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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 塵塚怪王
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被疑者A君

「近い……な」


「そ、そうですね」


 亜梨亜の家を聞いた後で実際現場に向かってみれば、近藤礼治の家はほぼ隣と呼べる場所だった。

 模白が怪しい人物を見付けたのがあの辺りだから、丁度近藤と亜梨亜の家の間。中間点辺りになる。

 怪しい人物は亜梨亜の家側から近藤の家の方角に向かったが、近藤の家に行くのではなく奥の方に隠れてしまったので向かったかどうかは定かではない。

 ただ、模白に見付かったから慌てて逃げた。と思えば、近藤礼治はかなり怪しい存在になる。


 チャイムを押してみる。

 はーい。と家から出て来たのは、件の近藤礼治であった。

 私達の顔を見るなり慌てて逃げようとしたので舌を伸ばして絡め取ってやる。


「ぎゃあああああああああああああああ!? なんで高梨さんも舌がっ!?」


 も? 私もってことは別の誰かもってことか?

 とりあえず玄関口出た辺りまで引っ張ってその場に投げ捨てると、私達自身で囲ってみる。

 葛之葉、来世、あんたら逃したりすんじゃないぞ。


「さて、一応聞いときましょうか。なぜあんなことをしたの?」


 呆れた口調で告げてやる。

 え? と亜梨亜たちが驚いた顔をしたが、近藤礼治の顔は青くなっていた。


「な、なぜ、僕だと……」


「はい言質」


「なっ!? 高梨さん卑怯だぞっ」


 そう叫びながらも、亜梨亜達の白い眼に気付いてはっと我に返る。


「ま、待ってくれ、違うっ、違うんだ。話を聞いてくれっ」


「いいわよ。逃げるつもりがないなら聞きましょう。でも次に逃げたら問答無用で潰す」


 コクコクうなづく近藤礼治。

 はぁっと溜息吐いてその場に項垂れる。


「別に亜梨亜ちゃんを驚かすつもりはなかったんだ」


「や、やっぱり、お風呂に侵入してた犯人って……」


「仕方無かったんだっ、禁欲してるところにふわっと風呂の熱気と共に垢の匂いがして、思わずっ」


 ん、垢?


「あんた、もしかして垢嘗め?」


「うぅ……そっす。垢嘗の妖っす」


 お手上げとばかりに両手を上げた近藤が告げる。

 そっか垢嘗の妖使い……ん? 妖?


「まぁ、妖怪にとっちゃ好物ちらつかされちゃのぅ」


「頼む、警察だけは許して下さいッ、研究所に連れて行かれちまうっ」


 こら、私の足掴むな。縋りつくなっ。止めんか変態。


「あんたなら分かるだろ、垢に塗れた掃除してない風呂場だぞっ! 垢塗れなんだぞ! その匂いが亜梨亜ちゃんたちが風呂入る度に香って来るんだぞっ、目の前に高級料理ぶら下げられて待て、なんていつまでもやってられるかっ」


 開き直るな、ああもう、面倒な。

 でも、私も分かってしまうんだよなぁ。

 とはいえ、ここで分かるとか言うと皆が最低と思っている状況だから私に飛び火しかねない。


「ちなみに、何年モノ?」


「た、多分だが、30年は洗ってねぇ」


 極上の垢室じゃないかっ、じゅるり。


「あの、有伽?」


 思わず涎を垂らしそうになって飲み込む私に気付いた根唯。

 なにしとんだ? と分かっていない顔をしている。


「で、嘗めていた、と?」


「あ、ああ。我慢できなくて、でも、綺麗にするつもりだったんだぞ、今まで凄い黴だらけの浴室だったから、見違えるようになるはずだったんだ、途中で見付かったから慌てて逃げたけど」


 うん、まぁ、気持ちは分かる。


「……お、女の子のお風呂で女の子の垢を舐めるなんて……」


「お、おい、落ち着くのじゃ。こ奴だってほら、妖の欲望は主もよう分かろう?」


 何か不穏な空気を察して慌てて葛之葉が亜梨亜を制止し始める。


「欲望は分かります、でも、生理的に許せませんッ」


 ぶわり、不意に危険を感じて近藤の襟首掴んで飛び退く。

 少し遅れ、箒の柄が近藤が居た場所に突き刺さる。


「ちょ、亜梨亜ちゃん、落ち着くべなっ」


「そ、そうですわ、妖能力使ってオシオキはやり過ぎですわっ」


「こんなのが家の近くにいたなんて、ずっと、ずっと良い先輩だって思ってたのにっ」


 亜梨亜の怒りに呼応して、箒がチリトリがバケツが、郵便ポストが植木鉢が、近くにあったあらゆる無機物が宙に浮かぶ。


「な、何だあれ?」


「亜梨亜の妖能力初めて見ましたわ」


「なんなの!?」


「彼女の能力は……【塵塚怪王】ですわ」


 めちゃくちゃ面倒そうな大物じゃないか。

 無数の無機物が襲いかかって来る。

 九十九神だったかの保護会の奴マンホール操ったりしてたけど、これはヤバい。


「なんで、高梨先輩はなんでそいつを庇うんですかァッ」


 怒り狂った亜梨亜は私まで対象に認識したらしい。

 クソ、めんどくさいことになったっ。


「有伽、こっちだっ!」


「来世?」


 まるで用意していたように走りだす来世。まさか、今回のを好機とみて私を罠に嵌める気か?

 いや、まぁいい。今は逃げるの優先だ。裏切るならその時は殺せばいいんだし。……はは、裏切る? 私は来世を仲間と認めてるのか? 馬鹿じゃないか自分。アレは敵だ。裏切るんじゃない。普通に敵対行動を起こすかどうかだ。信じられる存在じゃないって分かってるだろう高梨有伽っ。

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