エピローグ・水虎と蛭子の校内探査
私は窓を見ていた。
教室の喧騒が響く休憩時間。
居なくなった不落不落の妖使い芦田興輝に付いて様々な憶測が飛び交っている。
真実を知る者たちは比較的関わらないように苦笑したり、話題を変えたり。葛之葉くらいだろうか、自分も素知らぬ顔で参加しているのは。
まさか私たちに殺されたんだとクラスメイトに言う訳にも行かなかったようだ。
今回、ラボの影響がかなり浸透していることを再認識させられた。
おそらくだがここから先はお気楽モードでは居られないだろう。
そろそろ島を去ることを考えた方が良いかもしれない。
出来るだろうか、私に?
ヒルコはどうだろう?
昨日の放課後、二人きりで会った秋香の言葉が蘇る。
彼女は必死に考えた、考えて結論を出した。
私達が殺人者だと言うことは黙っていると、そして、自分はまだ納得できないけど、仲間たちを守りたいから協力をすると。
ヒルコに身体を任せていたので、彼女が握手したのは私じゃなくヒルコだったけど、秋香の協力を取りつけたのだ。
これでまた強力な仲間が出来たとも言えるし、不安定な蝙蝠が一人近づいてきたとも言える。
彼女の考え次第では私の敵になりかねない。
そうなったとき、私は秋香を殺せるか? いや、それは殺せる。
問題は。秋香を殺した瞬間。他のクラスメイトや後輩たちが私に殺意を向けて来るかどうかだ。
ラボに本格的に追われ始めた時にそんな状況になると……
やっぱり、そろそろ島を後にしないとダメかもしれないな。
そんなことを徒然と考える。
いくつものやるべきこと、やっときたいこと、理想、現実、確認、予定。様々な思考が過っては消えて行く。
平和な日々はまだ続いているのだ。
このまま埋没するのもいいような。できればこのままずっとここに……
そんなことを思ったりもしてしまう。
「有伽ー、どう思う?」
不意に、声が聞こえた。
為替梃が話を私に振って来たのだ。
よくわからないので仕方なく立ち上がり話に加わる。
ヒルコが喋り、私が笑う。
ここはヒルコの学園生活。
私はその補助をするだけだ。
穏やかな教室の風景。
チャイムが鳴って授業が始まる。
やって来る先生と慌てて椅子に座り始める生徒たち。
いつの日か、また、私もこの世界に戻れる日が来るのだろうか……
どこか、テレビ画面に映る光景を見ている気分で、私は一人、物想いに耽るのだった――――




