帰り道の恐怖
軽音部を終えた私は帰路に着く。
と言っても雄也の部活が終わるまで暇になるだけなので時間潰しを考えるのだが、さて、海は行ったし山は行ったし。九月のこの時期暇を潰せる所はどっかあったかな?
「あーりか、デートしようぜっ」
「またか来世……」
ひょこっと校門傍から現れた男に溜息を吐く。
事あるごとにデートに誘って来るこいつの誘い、受けるか否か。
否、だな。あんまりデートとやらで行動しすぎると、気を許した瞬間ブスリと殺される可能性が高い。
今は私の警戒を解くことだけを考えてるかもしれないし。
「一昨日来やがれ」
「さすがに一昨日には戻れないなぁー。んじゃご一緒します」
ご一緒すんな。とはいえ、私の監視役だからデートうんぬんを抜いても常に近くにいるんだよな。面倒臭い。
「そこのイケメン、邪魔です」
げしっと来世の尻にヤクザキックという名の前蹴りを放ち、何食わぬ顔で私の横にやって来たのは射魏楠葉。
なんだっけ、確か殿とゆかいな仲間たち、だっけ? 止音君たちのチームの一人で、この島で私の監視役兼護衛をしてくれるらしい女の子だ。
「な、なんだよお前はっ」
ちなみに楠葉は本日腰元まである長い髪を縛ってツインテールにしている。
毛元というか、頭の方をぐるぐるっと筒状に縛ってあるらしく、ちょっと浮いた感じのツインテールである。
この髪型も可愛いな。毛の量が足りないから私には出来ないけど。
楠葉は紙パックジュースと思しき物をジュチュと吸いながらやって来た。
目が座っているというか、常時ジト目なのが何とも言えない。
世界全てに呆れているようにも見えなくもない少女だ。
お尻をさすりながら起き上がった来世。今の一撃で地面とキスしていたらしい。可哀想に。
とはいえ、咄嗟に両手で庇ったので顔が擦り剥くことは無かったようだが。残念。
怒り顔でやってきた来世を視線だけ向けて告げる楠葉。
「すいません、高梨先輩の護衛なので」
「ああ、有伽の護衛なのか、じゃあ仕方ないね」
良いのかそれで?
「確か、一年下のクラスに居る子だよね?」
「はい、そのうちお前を殺してやる女です、よろしく」
「え? お、おぅ?」
自己紹介に面食らった来世は私の元にやって来て耳元に小声で告げる。
「ちょ、有伽さんや、この子なに、恐いんですけど」
「護衛らしいんで」
私から言えるのはそれくらいである。
「おぉう。これはまた強敵出現か」
何の強敵だ?
「ところで高梨先輩、アレは排除対象に指定した方が良いですか?」
あれ?
言われて周囲を見回せば、向かいの家の壁に不自然に突き出た枝。
え? こいつじゃない?
じゃあ、道の先で不自然にこちらを見つめる黒い塊?
これも違う? いや、アレはメ○ェド様の黒い奴じゃないから。目も一つ目でしょ? ノウマだよ。
えーっとじゃあ……っ!?
背後を振り向いた瞬間だった。
電柱の影に隠れながらこちらを熱のこもった瞳で見つめる一人の少女……というか亜梨亜じゃん。
確かに不審人物だけども、私が歩くとササササっと動いて別の電柱に隠れてるけども、隠れる姿普通に見えてるけどもっ。アレはただのストーカーだから放置でいいや。
「では放置しときます」
「いやー、有伽はモテモテだねぇ」
「ついでにまだいますがあれはどうします?」
まだいるのっ!?
言われて探せば、民家の軒先からぶら下がってる土筆が見えた。
え? 彼女じゃない? 既に仲間認定してる?
じゃあ誰が……え? 私の後ろ?
振り向くが誰も居ない。って、後ろに回り込まれた?
来世が慌ててないから問題ないとは思うけど誰が……
ばっと振り向く。クソッ、これでも後ろに回り込むだと!?
この素早さ、まさか桃井先輩か、脛擦りだろ! え? 違う?
じゃあ誰だよ? ぴしゃぴしゃ聞こえないから觀月さんじゃないし……
「有伽、んーっ」
次に振り向いた瞬間だった。
タコのように唇をこちらに向けて迫って来る樹翠小雪の顔がドアップに。
「だらぁっ!!」
「げふぅっ!?」
思わずボディーブロー叩き込んでしまった。
浮き上がった小雪はその場に崩れ、直ぐに道の脇に這って行くと、その場で吐き散らしていた。
「ひ、ひでぇ……出会いがしらのボディーブローって……」
「こ、これも有伽の愛……げほっ」
すまん小雪。でもゼロ距離でキス待ちしているお前が悪い。
さすがに驚いたわ。というかヒルコ、気付いてたなら知らせてよ。
小雪だったから問題ないかなって思ったって? 問題大ありだろ。驚くって。
「俺にはしないでね?」
「あんなふざけた真似しなかったらね」
しかし、なんだこの帰り道。ストーカーが次から次に襲ってくるんだけど?
こんな帰り道嫌なんだけど、誰か変わってくんないかな?




