平和な日々・2
空から降りて来た小さな光の玉を大切に胸元へと抱き寄せる有伽を思い浮かべながら
脳内OP ホタルノヒカリ
脳内ED 大事な時間
軽快な音楽が響く。ドラムやら何やらは無かったけど、二人がギターを弾いてるだけでもそれなりに音楽として聞けていた。
梃と秋香の声をしばし聴いておく。
なんか、いいなぁこういうの。
もしも、ワタシが普通の女子中学生だったなら、もしかしたら彼女達に混じって軽音やるのもアリだったかなって思う。
でも、今の自分には程遠い存在だ。
「ごめん遅れた」
と、部屋に入って来たのはボーイッシュの少女。
そそくさと秋香の後ろにやってくると、なんか変わった楽器をセットし始める。
ピアノの鍵盤っぽく見えるけどなんかごちゃごちゃとボタンが付いていてハイテク感がある。
どうやらいろんな音が出せる楽器のようだ。
彼女が加わると、曲調が一気に変わり、ノリノリの梃と秋香が楽しげに歌い始める。
ワタシと根唯、そして踏歌はそんな二人の声に聞き惚れるのだった。
そして、曲が終わると、ふはぁっと二人揃って息を吐く。
ソレを見たワタシたちも知らず肩に入っていた力を抜いてふぅっと息を吐いてしまった。
「あや? そっちの人は初めましてだね、僕は福島騫音って言うんだよろしく。騫音と書いてさいねってね。変わった名前でしょ」
「え? ええ」
「あと妖は琵琶牧々。来年はちゅーがくせーです。よろしくっ」
「ええ、よろしく」
テンションが高い、そして厚かましい。
屈託なく笑う彼女は、すぐさまワタシから視線を離すと、次の曲の打ち合わせを始める。
なるほど、こうやって彼女等は和気藹藹と部活を楽しんでいるのか。いや、人数的には同好会と言った方が良いのかな?
「いやー、いつ聞いてもいいねぇ、元気が出るよ」
「凄いべな。お腹にずんずんって鳴り響くん初めてや」
「重低音ですわね。ドラムがあればもっと盛大にできるのですが、やりません?」
やってみたい気はする。でも、有伽の身体を動かしている段階だから殆ど自由に動かせないんだよね。
「今日は遠慮しとく」
「そうですか、仕方ありませんわね」
「今日は?」
秋香が残念。と告げると同時に、言葉の真意を読み取ったらしい騫音。
「ふふふ、それはつまり、いつか近いうちにやってみたい。そう言うことかなぁ」
にんまりする顔がなんとなくふてぶてしい。
「今は、身体が動かないので」
「梨伽は動きゆっくりだもんね」
「浜辺に打ちつけられていたせいじゃねぇべかな? もうしばらくしたら身体も戻るでねぇか? あと記憶も」
記憶自体は戻ってるというかワタシの記憶は普通にあるんだけどね。
有伽の記憶さえ戻れば、もしかしたらドラムできるかも?
ちょっと叩いてみたい気はするんだよね。
しばし軽音部でゆったりしたワタシたちは学校を後にする。
この後は暇になるので野球部が終わるまで時間潰しだ。
根唯と踏歌に付いてゆっくりと歩く。
もう少し早く動ければいいんだけど、ワタシの実力では外側から有伽の身体を操るのは骨が折れる。軟体生物化してるから骨はないけど。
「どこ、行くの?」
「よく時間潰してる場所」
「まぁ、島ならでは、だよね。ほい、到着」
少し歩いたところにあったのは砂浜。
学校が終わって暇になった学生たちもやって来て水遊びをしている。
「暇になったら海に入る。水着があればもっと楽しめるけど、今日は砂浜を歩くぐらいかな?」
「砂山作るくらいならできっぺよ」
「子供か!?」
「踏歌は水着無くても普通に素っ裸で海に入るでしょ。その間あたしは山作っとるし」
「私を変態みたいに言うな。誰も見てない時ならともかく男子共が跳梁跋扈してるここで脱ぐか!」
「えー、この前は普通に泳いでたっぺよ」
「あ、あれは、後から来たんでしょ馬鹿どもが。しかもあいつら私の全裸見てなんて言ったと思う!」
「あー……」
思い出したのか根唯が苦笑い。
「なんて、言ったの?」
「胸ないなぁ、男みてぇ。よ。ふざけんなっ」
「踏歌が怒り狂って樹木子発動しちまってな。男子達が吊るされて泣き叫びながら許し請うてだべな」
え? そんなことで妖発動しちゃったの!? それ大丈夫? 下手したら駐在さんとかやって来て始末されるんじゃ……
でも、二人はなんでもないいつものことだとからから笑い合っている。
「まー、折角だ、ちょっとここ座って海眺めっべな」
「はぁ……」
とりあえず、言われるままに根唯の隣に座る。すると逆隣りに踏歌が座って来た。
「こうやって海眺めてるとさ、こう、なんか水分補給したくなってくるのよね」
「妖の欲?」
「いんやぁ、欲望じゃないんだけどね。ほら、樹木子って木で出来てるじゃない。水分見ると補給したくなるのよ。あ、ちなみに欲望は血を飲むことね。家にパックで置いてあるから欲に負けることはまずないのだよ」
それはそれでちょっと怖い。輸血パックがぶ飲みしてる姿とか想像したくないなぁ。