勘違い
「思ったんですけど、犯人だとしたら隠すか逃げる、あるいは秘密を知った私達を殺しにかかるといった具合になると思うんですけど、でも暮阿先輩は逃げようとはせず、自分が殺したとは言わず、かといって私たちを黙らせようと殺しに来たわけじゃない。となれば、彼を殺したのはあなたじゃない」
「……」
少し驚いたような、困ったような顔をする。
「あー、もぅ、訳わかんない。私としてもよくわかんないのよ。昨日話があるってここに来たのに、居たのは哲の死体だし、首折れてるし、驚いて逃げだしたらもう一度来た時にはもう無くなってるし」
多分その無くなったのは来世が処理したからだ。
「まぁ、私としては哲が居なくなれば金持ちの彼と気兼ねなく付き合える訳だし、問題は無いからいいんだけどさ、もしかしたら犯人戻って来るんじゃないかってここに来たわけ。そしたらあんたたちが来るじゃない。いきなりこっちが犯人だとか言って来るし、嵌められた? って思うじゃん」
確かに偶然とはいえそのタイミングだと嵌められたと思ってもおかしくないな。
「死体についてはともかく、首を折られてたんだけどその辺りの恨み買ってそうな人物に心当たりは?」
「私と彼以外に居るのかしらね? 少なくとも私は知らないわ」
じゃああんたの彼氏は? と聞きたかったけど暮阿先輩は首を横に振る。
「金持ちの彼氏っていうけど実際は大人なのよ。だから学校にやって来ることはまずない。入ってきたら不審者だもの、流石に先生たちが黙ってないわ。それに社長なのよ。哲程度が何したって敵う相手じゃないからわざわざ殺す意味がない」
となると、犯行を行えるのは学校関係者の線が濃厚、しかし暮阿先輩である可能性は低い、か。
「あの、高梨先輩、どういう……」
「どうもこうもないわ。暮阿先輩はシロってだけ」
「シロ!? なんでっ!?」
「人を殺した様子がないの。私としては人を殺したことがあるかどうか調べるのは簡単なのよ。でも暮阿先輩には特有の怯えも臭いもない」
「臭いっ!?」
「おお、それは妾も感じ取ったぞ。こ奴はシロじゃなんじゃないかなぁーっと」
「思ってたんなら最初に言えよ」
「ふぉっふぉっふぉ」
葛之葉の野郎笑いでごまかしやがった。
「ところでの、ふと思ったんじゃが」
「何よ葛之葉?」
「あの死体、首は折れとったが首絞めた跡、あったかの?」
え?
と、一瞬思考が吹っ飛んだ。
だが、記憶を再生して見れば、確かに、折れた首はあった。
でも首を絞めた後は? 強力な腕力で首を絞め折ったならその跡があるはずだ。
だが、だが……
「来世、首周辺のこと、分かる!?」
「えーっとそうだね。確かに、強い力を使って締めれば喉が潰れてるだろうけど、それはなかった。僕は念力か何かで折ったと思ってたんだけど」
だから、妖術を操ると言われる呉葉を怪しんでいた。ということらしい。
しかし、暮阿先輩は人殺し特有の濁った眼をしていない。
むしろ、殺人者を探す復讐者の目をしている。
その違いは根唯を見てれば直ぐにわかる。
一見ただの小娘に見えるがその実瞳の奥が淀んでいる。
敵認定した相手はいつでも殺せるそんな意思が目に現れるのだ。
こればっかりは幾ら凄んで殺すと言ったところで芽生えるモノじゃない。実際に殺したことのある存在だけが分かる違いだ。
自意か事故かは関係ない、自分の手により誰かが死んだ、その事実が無意識に自身を苛むのだ。
当然、そんな苛むことを知らない存在も居る。サイコパスという奴だ。でもそういうのは根本的に分かりやすい。
そうだな、私のクラスで言えば根唯と葛之葉、あと縷々乃。
秋香のクラスなら刈華と楠葉だろうか?
三年は居ないけど二年に一人、田畑先輩が人を殺したことがあるくらいだ。
……あれ? ふと思ったけど視線合わしただけでこれが分かるならぶっちゃけこいつ等が犯人候補なんじゃ……
篠原が死ぬ前から殺人者と認識できていたのは根唯、葛之葉、縷々乃、刈華。いや、他の二人も亜梨亜の件聞いてた段階で瞳淀んでたか。
となると、楠葉と田畑先輩が容疑者に急浮上なんだけど……
楠葉は静の妹だって言ってたし、あっち関連でラボと殺し合いしててもおかしくない。
となると篠原を殺した犯人は……
いやいや、流石にそれは安直か?
それに怯えた様子もなかったし……
「一つ、いい?」
「まだ? 何よ?」
「田畑先輩と仲いいですよね?」
「仲が良いというより芹が構って来るだけよ。何? 何か文句ある? いや、今の状況で聞いて来るって……ない、ないわっ! そんなことある訳がないっ。私が哲と付き合ってたの知ってたし、振るってことも知ってたのよ! なんであいつが哲を殺す必要があるのよ!?」
あくどいってことは頭が回るってことでもある。
私が聞こうとした意味を理解した暮阿先輩が私に詰めよる。
「聞くのはこれから、でも、経験則から、人殺しは目を見れば分かる。いつからかは知らない、でも田畑芹は誰かを必ず殺してる」
襟を掴んできた暮阿先輩に面と向かって告げる。
ギリと唇を噛む暮阿先輩は、悔しげに呻くしか出来なかった。




