怪しい人物
宇都宮先輩と香月先輩はアリバイがあるようだ。
ミシゲーの所沢先輩はどうだろう? その後に本命と思しき大坊主の妖使い鋒鋩先輩がいる。
一般人と偽ってる存在も居るかもしれない、坂東先輩に川端先輩、小城先輩もか。
後は呉葉の皆木先輩、脛擦りの桃井先輩、朧車の田畑先輩がいる。
ここに怪しい人物はいるだろうか? 近藤を殺した人物は誰だろう?
二年生の中にいれば直ぐカタが付くんだけどなぁ。
「そうだなぁあちしは確か、勇ちゃんと遊んでたかなぁ」
「あ、ああ、そうだな」
坂東先輩が上ずりながら応える。
なんか怪しいなこの二人。
なんで互いに相手を見ずにこんなことを言ってるんだろう?
「俺は桃井と川端とでコンビニ向かって歩いてた時かな」
告げたのは一番怪しいと睨んでいた鋒鋩先輩。
まさかのアリバイ有りである。
「あそこ田んぼの真ん中だから行って帰ってだけで夜になっちまうんだよね」
「高校行きそびれた不良の溜まり場になってるけどコンビニはあそこだけだしね」
そんな危ない所行くなよ。なんかヤバいことに巻き込まれても知らないぞ?
「不良っても店の前でう○こ座りしてだべってるだけだしな」
「金奪ってもゲーセンすらないからたかってきたりはまずないし」
「煙草代せびられるだけだよな、ワンコイン持ってっとけば酷いことにはならないし」
田舎の暴走族だろ、なんか変なイメージしかわかないんだけど?
カラスマスクとかしてんのかな?
「私? 彼氏と一緒だったわよ」
「あれ? 暮阿彼氏居たんだ」
「ええ。最近ねいー男捕まえたのよ。すっごい金持ちでさ。玉の輿よ玉の輿」
皆木先輩が自慢げに告げる。田畑先輩がいいなぁ。と告げるなか、小城先輩が何か怯えるような顔をしていた。
どうした小城さん?
「あっと、私だっけ? えっとね、島一周してました」
「島一周!?」
「私の妖能力朧車だからさ、走るのが欲望なんだよ。なもんで島の端から端までぐるーっと、まぁ、一周じゃなくて実際は何十周なんだけどね。暗くなるまで走った後で不落不落の人が夜回りりし始めたら家に帰るようにしてんの」
まさか芦田の欲望がこの人の下校時間の目安になっていようとは。
「ちなみに、その人が休みだったりで来なかった時は?」
「暗くなったら自主的に終わるようにしてるよ。さすがに夜中走りまわるのは足元が危ないから」
ごもっともである。
さて、何やら狼狽中の小城先輩なんだが、ヒルコが視線を向けると、頼む、今は聞かないでくれ、といった顔をしている。
ふむ……
「小城先輩は?」
「あ、ああ、俺は日直だったんで教室の戸締りしたあと先生に日誌渡して、帰った。家だからアリバイは無い、ぞ」
自分の無実を証明できないから青い顔している? いや、そうじゃないな。何かある。
「ちなみに今日の日直は私だよ」
田畑先輩、それ不要な情報。
とりあえず怪しいのは三人、か。
ヒルコが篠原のことを言う前に私が口を出す。
「では、皆さん、長々お時間取らせていただいて申し訳ありません。これでお聞きしたいことは終わりです。ただ、申し訳ありませんが、所沢さんと坂東さん、小城さんは居残ってください」
あれ? 話が違うんじゃ? と付き添いの根唯と来世がこっちを見て来るが、私は無視しておいた。
今、残れと言われた面子を残し、二年生が放課後をそれぞれ自由に過ごすために去っていく。
全員がしっかりと居なくなったのを確認し、残った面子を確認する。
「さて、お三方にお聞きしたいのは、皆さんが隠そうとしていることについてです。何を隠しているのか教えてください」
「え? いや、でも……」
「お、お前らに関係ないだろ」
「……」
「関係あるかも知れないから聞きたいんです。こういう時隠すと無駄な疑い掛けられますよ」
私の言葉に顔を見合わせる所沢先輩と坂東先輩。
溜息吐いて、仕方ないと同時に呟いた。
「あちしら付き合ってんだけどね、昨日物凄い喧嘩別れしたのよ」
「あーその、そう言う訳であんまし昨日のこと突っ込まれたくないっつーか」
あーはい、そうですか。しょうもないなぁオイ、勝手に乳繰りあってろ。
「で、小城先輩はなんでまた怯えた顔してたんです?」
「え? あ、ああ。あんま人のプライベート告げんのは気が引けるんだが……」
少し口を噤みたそうに言って、はぁっと溜息を吐く。
「何を探ってんのか知らないけどな。ほら、皆木さんさ、金持ちの彼氏出来たつってたじゃん」
こっちも色恋沙汰かよ。
「実はさ、アイツ、付き合ってる奴が居るんだ。そいつのことどうなったんだろって思ったらちょっと可哀想でさ……」
「はぁ……」
誰それが付き合ってるとかどうでもいいし。
なんで皆そうやって色恋ばっか追い求めるのかね。
私には明日生存できるかどうかの方が重要なんだけど。
「篠原の奴、大丈夫かな……」
……って、ちょ、待っ!?




