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物語の零

〜プロローグ〜


存在とはなんだろう。存在する意味、理由。そもそもの「存在」の定理とはなんだろうか。

普通なら生きていれば存在する。そう思っているだろう。

「シュレディンガーの猫」これは多分、誰もが知っている有名な実験だ。簡単に説明すると、


ダンボールに入った生きているか死んでいるか、どちらも半分の確率の猫がいる。

しかし、箱を開けなければ猫が生きているのか、もしくは死んでいるのかわからない状態にある。

ならば箱の中の猫は、『半分死んでいて、半分生きている。』


それが、簡単な説明だ。このことから存在の証明とは、自分以外の他の誰かから観測されている必要があると考えられる。ならば反対に観測されていない、生き物、物は存在していない。そう言っていいのだろうか。

しかし誰からも気にかけられず、まるで「空気」のような人々は確かに存在する。


生きる意味も、理由もまだ理解せず現実をさまよう、

まるで生きる亡霊のような「空気」が。

本当に惨めだ。まるで俺のように。


「君はそんなことを考えて、何がしたいの?」


不意に声をかけられる。顔をあげるとそこには、女の人がこちらを見ていた。何故だろう、顔がよく見えない。


「なんなんだろうな。俺はいったい。いつから自己否定を繰り返すようになってしまったのか。だけどここまでくると、逆になれてくるんだよ。」


彼女は怪訝そうな顔(顔は霞んでよく見えないが)をする。


「そんなことに慣れてしまって、辛くはないの?私は多分、辛くて辛くて毎日心がすり減ってしまいそうね。」


そう。毎日毎日、心がすり減っていき、だんだんと感情というものが無くなっていく日々は辛い。


「辛いよ。だけどもう...ないんだ。」


「ない?」


「ああ。もうないんだよ、すり減るような心が。」


「...自覚があるなら、なぜ直さないの。治す努力をしないら、いつまでも君はっ!」


その声は何故か、今までより幼く聞こえた。それに感情が、気づいてくれとばかりに剥き出しになっていた。


「君は、...君の望みは



...」


霞んでいた彼女の顔が、ゆっくりと見えてくる。

あと少しで...

そこで、意識がなくなってしまった。いや正しく言えば、なかった意識が戻ったと言うべきか。




重いまぶたをゆっくりと開ける。ここは自分の部屋のようだ。時間は5時、少し早めに起きたらしい。

通っている学校は、東京都の京光高等学校。

ここから電車を使い、30分程度の場所にある。

朝の支度をすませ、妹を起こす。まだ起きそうにないので、先に朝食を用意して起きたら食べるよう手紙を添える。


駅から学校まで歩く途中、色々な部活が朝練か知らないが走っていくのを見た。その中の人達の顔は皆、ぼやけてしまってよく見えない。俺が彼らを普段意識していないからだろうか。

そんなことを考えながら道を進む。

その道の途中、1人だけ色濃く『存在』している少女がいた。後ろ姿しか見えないので顔は見えない。だがどこかで見た雰囲気だ。よく見てみると箱に入った子猫を可愛がっている。

初めましてなのだが、声をかけてしまった。

「その猫飼うつもりか?」

素直に聞いてみる。初めましてなのに、図々しい聞き方をしてしまった。

すると、ゆっくりと少女がこちらに顔を向ける。

もう少しで、顔が見える。もう少し...もう...少し...

途端、箱の中の猫が道路に飛び出してしまった。最悪なことにトラックがそこに通りかかっていた。

少女が猫を助けるため走り出すが、それより先に俺が動いていた。

子猫を跳ね飛ばし命を刈ろうとするトラックは子猫ではなく、

人を轢いた。



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