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プロローグ・愛しき者への鎮魂歌
むかしむかしのおはなしだ
二人の男がおったとさ
一人は真面目な働き者
一人は博打が好きな不真面目者
二人はある時連れだって
出稼ぎしにいったとさ
働き者は働いて、こつこつこつこつ溜めたとさ
不真面目者は博打に溺れ、一文無しになったとさ
真面目な男は同情し、同郷のよしみでお金をあげた
村へ帰ろう? 不真面目男を諭して言った
そう……だな 不真面目男は同意した
二人は連れ立ち村へと戻る
ほんとうならばそれでよかった
友情があれば不幸はなかった
けれど不真面目者は考えた
考えて……しまった
峠に掛かった頃のこと
真面目男を騙して襲い
金を奪って殺してしまった
だから、そいつは生まれてしまった
殺した者を憎悪する災厄の妖
だから彼は歌うのだ。
怨嗟を込めて、自分を殺した奴だけを……