事件の真相1
「で? 殺したんですか?」
「さぁ?」
「さぁ? なんで要領を得ないんです?」
とっちめるのメンドイんでヒルコと秋香にお任せすることにした。
「いやね、いつも通りにさ、この島周回しようって急いで走ったんだけどさ、丁度一階降りた時だったかな、出会いがしらに誰かに激突してね。あ、やっべ。と思いながらひき逃げしたの。だから本当に誰にぶつかったかとかは知らない。速度が速度だったから殺しちゃったかもとは思ったけど」
軽いなこいつ。
芹先輩はたははと笑いながら答える。
絶対に自分が悪いと思ってない顔だ。
しかし、ぶつかった、か。
私は視線を来世に向ける。
来世は的確に私の視線を見付けると、コクリと頷いた。
「えーっと、篠原君の死体に付いてだけど、確かに首の骨以外にも重量物に当ったような跡を胸に見付けたらしい。肋骨全てがひび入ってたらしいよ」
そこ重要だろ。なんで今まで言わなかった?
どうやらぶつかった拍子に首折って死んだと思われる。
「ん? となると、なんで体育倉庫に?」
「それが残った謎になるのか。芹先輩じゃないのよね?」
「違うねぇ、私は誰か殺しても相方が処分してくれるし」
そいつかな?
「で、その相方は?」
「名前は知らない、ただ能力が、アカ……あかり嘗め? とかそんな能力だったような?」
あかり嘗め? 垢嘗め? って妖の近藤か? いや、アレが妖研究所関連である訳がないだろ。むしろ捕まるの恐れてたし。
いや、芹先輩のことだしよく覚えてないだけかも。垢嘗めに近い妖能力の可能性もある。
妖能力が近い、ではなく名前が……あか……アカ……アカナー? 紅月彩音っ!?
いや、でも彼女は宇都宮先輩と共に遊んでいた筈だ。
でも、可能性があるとすればアカの能力名、アカナーは最有力候補だろう。
彼女が移動させた事を認めれば芹が犯人ってことで一件落着だ。
別に殺人者だからって捕まえる必要は無い。狂人とかでもないし、朧車はラボと分かっていれば問題は無いからだ。
一応私が堕としたと思うのだが、掴みどころがないからちょっと怖いところだ。
もしかしたら演技だった可能性もあるしな。
「どうします、また近藤先輩に聞いてみますか高梨先輩?」
「いえ、まずは紅月先輩を当りましょ、アカナーの妖使い。芹先輩が覚えてたのがアカまでだったから彼女の可能性は捨て切れない。それに近藤はラボの刺客っぽくないし」
「妖だったしねぇ」
来世がしみじみ頷く。
本当に、アレが敵だと言われても全く脅威に感じないな。
とはいえ、アカナーもそこまで凶悪な妖能力という訳じゃない。
「ちなみにノウマ達が隠した訳じゃないんですよね?」
私の代わりにヒルコが尋ねる。
尋ねられたのは来世。一応そんな話は聞いてないよ。と言いながら、私を見て小首を傾げる。
まぁ、かなり入念に私を見てたら違和感に気付くか。ぶっきらぼうになってる私と丁寧語のヒルコが交互に話してる感じだし。
「でも紅月さんだったら宇都宮さんと今日もファミレス行ってるはずだけど?」
「さすがに時間も時間だし明日聞いた方が良いんじゃない?」
「そう、ですね」
確かにこの時間になるともう帰ってるか。
仕方ない明日問い詰めることにしよう。
私が頷いたことで本日は解散となった。
皆が帰って行き、私と根唯と葛之葉は校庭で雄也が終わるのを待つ。
しかし、二人組のラボメンバーに朧車の芹先輩とアカナーの紅月先輩がいるとして、果たして顔見知りじゃないなんて可能性あるのか? パートナーだよな。
パートナーということなら二人とも何かしらの合図が行われるんじゃないのか?
よく考えろ。あの芹先輩がもしも嘘を未だに付き続けたとしたら、可能性はもう一人のラボメンバーが何か関わってたとしたら?
よく会う芹先輩の知り合いで、何度も会ってても不自然じゃない存在。
居るか、そんな人物? そんな……待てよ。もしかして、いや、可能性の段階だけど、あいつなら……
……
…………
………………
月が雲に隠れ、明りの無い道路は人の気配すらも押し隠す漆黒の闇に彩られる。
ホゥホゥと聞こえる梟の鳴き声、夏の終わりを悲しむ虫たちの声。
ぼぅっと、そいつは確かな灯りと共に現れた。
ひたり、ひたり、たった一人で。
手には枝についた一つきりの提灯。
お化け提灯は舌を出しながらぶらぶらと揺れる。
「やぁ、珍しいね高梨さん」
「ええ。こんばんわ、芦田興輝」
そう、一人居たのだ。
芹先輩と毎日出会っても不思議じゃない存在が。
ラボの刺客で、芹先輩の失敗を隠せる人物の可能性がある存在が。
「篠原が死んだわ」
「……知ってる。よく僕に辿りついたね」
「やっぱり、あんたが死体を移動させた犯人ね」
アカ……そう、灯りを持つ妖能力者。
妖研究所の草、それは田畑芹と芦田興輝の二人であった。




