いつものボランティア
注文を確認しながら商品を持って行く。
手早く動く私の姿に店員も周囲の学生も思わず目で追ってしまっていた。
私だって出来ればやりたくないんだけどね、あまりにも手際が悪すぎるからっ。
仕方なく、仕方なくなんだからっ。
はいよパンケーキお待ち! これは私の、あとショートケーキ。
ほらよ来世。
「ちょっと、サボってちゃダメでしょ。動いた動いた」
「へ? え? あ、はい」
店員が慌てて動き出す。
二人になった御蔭でかなり余裕ができたおかげか、彼女の動きもかなりスムーズになっている。
やっぱり人が一気に来過ぎて戸惑ったせいで動きが鈍かっただけのようだ。
二人で捌いたおかげで直ぐに注文は無くなった。
私は制服を脱いで自分の座席へと戻る。
呆気にとられた皆が私を見ていたが、気にせずレモンティーをすすってパンケーキを食べる。
「そう言えば、高港でもあんたたまにファミレスでバイトしてたわね」
あ、刈華私のボランティア姿見てたのか。
「アレはバイトじゃないわ。ボランティアよ」
「え? お金貰わずやってたの?」
「グレネーダーは副業禁止だからね。一度手伝わされたらそのまま店員扱いされてたの。翼マジ殺す」
「翼……は確か志倉翼だっけ? 俺が聞いた話によればグレネーダーの危険妖抹消課だったかに所属してた筈だけど?」
「ええ。あの馬鹿金払わず出て行きやがってね、私が立て替えることになったんだけどお金無かったのよ。結局接客させられてことなきをえたけど、そのまま何度かシフト入れられてね。繁忙期には問答無用で借り出されるの」
「それは……」
「御蔭で職業病みたくなってね、ファミレスとかで忙しそうにしてる店員見ると手伝わなきゃって気持ちになる」
「良い具合に洗脳されてるじゃん」
「待って、つまり、ここでバイトして忙しそうにしてれば有伽に手伝ってもらえるってこと!? 何ソレ、誰得!? 私バイトしますっ」
「すいません。あんまり儲からないので家族経営なんです」
「ぐはっ!?」
申し訳なさそうに言う店員さん。ってことはこの店の娘さんなのかこの人。
「わざわざ手伝って貰ってすいません。これ、サービスです」
「あんがと」
無理に断っても相手が気に病むだけなので貰っておく。もともと私が勝手にやったことだし気にしなくてもいいだろう。
「しっかし、制服姿の有伽もアレはアレで……いいな」
「来世さんだっけ、あなた分かってるわね。ライバルだとは思ってたけど、本当に好敵手だわ」
「うん、有伽お姉様素敵でした」
視線が交錯する。
来世、小雪、亜梨亜の三人に何かしらの繋がりが出来た瞬間だった。
何だこいつ等? 気持ち悪いっ。
無言で握手しあうな。何分かってるような顔で同士よっ。とか言ってんの?
「んー、でも今更ながら確かに大変そうだよねー」
「この時間結構学生で込むしね……また大変そうだったら手伝った方が良いかな?」
「いやー、唯ぱいせんがやったら皿割りまくるっしょ」
「なんだとー」
三太郎の話を皮切りに、各所で手伝おっかみたいな話が持ち上がり始める。
ここからファミレス繁忙期には学生が有志で手伝うという変わった暗黙学校規則が生まれ、末永く実践されて行くのだが、それはまた、別の話である。
そしてこのファミレスは学生たちの憩いの場と化して行くのだが、それもまた、別の話であった。
「おお、そうじゃった。言おう言おう思っとって結局忘れとったわ。今思い出したから伝えとくぞ有伽よ」
「ん? くーちゃん?」
私が食べるのに夢中だったので変わりにヒルコが答える。
「うむ。七人同行と対決した屋敷があったじゃろ」
「あー、あのお化け屋敷みたいなの?」
「うむ。あそこな、妾の知り合いが隠し施設造っとった場所でな、確か、過去に戻る研究をしておったはずなのじゃ」
過去に、戻る?
私の手が止まったことに、皆が気付いた。
「それ、本当?」
「さて? 主の求めるモノと合ってるかどうかはわからんぞ?」
「そう……」
でも、居るのか、私と同じように、過去を追い求める奴が。
「そいつってなんでまた過去に戻ろうとしてんの?」
「うむ、それについては妾からは何も言えんのぅ、奴の妄執と言うべきか、未来を確定させるため? かの?」
小首傾げながら告げる葛之葉。
よくわかんないけど、とりあえず真奈香をもう一度救える可能性があるかもしれないってことはわかった。
行くだけ行ってみよう。
とはいえ、場所もまだ確定してないしあの屋敷調べなきゃいけなくなったけど。
時間はあるからゆっくり探そうか。
直ぐに見付かると良いんだけどね。
私達は軽食をしっかり堪能した後、学校に戻るのだった。
今日はデートとかしないよ。あとさっさと帰れ小雪。