デートのお誘い
「有伽ー」
放課後、授業を終えて帰りの用意をしていると、窓を叩いて外から来世が声を掛けて来た。
葛城来世、ラボの暗殺班元三班の室長様である。
なぜか私の事が好きになったらしくてたまにやって来ては私について来る。
一応、本人は私を近くで観察するためだと言い張っているのだけど、土筆に探らせてみたところ、一班の暗殺部隊に連絡を取ってる感じじゃなかったらしい。
たまに離れてうわんという第二部隊の室長と会話しているらしいけど、うわんからの報告を聞くだけになってるみたいだ。
こいつ、本当に何のために私に近づいてるんだろうね。
もしかして本当に惚れたからってだけか?
さすがにソレは無いか。
「今日も暇だろ。デート行かない?」
「いいよ」
本当にやることなくて暇だったので了承してみた。
「やっぱり、残念。でも今日も付いて……ん?」
最近いつも同じやりとりで、私が断っていたので、今日もそうだろう、と残念がる来世。
直ぐに違和感に気付いたらしく鳩が豆鉄砲喰らったような顔をする。
どうでもいいけど鳩が豆鉄砲喰らったような顔ってどんな顔だろうね。誰か試した奴居るんだろうか?
あ、でも現代でそれやったら動物愛護法か何かに抵触して捕まるな。
「え? いいのっ!?」
「そう言ったけど?」
「うおおおおおおおおおおおおっ!! やったぁ!!」
ガッツポーズを突き上げ喜ぶ来世。
教室に残っていた面々がなぜか立ち上がってスタンディングオベーション。
お前ら何してんの?
しまいには涙流しておめでとーとか来世に賛辞を送りだす始末。
……やっぱ止めとこうかな。
別にデートしたくて了解した訳じゃなく、そろそろ来世が何か尻尾出さないかと期待してのことだ。
こいつの事だからありえないとは思うけど、もしかしたら罠張ってて私がのこのこ指定の場所に来るのを待ってて馬脚現す可能性だってあるんだし、そういうのは早めに調べておくにかぎる。
そもそも今までモテなかったのに、急にモテるなんてありえないのだ。
私としても信用できないから早急にこいつの本心がどこにあるか確認しておきたいモノである。
さて、ではデートという名の敵暴きと行きますか。
……
…………
………………
……変だ。
私はレモンティーを飲みながら小首を傾げる。
島唯一のファミレスは本日も閑散としている。
客は私と、対面に来世。
この二人だけである。
来世は定食を頼み、私はホットケーキで軽食。夜は迷い家で食べるので軽食にしたのである。
それはいいんだけど、変だ。てっきり人気のない場所に誘い出されて何人かの妖使いに袋にされて殺害、という流れだと思っていたんだが。
ワザと罠に掛かったと思わせて喰い破ってやろうと思ったんだけど。
ファミレスで食事って普通にデートじゃない?
この島で行けるデートスポットなんて少ないから基本食事がメインになり、食事はここくらいでしか食べれない。あとはラーメン屋とか飲み屋とか初デートで行くべき所じゃない場所だ。
来世を見れば、無茶苦茶楽しげに食事を始めている。
そうか、触りはデートっぽくして私が油断するのを待ってるのかもしれない。
きっとこの後二人きりと見せかけて罠に掛けるのだろう。
その為の最後の晩餐かもしれない。
この前うわんと二人で会ってた時に死んでくれとか言われてたらしいし。
土筆が言うにはどうも近いうちに捕獲部隊とやらが島に来るらしい。
奴ら、芦田たちに連絡受けたそうだし。
結局、ラボの潜入班が居たからこいつが報告しようがしまいが関係なかったから報告してなかっただけだろう。
時間の問題だったんだ。現に芹から報告が上がっていたみたいだし、そろそろこのぬるま湯での生活も終わりになるかもしれないな。
……
…………
………………
……おかしい。
沈みゆく夕陽を二人して眺める。
耳に届くのはザザァンとひいては寄せる波の音。
浜辺に座り、二人して海を眺める。まるでカップルのデートである。
……なんだ、これ?
普通にデートな気がするんだけど。
ねぇ来世、これって……
「うん? デートだけど、どうした?」
「え? マジデートだったの」
「というか、今まで何だと思ってたの!? デートって言ったじゃないか」
苦笑する来世に唖然とする私。
こいつ、本当にただデートしたかっただけなのか?
ヒルコさん、どう思います!?
「うん、来世君は有伽のこと好きなだけだと思うよ?」
私にだけ聞こえるように私の耳元で小さく告げるヒルコ。
マジか? マジでこいつ、敵なのに私に惚れたからって理由で報告してないってのか?
馬鹿じゃないのか? ラボの人間としてダメだろう。
私の来世に対する印象が、仕事ほっぽり出して恋愛するダメ人間にランクダウンしたのは言うまでもなかった。




