予想外の助っ人
「どりゃあぁぁぁぁっ」
「まだまだァッ」
……なんだ、これ?
不落不落が居なくなったと思ったらこっちがこっちでなんか凄いことになっていた。
両手両足に水で出来た虎の脚を纏い、迫り来る朧車を押さえては投げる水虎。
水虎に投げ飛ばされては人型に戻って距離を取り、朧車に変化してライト付けながら猛スピードで突撃する朧車。
二人とも相手が力尽きるまで闘うつもりらしく、既に雄叫び上げながら二人だけの空気を作りだしていた。
下手に手伝うのも気が引ける私達は暗闇の中ただただ二人の激突を見ているしか出来ないでいた。
私が襲われてない訳だしこのまま放っといてもいい気がして来たな。
「さすがにソレはどうかと思いますよ」
「うわっ」
背後から声が聞こえたので振り向けば、懐中電灯を顎したから点灯させて顔を照らす一人の女が暗闇に照らし出されていた。
マジビビッた。
さすがに音もなく後ろに居ない筈の人物がいたら驚くっての。
来ると分かってる肝試しの幽霊ならばまだ何とかなったが完全な不意打ちはさすがに驚かずにいる訳には行かなかった。
背後に居たのはツインテールに髪を縛った、眠そうな顔の女。
そいつの名は射魏楠葉。
静の妹さんである。なんでここにいるのかは聞いた方がいいんだろうか? 兄と同じストーカーだったら嫌だな。
「なんでいんの?」
「なんでとは酷いですね。チームからお願いされて貴女の護衛を影ながら仕方なく、本当に仕方なくしていたのですが」
「ああ、止音君が手を打ってたのか。まぁよろしく?」
「全く、敵を逃すとか止めてください。私の手間が増えますから」
あ、これはそつなくこなす系妹キャラか。
随分とあざとい小娘である。
ん? 私の手間が増えるって、もしかして……
「不落不落、もしかして」
「ええ、田んぼの奥底に沈めてやりました、田を返さない無法者には死あるのみ、です」
田を返せも何も芦田は田んぼに関しては多分無関係だと思う。
誰だ田を奪った奴。
そう言えばこいつの能力泥田坊だったっけ?
「泥田坊はもともと働き者の男の霊と言われてるわ」
いきなりどうした?
「貧乏な男が必死に耕した田んぼ、折角実って来たのに、これからって時に死んでしまった。息子は居たけど田んぼなんて放置で飲んだくれ、結局田んぼを売りに出してしまったの、するとよなよな田んぼに田を返せ、田を返せと一つ目の黒くしわがれたお爺さんの霊が……」
「あっそう……」
「と、いうわけで、田んぼ全て私の領域なのです。朧車殺しますけど、いいですか?」
「まぁ、放っとくと面倒だしやれるようならやっちゃって?」
「了解」
それは何度目、否、何十回目になるかといった時だった。
秋香が朧車を気合とともに投げ飛ばし、田んぼに落下した芹先輩。
直ぐに畦道に戻ろうとして、身体が動かないことに気付く。
あれ? と思った時にはずぶりと身体が田んぼの中へと沈み込む瞬間だった。
「え? な、何?」
「死んでください、生きていられるだけで邪魔なので」
ゆっくりと、しかし確実に沈み込む身体に慌てて朧車へと変わる芹先輩。
必死に動こうとするが車輪は空回りしながら沈んで行く。既に脱出できる地点を過ぎてしまっているらしい。
「う、嘘、嘘でしょ!?」
「残念ですが、ラボって私にとっても敵ですし、大人しく死んでください」
淡々と述べる楠葉。必死にもがく朧車が田んぼに沈んで行く。
本来そこまで入る訳もない田んぼは、底なし沼のように朧車を捕らえて放さない。
「クソ、クソッ」
「例え炎を操る不落不落だろうとも、重量を使ってぶつけようとして来る朧車であろうとも、等しく土の中に埋めてしまえば問題ないでしょ? 文字通り、畑の肥やしにしてあげる」
田んぼだから畑じゃなくないか?
どうでもいい事を考えながら断末魔を轟かせ沈んで行く朧車を見届ける。
顔が沈んだ後はもう何も聞こえなくなったものの、元々車などより巨大な御車だ。最後の最後まで沈むのはかなりの時間が掛かった。
「これで終わり、です」
「うーん、あまりに呆気なくて倒せたかどうか不安になるわ」
「と、というか、これって人殺しじゃあありませんのっ!?」
「人殺しではない、正当防衛。暗殺者相手だから殺さなきゃ殺される」
「いや、でも、でも……」
目の前で起きた衝撃的事実に困惑している秋香。
そう言えばこの中で殺人に付いて自分が殺したり仲間が殺したりを見てないのは秋香だけだな。
「ちょっと怖かったけど、なんとか撃退出来たみたいね」
「ようやく、有伽の役に立てた気がするよ」
ふぅっと息を吐く小雪。こいつは無理にこっち側に来なくてもいいのに。
「小雪がどうしてもあんたを助けたいって言ってたのよ。これで満足できたでしょ」
「全く、ここまでしなくてもよかったのに小雪」
「何よぉ、私のファーストキス奪っといて、ヤリ逃げは無しなんだから」
どういう理屈だよ!? ほんとこいつとは会話が成り立たないな。