追い詰められた狩人
「クソッ、クソッ、クソッ!!」
三味長老は即座に行動を開始していた。
転がるように幻術のあった場所から距離を取り、近くの木を背にして周囲を探る。
手にはアサルトライフル。長い銃身にフルオートで引き金を引くだけで連射できる優れモノだ。
さっき撃ったことで残弾数は半分以下になっている。
洋館からの悲鳴は途絶えた。
静まった洋館は蔦が無数に生えている年代物のせいでどこか不気味に見える。
そして、その洋館の三階、そこに天井から逆さに張り付く女が窓にべたりとひっつきこちらを見つめている。
ホラー以外の何物でもない。
天井下りだ。あのクソ野郎が部隊を各個撃破しやがったのだ。
よくよく洋館内に視線を向ければ、天井から垂れさがった下半身や上半身だけ出されてぶら下がった状態で息絶えている仲間の姿が見える。
失策だ。
事前に自分たちが洋館に陣取ったことが漏れたのだ。
そうじゃないと説明が付かない。
あるいは、奴らの網に知らず引っ掛かり、自分たちが獲物であると知らずに獲物を待ちかまえていたのかもしれない。
そうだとすれば間抜けすぎる。
相手に天井下りがいることは事前に知っていたと言うのに。
そして奴は一班の中でも最有力次期室長と言われていた実力者。
彼女の仕事は班が違うので見たことは無かったが、正直今まで軽く殺せるだろうとタカをくくっていた自分が悔やまれる。
仮にも暗殺の第一線で活躍していた暗殺者。捕縛班の動きを調べていても不思議じゃないのだ。
さらに幻術使い、おそらく学園のクラスメイトだろう。
うわん、不落不落からの報告でどのような能力者がいるかは既に知っていたが、まさか気付かれていた上に自分たち全員を化かすような存在が居るとは思わなかった。
「隊長!」
「生還したか!」
まだ数人生き残っていたらしい。
慌てて出て来た捕縛部隊達に喜色を浮かべる三味長老。
しかし、その最後尾に向かい、何かが迫る。
「避けろっ!」
「へ? ぁ……」
ズブリ、喉に七枝刀が突き刺さる。
赤く長いモノが七枝刀に巻きついていて、一人屠った瞬間巻き戻っていく。
銃器をそちらに構える。
三人の女が居た。
「捕獲対象確認、殺せ!」
全員が即座に反応し高梨有伽に銃弾をブチ込む。
だが、三人の少女の前に現れる泥塗れの人型。
身体を前に出したそいつに阻まれ、銃弾は少女に当ることなく人型の体内で勢いを失う。
「なんだ? あれ……」
「泥田坊だッ! 泥の中だと弾の威力が削がれる、回り込め!」
三味長老の指示で数少ない仲間が森を通って回り込む。
「にょほほ、各個撃破じゃ」
木の葉がが舞い、森に入った男達を切り刻む。
「風尻尾じゃーっ」
葛之葉の妖術は何が来るか分かったものではない。
ゆえに、攻撃対象となった男達は木の葉の群れに襲われパニックになり始めていた。
彼らは妖対策班となっているが実質一般兵である。
妖能力は無くとも相手を殺すだけなら銃器を扱えれば問題は無いため三班の下部組織として組み込まれている。
ゆえに、彼らは妖能力で襲われた際、人以上の力でこれを切りぬける方法を持たないのである。
「ついでに土尻尾じゃ!」
地面がせり上がるようにして男達の足を縫いつける。
地面に掴まった男達が動けなくなり、切り刻まれて悲鳴を上げる。
一部がパニックになり銃弾をそこいら中にばらまき始めると、他の者たちへと伝播してハッピートリガー状態になる。
「あの馬鹿どもっ」
「他所見してる暇はないんじゃない?」
高梨有伽の言葉にはっと気付く。
彼女の舌が伸び、自分に襲いかかって来ていた。
舌には巻き付いた七枝刀。
撃ち返そうとして弾切れを起こしている事に気づく。
向こうはしっかりと確認済みだったようだ。
アサルトライフルを投げつけ剣撃を躱す。
飛び込むように左に避けて、木を背にして隠れる。
残っていた兵士の一人が首をやられて殺された。
あとこちらに残っている兵士は二人。自分を入れて二人だ。
そして生き残りの一人が七枝刀を受けて死んだ。
これで自分だけだ。
回り込んだ部隊も良いようにやられている。
完全に負け戦だ。
サバイバルナイフを引き抜き、毒づく。
せっかくチャンスが舞い込んできたのにここで無様に殺される訳には行かない。
高梨有伽を確保する。生死は問わない。生きたままの捕縛は無理だと分かっているから最初から殺して確保するつもりだったが、相手を殺すのも難し……
「はは。まだ終わっちゃいなさそうだなぁオイ」
顔を上げた瞬間飛び込んできた光景に、笑みを浮かべる。
「高梨有伽が居る、敵勢力は幻術と妖術を使う狐娘、泥田坊。屋敷の中に天井下りだ!」
そう叫んだ次の瞬間、森の中からやって来た後続部隊が銃器を構え走り込んできた。
「やばっ、葛之葉撤退っ!」
銃弾の雨が降り注ぐ。先程連絡したのだが仕事が速い。本部の動きに思わず安堵する三味長老だった。




