3
「待たせたな。ハイデラント辺境伯ゲッツ・ジルバーマンとその妻マリー。余がファナティカー王国王太子ナールナルだ。何用だ?」
王太子は婚約者のブルーメのアドバイス通り、堂々と大広間の壇上に姿を現した。
「オウオウオウオウオウーッ」
ぶるんぶるんぶるるる~ん
「オウッ! うちの娘を泣かせた野郎がどんな奴かと思やあ、対マンたあ見上げたもんじゃねえかっ! その意気に応えて、一撃でオシャカにしてやらあっ!」
ゲッツの士気は最高潮で、今にも殴りかからんばかりである。
ナールナルは思わず引きかけたが、ブルーメは押しとどめ、前面に出た。
「ハイデラント辺境伯?随分と偉くなったもんじゃないの? えっ? 坂野凡太郎?」
◇◇◇
「なっ、何故? その名前を?」
転移前の名前を出され、さすがのゲッツも毒気を抜かれた。代わって前に出たマリーには、
「あんたは亜町真理ね。全く。ヤンキーは15の時の恋愛貫くって本当なのねー。だっさー」
マリーも毒気を抜かれ、その場に立ちすくんだ。
ゲッツもマリーもその場のノリで勝負するという大きな特徴がある。その特徴からくる弱点を突かれた形になってしまった。
もはやこれまでかと思われた…… その時、救世主はそこに現れた。
「あらあ。誰かと思えば、花ちゃんじゃなあい~」
◇◇◇
「ひっさしぶりい、転移させて以来~? 何やってんの~?」
セバスの駆る騎馬の後部座席に乗る女神の必殺技「一切、場の空気を読まない」が炸裂し、ゲッツもマリーも我に返った。
「花ちゃんって、あたしらと同じ中学だった。佐藤花子~?」
「おいおい、マリー。佐藤花子って、誰だ? 同じ中学にいたか?」
「まあ無理ないわ。中学の頃は大人しかったもの。ほら、成人式の日に『今は東京でブイブイ言わせている』と一席ぶった娘いたじゃん」
「あ~いたいた。梅宮の野郎が『俺、密かに花ちゃん好きだったのに。あんなんなっちまった』って泣いてたわ」
◇◇◇
「えーいもうっ! これだから元ヤンはっ! いいっ! あたしはもう『佐藤花子』なんて、ダサい名前は捨てたのっ! いいっ!あたしの言うとおり復唱してっ!」
「へ?」
「私の名前は『佐藤花子』です」
「「「マイン・ナーメ・イスト・ブルーメ・ツッカー」」」
「gut!」
あはははは。周りが和やかな雰囲気に包まれた時、女神の必殺技「一切、場の空気を読まない」が2度目の炸裂をした。
「あははは。何言ってんの。ブルーメ・ツッカーって直訳すれば、『花・砂糖』じゃん。だっさー」
◇◇◇
「言ってくれたわね。あんたたちっ! もう許さないわっ!」
ブルーメは怒り心頭に発した。
「まっ、待て。佐藤花子。今のは俺らでなく、このオオボケ女神が……」
「やかましいわっ! 喰らえっ! 最終奥義っ! 『◯ュリアナ東京』!」
じゃ~ん。ミュージック開始と共に、大広間の壇上の一部がせり上がり、カクテル光線が飛び交う。
いつの間にか、羽根つき扇子を身に着けたブルーメはお立ち台の上で、音楽に合わせ、踊りだした。
「おっ、おおっ」
ゲッツとセバスはまるで魅了の魔法にかかったかのように、お立ち台の前に吸い寄せられて行く。
吸い寄せられたのはゲッツとセバスだけではなかった。
「ブルーメちゃん。超カッコイイ。惚れ直したよお~。ねえねえ、僕も一緒に踊ってい~い?」
王太子はお立ち台の上に登ろうと、右足をかけた。
ゲシッ!
ブルーメの右足のキックが、王太子の顔面を直撃し、王太子はそのまま仰向けに倒れた。
「ああっ、ブルーメちゃん、素敵」と呟きながら。
◇◇◇
「ええいっ! 王太子だか、明太子だか知らねえが、野郎の分際でこの神聖なお立ち台に登ろうたあ、ふてえ野郎だ。野郎どもは黙ってこのあたしにひれ伏せいっ!」
ブルーメのその言葉にゲッツとセバスは思わずひれ伏した。
だが、マリーは違った。真剣な目つきでブルーメのダンスを見つめている。
◇◇◇
「ほおーお。亜町真理。あんたの目はまだ死んでいねえなっ! どうだっ?このあたしと、この神聖なお立ち台で戦ってみねえか?」
ここで女神の必殺技「一切、場の空気を読まない」が3度目の炸裂をした。
「ねえねえ。あたしは? あたしは?」
自らを指差す女神にブルーメは一言だけ言った。
「オオボケはいらん」
「ひっどーい」
女神は泣いて、後ろを振り向いたが、そこには三頭の騎馬がいただけだった。
「ちっくしょー。どいつもこいつも花ちゃんにたぶらかされやがって、見る目ねえな。この国の男衆はっ!」
◇◇◇
マリーはゆっくりとお立ち台に向かって歩き出した。
お立ち台の上ではブルーメが踊りながらも、挑発的な視線を送り続けている。
マリーはお立ち台のすぐ脇で立ち止まると静かに口を開いた。
「花ちゃん」
「へ? 何よお。亜町真理」
「あんたが『◯ュリアナ東京』で踊っていた頃、あたしはここでひれ伏しているゲッツと組んで、暴走族の抗争を繰り返していた。そんな女が踊りの勝負であんたに勝てる訳ないよね」
「ふっ、その通りね」
「だけどっ! だけどな、仮にも名指しで勝負を挑まれて、受けて立たねぇとなると、女がすたるってもんだよなあっ!」
「ふっ、さすがは亜町真理」
「おらあっ! 勝負したらあっ!」
マリーは気合一発、お立ち台に飛び乗った。
©ありま氷炎様 狂拳マリー