中一の被疑者
残る三人にとりあえず名前と能力について聞いてみる。
鎹雫という少女は【枕返し】という妖能力らしい。パイナップル頭の少女はからから笑いながら名前を教えてくれた。
亜梨亜が一緒に居るからか、妙に気安く感じたのは私の気のせいじゃないだろう。
「次は私? 高梨さんですよね、兄がご迷惑掛けてます」
次に声を掛けた射魏楠葉。何故か知らないけど私の事を知っていた。というか兄? 射魏なんて知り合い居たっけか?
人違いでない? と聞いてみたのだが、楠葉の兄とは絶対に会ってるそうだ。
尋ねてみれば、名前は静というらしい。
兄で、静……射魏静……
あの変態、妹がいたのか!?
シオン君達変人チームの狙撃手、男の娘である静がどっかのビルで手を振ってる姿を幻視してしまう私。ちょっと思い出したくない存在思い出してしまった気分だ。
うん、彼女はシロだ。というかあいつらの一員で私を監視している存在と思った方が良さそうだな、私を知ってるってことはアレらとの繋がりが一応存在するみたいだし。
最後にこの教室唯一の男に聞いてみる。名前は鬼頭昴。妖能力は無いらしい。
なんだか悟った様な疲れた瞳をした彼は、溜息混じりに告げる。
「正直な話、俺もいい迷惑っすわ。唯一の男ってことでいろいろ気を使ってんすよ。体育の時とか一人便所で着替えたり、食事も隅の方で済ませたり、変に疑われないように目立たず目立たず生きてんす。それなのに垢嘗を模した犯罪者? として疑われる理由がこのクラス唯一の男だからとか、やってらんないっすわ」
いろいろと大変だったんだろうなぁ。
彼の辛さがしのばれると言うか……
一人しか男性が居ないというのもそれはそれで大変なようだ。
「まぁ、俺が言うのもなんなんすけど、犯人は別にいると思うっすわ。確か、今年上に上がった男の一人が常思慧さんのことよく見てたしなぁ、そいつじゃねぇですかね?」
去年小学校高学年だったってことは、私のいるクラスに存在する男子ってことか?
でも殆どの奴が私と一緒にアリバイがあるんだけど……
それに、居なかったのは全員妖能力がなかった筈……
「本当に貴方ではないんですの?」
「三枝さん、俺常思慧さんの風呂場に行くほど変態じゃないですし彼女にそういうの求めてねっす」
「ちょっと、それは酷くない。亜梨亜だってあんたなんて願い下げですわよ!」
「ええ!? そう言うつもりで言ったんじゃなくてですね、俺はただ犯罪は行ってないし常思慧さん相手に行うつもりはないっていう……」
「それはつまり、亜梨亜以外になら行うってこと!?」
「だからぁ……はぁ、もう好きにしたらいいと思うっすわ」
説明諦めよった。
うん、まぁ、やる気ない感じだしこれが夜中に天井張り付いてたらショックがデカ過ぎるわ。
私の本能的な物がこいつはシロだと囁いてる気がする。
「ヒルコ、とりあえず自分のクラスに戻ろう。そこも聞いておかないと」
「あ、そうだね有伽」
「ん? 今何か言いまして?」
「秋香さん、ワタシたちは一先ず中一クラスに戻りますが、どうなさいます?」
「当然、一緒に行きますわ」
私達は自分たちのクラスへと戻り、自分のクラスメイト達のアリバイを聞くことにした。
正直ありえないとは思うけど、いや、今はヒルコに任せよう。私は集まった情報を元に考える役だ。
戻ってきた教室には、皆が待っていた。
亜梨亜の事件に関して、自分達も話を聞かれるということで自発的に待っていたようだ。
ただ、三人だけ居なくなってるのが居る。
居なくなっているのは模白弘樹、篠原哲司、近藤礼治の三人だ。
全員妖能力を持たない一般枠だ。
話を聞いてみると、模白は母親の看病のため。と急いで、篠原はめんどくせぇから。と颯爽と、近藤は用事あるんで、とそそくさと去っていったそうだ。
とりあえず他のメンバーの話を聞いてみる。
妖能力が判明していて、私と一緒にいたメンバーは除外だ。
となると、容疑者は一般人となる模白弘樹、篠原哲司、穂高弘輝、近藤礼治、堂本小夜音の五人である。
そしてその中で残っているのは堂本小夜音と穂高弘輝の二人だけ。
堂本小夜音はサイドポニーテールの女だ。
無駄に長いポニーテールは象の鼻みたいにS字にカーブしている。
離島の田舎学園なのに彼女だけはギャル感が醸し出されているのだ。
両手首にはミサンガでいいのか? リストバンドの方が正解かな? ピンクのちょっとキラキラしたものを装着している。
スカートも短いし、黒目の中に星が見える気がしなくもない。
多分気のせいだと思うけど。
「つかさぁアリちゃん、アリちゃんの風呂場覗くとかマジ死ね案件だよネー。ってぇ、有伽と亜梨亜両方アリちゃんじゃーん。アハハハハハ」
うん、これは俗に言うパーリーピーポーという奴ではあるまいか?




