一度は父の国王に幽閉を言い渡されたが、カザリンが懇願したため、市井の一市民として、捨扶持もらって生きていくことになった。
当初こそ反体制派の旗頭にされることを警戒され、厳重な監視がついたが、やがて、反体制派にもその無能ぶりが知れ渡り、じきに監視も付かなくなった。
生涯、場末の一角で昼間から安い酒を飲み、格安のサイコロ賭博に興じて生きた。
晩年、時折、悪酔いした時に「俺は王太子だった」と口にしたというが、周囲の者は「また、長老の駄法螺が始まった」と言って、相手にしなかったという。
最後に女神である。
稀代の賢帝エカテリーナはこの騒動の元凶がこの女神が面白半分に異世界の者を転移させることと「一切、場の空気を読まない」ことにあることを見抜いていた。
そして、そのことが必ずしもいい事態を招かないであろうとも考えていた。
そのため、女帝エカテリーナは女神を「帝国でもっとも危険な女」と呼び、出現情報はすぐ帝都に伝えるよう何度も通達した。
しかし、女神は「今回も結構面白かった。今度は誰を転移させようかなあ」という言葉を最後にこの地を去ってから、その行方は杳として知れなかった。
では、女神は完全に姿を消してしまったのか?
そんなことはない。例えば西暦2020年の地球。
静かな深夜、あなたは一人で小説を読み、そして、書こうとしてパソコンのスイッチを入れる。
その時、背後からこんな声が聞こえてこないだろうか?
「とんでもねぇ。あたしゃ女神様だよ」