折衷案
平行線だった。
私の主張はフェリーに乗って島を出る。そして本土で妖研究所本部を急襲する。
根唯の主張は自分が守る。この島に残って学校生活をし続けて居ればいい。
互いに互いを思う故に絶対に譲れない話し合いがそこにあった。
いつの間にか見送ってくれた筈の葛之葉まで近くにやって来て事の成り行きを見守っている。
なにやっとんじゃこいつらは。と呆れた顔でやって来て、さぁ? と告げる雄也と、私は有伽様に従いますわ。と完全思考放棄の土筆の隣で止まった。
「なんじゃな。結局、話の内容は有伽は巻き込みたくないから出て行く。根唯は巻き込んで構わないから傍で守らせろ。とそんな感じかの」
「元々根唯達は関係ないのよ。私の都合で巻き込む訳にはいかないでしょ」
「それが水臭いいうとるん。あたしらは足手まといにゃならんべや。有伽さんだってわかっとるだろ、雄也の迷い家があれば毎日ゆったりできる、あたしの幸運があれば不幸なことは起きん!」
「でも、私達は追われてる身よ。学校なんかに通ってれば隙が出来るし、あんたたちに死人がでる。屋良美織だって本当なら死ぬ必要は無かったかも知れないでしょ」
「屋良さんは有伽さんが来る半年前に踏歌に殺されとぅべ。有伽さんとは関係なか。むしろ、たぶんだけど踏歌が探しとったんはくーちゃんだっぺ」
あ、それはありそう。
「それはありそう。とかいう顔しとるな有伽よ! 妾だって七人同行に襲われた程度なら逃げ切る自信があるのじゃー!」
だからなんだって話だよね。
今は葛之葉の話をしてる訳じゃない。
葛之葉はむしろ放置でいいのである。
「でもさぁ、このままだと根唯も有伽さんも口論止まらないよな」
「なんぞ折衷案でもあればよいがのぅ」
「「折衷案?」」
そんなもん無いだろ。私は島を出てく、根唯は島に残れ。その中間ってなんだよ? 海に住めってか?
「そうじゃのー。たとえば……次の追跡者が来るまでは学校に残る。その追跡者相手に根唯が活躍するようならこの島で暮らし続ける。無理そうだと思ったら出て行く。なんてのはどうじゃろう?」
「なんだそりゃ。それって結局根唯たちを危険にさらすんじゃない」
「だから、あたしは危険にならんって。分かった。あたしはそれでええ。絶対に役だって見せる。だから、有伽さんはいつも通りに学校行って日常を送ればええんだ」
「無駄にパリピ属性よね根唯。はぁ……でも……」
「あ、あの、有伽……」
不意に、ヒルコが口を出す。
「ヒルコ?」
「その、もしも、もしも許されるなら……もうちょっとだけ、ワタシ……」
はぁ……ったく、私に許可求める必要無いじゃない。いや、でも私が居なくなるとここにヒルコの妖反応が残るってことか。仕方ない、本当に仕方ない。
「分かった。でも次の追跡者が来るまでよ。それで無理そうならそこで終わり。土筆、悪いんだけど防衛戦でお願い、最悪囲まれる可能性もあるから脱出法も同時に調べておいて」
「はい、有伽様。お気を付けてくださいまし」
「妾が提案しておいてなんだが、よいのかの? 下手したらそなた詰むかもしれんぞえ?」
「そうなったらそうなったよ。志半ばで死ぬだけ、ね。せいぜい相手に深手を負わせてやるわ。あと、例え暗殺班に利用されたとしても私は見捨てて諸共殺すからね」
「えげつないのぅ」
当然だ。人質とかになってしまったからといって私が遠慮するなんて思うな。既にそう言うのは高港市に置いて来た。
人質が出来たら諸共殺す気で相手を倒す。
そこで死んだら線香ぐらいは上げてあげる。
「んなら、今日からはまた学校やな。昼からなるけど授業でよな」
「死闘繰り広げた後に授業って……まぁいいわ。ヒルコ。授業中とかはあんたに任せるから身体よろしく」
「えぇ!? 折角裏方回れると思ったのに」
「あんたが学校生活続けたいって言ったんでしょ。今までよりは動きやすくしてあげるから授業やら何やらは貴女に身体貸してあげる。学校生活とかそういうの、私にはもう無縁のモノだから」
そうだ。私には無縁のもの。真奈香の居ない学校なんてもはやどうでもいいモノだ。
だから譲ろう。この学園での生活は、ヒルコ、あんたのモノだ。
「なんぞ、さっきまでの言い合いが嘘のように即行決まったのぅ」
「有伽様の即断即決。素敵ですわ」
「えーっと、それで、どうなったの?」
とりあえず雄也はあとで殴った方が良いかもしれない。
今の会話くらい聞いとけよ。
本当にこいつは話聞いてないな。
「んだば、帰ろうか有伽さん」
笑顔で告げて、私に手を差し伸べる根唯。
取ろうとして一瞬止まる。
なぜだろう、微笑む彼女が一瞬、たった一瞬だけ、真奈香に見えたのは……?
少女の手を掴み、私は再び歩きだす。
この島に、もう少しだけ居るために。
追われている身の私を受け入れると、居場所を作ると言ってくれた、この少女の為に。
願わくば、彼女の想いを踏みにじる者が現れない事を願って――――




